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寒雷遠からず


これは一種の、任務ってやつだ。


はんじ、と呟いたリヴァイさんは、すぐに動いた。ポーチから出て机の下へ降下。そのまま、ちまちまこそこそとポニーテールの小人さんのところへ向かおうとした。向かおうとして、失敗した。
この講義室の机は、段になっている。つまり本来なら、机脇の階段状になっている道を歩かなきゃいけない。
その通路に。
荷物が、どーんだ。

人が通るなら持ち主も避けてくれるだろうけど、何せ相手は16センチ。気付くわけがない。
そしてリヴァイさんも、のぼろうか迷ったらしい。ちらり、と私に視線が寄越された。

――そりゃあ、もう…


「ダメです」


いまやるのは、自殺行為ですよ。
ちょいちょいと小さく手招きすれば、またちまちまとことこと戻ってきた。まるでロッククライミングのように机をのぼろうとしているリヴァイさんを、下から掬いあげる。まぁこれくらいなら、消しゴム落としたのかなと思われるくらいで済むでしょ。

机に着地したリヴァイさんは、くい、と、私の服の裾を引っ張る。首を傾げていれば、そのまま前を指差した。


「ハンジ」
「お知り合いですか?」
「同僚だ」
「あぁ、やっぱりお仲間さんですか〜」

ハンジ、とまた呟いて、リヴァイさんはハンジさんの方を見る。何か気になるものを見つけた時の子供みたいだなぁなんて、思う。

それにしても、どうしようか……リヴァイさんがどうやって来たのかも結局わかってないし、ハンジさんて人も、何で学校?
もしかしたらリヴァイさん同様、誰かの家に住みついてて、ここに遊びに来たのかもしれないけど…うーん、その場合は、家主さんが回収しそうなものだよね?


「……」
「……どうしましょうかー」

ちょいちょい、と私の袖を引っ張り続けるリヴァイさんに、困りましたねーと返す。
これは、もう、仕方ない。何かあってからじゃ遅いというのはよく聞くことだけど、今回は何か起こらない限りは保留しよう。
授業が終わったら、すぐに行きましょうね。
リヴァイさんにそう言えば、こくりと小さく頷いて、ポーチに戻っていった。





……のが、間違いだったかもしれない。





「え、ちょ、ちょっと、ハンジさんどこですか!?」
「……」


い、いない…!
そわそわするリヴァイさんを突っつきながら、授業が終るのを待った。そして授業が終ると同時にハンジさんの元へ向かったというのに…!

(授業終わってから、一分も経ってないよ…!?)

行動早すぎじゃないですか!
動揺に動揺を重ねてわけわからなくなってきた。私の髪に隠れて肩の上にいたリヴァイさんに、落ち着け、と宥められる。


「ふ、踏み潰されてたり…!」
「しねぇな」
「何でわかるんですか!?」
「巨人がわらわら歩いてる中、一人でその中入るわけねぇだろ」
「えええ?」
「…たぶん」


おい、いまの、聞き逃さなかったぞ…!
けど、リヴァイさんの方が心配なはずだ。そわそわしてたし。ここに来てから多分、初めて会えた仲間のはずだし。
落ち着こう。私がリヴァイさんに落ち着かされてどうする。私がリヴァイさんを落ち着かせて、安心させなきゃならない側だろうが。


「す、すみません…大丈夫です」
「…何がだ」
「えと……巨人、なんでしょ?確かリヴァイさん達を食べるんですよね?だったらまず、あんなキラキラした目で授業見てないだろうし…」
「…ハンジは、巨人好きだ」
「でも、巨人がわらわらいたら、入らないような人なんでしょう?」
「……」

言いながら、はっとした。
そうだ。それならおかしくないだろうか。警戒するか逃げるか、立ち向かってみるか…色々考えられるけど、一緒に授業を聞くはずがない。
じゃあ、さっき思ったように、家主さんが連れてきたか?それも多分、ない。私たちが一番乗りでハンジさんのとこに行ったから。
となると考えられるのは…


「……これが初めてじゃ、ない?」


リヴァイさんと、顔を見合わせた。
もし、今日が初めてじゃなくて。
ハンジさんが、私たちはハンジさんたちを食べないということを知ってて、
これが授業で、毎日同じ時間に始まって、
同じ時間に終ることを、知っていたら…?

授業終了後に巻き込まれないように。
早めに退散しないだろうか?


「……リヴァイさん、」
「あぁ……頭は、悪くねぇやつだ」


リヴァイさんも気づいたらしい。
つぎ、捕まえるか。
そう呟いたリヴァイさんに、無言で頷いた。

どうやらこれは、重大なミッションになりそうだなぁ。
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