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私は納得出来ない
―――目に光が入って目が覚める。徐々に聴覚も冴えてきて、ざわざわと風で木が揺れる音が聞こえてきた。
それと同時に、チャイムの鳴る音。
「昼休み終わったよ、赤也」
誰かの手が目の上にあった俺の手をどける。一気に眩しさが来るんじゃないかと思って目をぎゅっと瞑るけど、眩しさは一向に来ない。それどころか、さっきより眩しくない。
ゆっくりと瞼を開けば、誰かが俺を覗き込んでいた。
俺は―――いや、こいつの目を通して俺が見てる、俺は。
嬉しそうに笑ってその誰かに手を伸ばした。
「……おはよ、名前」
柔らかな髪を手に取って、滑らせる。ふふ、と笑った誰かは抵抗する気はないらしく、俺の頭を軽く撫でた。
寝起きの独特のダルさでゆっくりと起き上がれば、逆光で顔が見えなかった誰かの顔が、よく見えた。
「五時間目、英語だったのに」
馬鹿だなあ、なんて言って、女子の制服を着た彼女は、言う。
その、姿は。
「起こしてくれって、頼んだじゃん」
「起こしたよ。でも赤也、起きないんだもん」
「それ起こしたって言わねーよ」
ふああ、と欠伸した俺は、彼女を手招きして呼び寄せる。彼女はきょとんとした顔をしながら四つん這いのまま近付いてきた。
その腕を、引っ張って。
「うわ!」
「ひひ、あったけー」
ぎゅう、と。腕ん中に閉じ込めた。
広い屋上の、入り口裏の日影で。
誰に咎められる事もなく。
「名前」
「んー?」
「好きだよ」
抱き締めたまま顔も見ず、言う。
視界に入る横顔を見れば、いつも以上に赤い耳が見えた。
「……赤也って、唐突だよね」
「今無性に思ったから言った」
「……そ」
「おう」
「赤也」
「ん?」
好きだよ。
小さく呟かれて、抱き締め返された。
珍しく素直な態度に、愛しさが広がって、自然と頬が緩んだのがわかる。
知ってるって答えていつもよりきつめに抱き締めてみたら、嬉しそうに笑ったのが聞こえた。
調度いい高さにある頭を撫でて、髪に手を滑らせても、やっぱり彼女は抵抗しない。
「あのさ、名前」
「なに?」
「今度の日曜、部活、休みなった」
「うわ、良かったね!」
珍しい休みに、名前は自分のことのよいに喜んだ。
けど、俺はそれだけで終らせる気はなかった。
「そんでさ」
「うん?」
「先輩に、映画のチケット貰った」
「何の?」
「何でもいいらしいぜ。無料券」
「へー!先輩、太っ腹だね」
「丸井先輩だから」
「それ、失礼だよ」
名前にも性格にも負けず太っ腹な先輩……丸井先輩は。
ペアチケット使える知り合いなんて、お前しかいねーよぃ、とか言ってた。
会う暇も殆どないのに、健気だよな、とも。
―――そりゃ、そうだっつの。
頭ん中で先輩にそう返す。こんな愛しい奴が、他にいてたまるか、と。
「で、だ」
ここまできてもまだ話が読めてない名前がまた可愛らしくて、いや、察しはいい奴なんだけど。日曜は休みになっても大抵俺が休めるようにって、こいつ身を引くから。
きっと、あんまないから、思ってもないだけで。
「行こーぜ」
「え?」
「映画。今度の、日曜に」
目ぇまん丸にして、名前は驚いた。やっぱり本当に、何も察してなかったらしい。
「い、いいの?お休み、だよ?」
「何で?」
「何でって…疲れて、ない?」
「お前いれば、俺幸せだから」
行こーぜ。もう一回強く言えば、名前は困ったように笑った。それでも、十分嬉しそうに。
休みでも、疲れてても何でも。
お前になら、あげれんのに。
「……行く」
「ん」
ふにゃっと、照れたように笑う名前を抱き締め直して。
五時間目が終るまであと40分。
もう一度、意識を沈めた。
――――なぁ。
お前、何で気付かねぇの。
沈む意識と浮かび上がる意識の中間で。
そう、言われた気がした。