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だから


ぱちり。

目が、覚めた。

時計を見ればまだ五時半。今から二度寝しても十分な時間だ。鳥もちゅんちゅん鳴いてるし、朝日も眩しい―――現実だ。

「…なんだ……今の………」


―――夢、だよな?

手に残る温かみ。感触。声。風の匂いに、木の葉が揺れる音。夢独特のどっかぼやけた感覚なんて一切なくて、あまりにも直接的なものだったら。ダイレクトに五感に入ってくるのは夢じゃない。そして、夢とした場合にはこんなに記憶がハッキリ残ってのもおかしく感じる。
何もかもが、リアル過ぎる。
どくどくと心臓が鳴って、妙な汗が全身から溢れる。知らない内に呼吸も荒くなってる気がするし、確認したにも関わらずまだ夢の中にいるような、妙な錯覚がある。

――夢にしちゃリアルだ。……まるで本物。

もう一度頭ん中で出した結果はそれだった。だけどそれにはまた大きな相違点がある。何故ならそれは、現実じゃあり得ないことだから。
まず第一に、俺の行動が俺の意思に反してるし、俺はずっとあの夢の中の俺の目を通して見てた。感触も全部俺には伝わってきたけど、それはやっぱ俺じゃない。上手く言えないけど、俺じゃない俺、みたいな。
それに俺には彼女……だよな、あれ。まぁ、なんかそんなような人は居ないし、先輩が怖いから授業サボるのもやめてる。そりゃ、確かに一年の時には何回かやったけど、今はやってない。それから、丸井先輩に映画のチケットなんか貰った記憶だってない。
あと細かい所でいけば―――いや、全然細かくねぇよ。これ。よくよく思い出してみたら、これはかなりの違いだろ。

―――立海じゃ、ない。

屋上の風景も、俺が着てた制服も。立海とは所々似てはいるけど全然違う。別物だ。
それは多分決定的で………でも、じゃぁ。
何で。

「………苗字サン、が…?」

ばくばくと、さっきとはまた違う心臓の早さ。冷静になろうとしても収まる気配なんてなくて、夢の中に出てきた彼女が頭を過る。それだけで全身熱くなってく感じがして、自分でも顔が赤くなんのがわかった。

夢で、彼女として、なんて。

まだ。まだ、さ。仲良くなった夢とかなら、わかるぜ?だって仲良くしようと思ってたわけだし、嫌われてっから逆にそういう願望が出たとかさ。そういうのなら、ほら、あんじゃん。夢の中の苗字サンよく笑ってたし、そっちの方がそりゃいいに決まってんじゃん。笑顔、似合うし。
でも、彼女設定とか………え?
心臓からいっそ血が逆流してきてんじゃないかと思うくらい、よくわかんないもんが込み上げてきてとりあえず枕を引っ付かんだ。そして、一応早朝だし家族寝てるしっていう所では冷静だったのか、枕をばしばしと叩く。内心的には、だあああああああああ!!みたいな感じ。何これ恥ず!
枕に顔を埋めて、息を止めた。ちょっとは冷静になるんじゃねぇかと思ってやったんだけど、苦しくなったから一気に息を吐いて、新しい空気を吸う。あ、こっちの方が冷静になれた……。

お前、何で気付かないの?

夢から浮かび上がる瞬間、誰かに言われた気がした言葉。何に、とはそん時思ったけど、起きてみたらそれ所じゃなくて今やっと思い出した。けど、今その意味を考えたら。

「少女漫画じゃ、ないんだからさ……」

何、俺……枕と布団抱き締めて赤くなって苗字サンの事考えてるとか、何。変態にもとれるけど俺断じてそんなんじゃないから、まぁ、その、何?恋するなんちゃらみたいな感じだよなうわ俺気持ち悪!
ぞわっと鳥肌立って布団を投げ飛ばす。今いきなり動いたからか恥ずかしさからかよくわかんないけどまた心臓は早く鳴って……朝から妙に疲れてる気がする。
そもそも、だ。夢でなんかよくわからねぇ設定になってただけで、現実どうかは別物じゃん?確かによ、明らかにさっきから俺がやってるのって、その………苗字サンが、好き、みたいな感じだけど。違うかもだろ?夢の余韻とか影響なだけでさ。
自分を勝手にそう納得させて、布団を拾い上げて潜り込んだ。よくわからないことは、後で考える。起きて冷静になった時にまた考えて、そんで、まぁ、答え出しゃいいんだし。
学校行けば……苗字サン、いるし。

――あぁでも……嫌われてるんだった。

重くなる瞼に逆らわず、身体の力を抜いて。
そんな事を思いつつも―――過ったのは、綺麗に笑う苗字サンだった。
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