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そんなものに
好きだよ
柔らかな声が、聞こえた気がした。
「――んでよ」
仁王立ちして俺の前に立つのは丸井先輩。仁王立ちだかと言って仁王先輩なわけじゃない。制服に着替えてラケバ背負って余裕綽々の先輩に対して、俺は今せっせと着替えてる所だ。
なんすか?と時間はあんまないから顔も見ずに言う。まぁ元から着替えてる時は顔なんて見ないで話してっから、特に変化とかがあるわけじゃないけど。
「お前、どしたの」
「へ?」
「一昨日はよくわかんねー遅刻に、元気なしで不調子。昨日は異常なまでに早く来て、いつも以上の調子のよさ」
んで、今日はいつもみたいに遅刻した割に、超ご機嫌。
う、と言葉が詰まってあーだのうーだの言葉になってない言葉を吐き出す。だって、だってだ。気分で変わったりって結構よくあるし、寧ろそれが常で。だからこそ丸井先輩がわざわざ聞いてきたって事は、それ差し引いてもおかしかったって事で…………けど、でも。
その辺りの変化って…。
「好きな子でも出来た?」
「はぁ!?」
「冗談」
ケラケラと楽しそうに笑う先輩を睨み付ける。そんなんじゃねーっつの!
さっさと着替えて教室行ってやる、と溜め息ついて先輩を無視。これ以上話してても仕方ねぇじゃん。調子だとか、別に―――昨日ちょっと、仲良くなったし。
いんだよ。嫌われたらさ、気になるだけなんだから。好きだとかそんなんでもないし、このままもうちょい仲良くなったらホントに何も気にしなくなるから。
丸井先輩が笑いが収まったらしくじっと見てきた。苗字サンのじっと見つめんのとは、また違う視線。
……なんか、違和感。
「赤也」
「なんすか?」
いつの間にか座ってたのか、近くにあるパイプ椅子で足に頬杖つきながら先輩は口を開く。
何かはわかんないけど、先輩の真っ直ぐ見る目は何回も見たことがある。それは、時折先輩達が喧嘩したり行き詰まったりした時には特によく見る目で。他は………悩んでる時とか、そういう時で。
ふざけてるようでしっかりしてんなって感じる時。長男だからかなぁとは曖昧に思ってたけど……あぁ、そっか。
多分、先輩の視線は―――
「逃げんなよ」
見透かしたような、視線なんだ。
不思議と先輩の前ではさらけ出される感じがするくらいに、心の内読まれてるかのような、視線。
ただし……今の場合はよくわかんない。何に逃げるのかもそうだし、もしくは単純に今の話題からって意味なのか。それとも何か、予知じゃないけど、なんか感じてんのか。
「逃げるも、何も……」
「ん?」
「もう、解決したんで」
大丈夫っス!なるべくいつも通り、元気よくいったつもりだった。丸井先輩はそーか。んじゃもしなんかあったらいつでも相談しろよ、なんて言って立ち上がる。はいはいなんて相づちは打ったけど、相談は多分、しない。
「! ちょ……何するんスか!!」
「いーじゃん。お前髪ぐしゃぐしゃにしても大差ないし」
毎朝ちゃんとセットしてるって何度言ったらわかんだ、この人!
ぐしゃぐしゃに撫でなれた頭をぶんぶん振って、さっさと部室から出た。丸井先輩は部室の鍵閉め!って叫んでたけど、残ってた先輩が悪いし、俺管理悪いからっつって逃げる事にした。
今日も、笑ってくれっかな。
よくわかんない気持ちは今も占拠してて、教室行くのが、苗字サンに会えんのが楽しみな自分がいる。それはまるで初日に話しかけた時みたいにわくわくした気持ちで、昨日までの落ち込みムードは全くなかった。
仲良くなったって。
勝手に、思ってたから。
「苗字サン、おはよ!」
教室までを意味なく走っていれば、最近見かけるようになった、けど間違えることのない後ろ姿が見えた。
普段は俺の方が着くのが早いから待たなきゃだけど、今日は遅刻して走ってたせいでいつもよりちょい遅め。時間が被ったらしい。
ぴたり。
突然止まった彼女に、後から追いかけてきていた俺も立ち止まる。
どうかしたのかと話しかけようとすれば、小さく言葉が聞こえた。
「え?何?」
聞き返しては見たけど、苗字サンは俺の方を見向きもしなかった。え、って戸惑う暇もなくスタスタ行っちゃうし、話しかけてもガン無視。
―――まるで、俺なんか居ない、みたいで。
勘違いしてるよ
昨日何度も頭をフラッシュバックした言葉が響いた。
ぴたりと、止まったのは俺の足。
私は、君が嫌いだよ
拒絶するかのように見せた目が頭に浮かぶ。俺を知ってる口振りで、俺の全てを否定するような目。
―――嫌いって、感情は。
すぐには消えない……って事かよ。
もやもやした感情が広がってく。苗字サンの言葉にも態度にも一喜一憂して、けどそれでも関わりたいと思う俺はなんなのか。
嫌いだって言うなら、せめて理由くらい教えてくれたっていーんじゃねーの。
頭ではそう思うのに。
それすら、聞く気にもならないなんて。
なぁ、教えてくれよ。
――俺はアンタに、何かしたのか?
- 9 -
柔らかな声が、聞こえた気がした。
「――んでよ」
仁王立ちして俺の前に立つのは丸井先輩。仁王立ちだかと言って仁王先輩なわけじゃない。制服に着替えてラケバ背負って余裕綽々の先輩に対して、俺は今せっせと着替えてる所だ。
なんすか?と時間はあんまないから顔も見ずに言う。まぁ元から着替えてる時は顔なんて見ないで話してっから、特に変化とかがあるわけじゃないけど。
「お前、どしたの」
「へ?」
「一昨日はよくわかんねー遅刻に、元気なしで不調子。昨日は異常なまでに早く来て、いつも以上の調子のよさ」
んで、今日はいつもみたいに遅刻した割に、超ご機嫌。
う、と言葉が詰まってあーだのうーだの言葉になってない言葉を吐き出す。だって、だってだ。気分で変わったりって結構よくあるし、寧ろそれが常で。だからこそ丸井先輩がわざわざ聞いてきたって事は、それ差し引いてもおかしかったって事で…………けど、でも。
その辺りの変化って…。
「好きな子でも出来た?」
「はぁ!?」
「冗談」
ケラケラと楽しそうに笑う先輩を睨み付ける。そんなんじゃねーっつの!
さっさと着替えて教室行ってやる、と溜め息ついて先輩を無視。これ以上話してても仕方ねぇじゃん。調子だとか、別に―――昨日ちょっと、仲良くなったし。
いんだよ。嫌われたらさ、気になるだけなんだから。好きだとかそんなんでもないし、このままもうちょい仲良くなったらホントに何も気にしなくなるから。
丸井先輩が笑いが収まったらしくじっと見てきた。苗字サンのじっと見つめんのとは、また違う視線。
……なんか、違和感。
「赤也」
「なんすか?」
いつの間にか座ってたのか、近くにあるパイプ椅子で足に頬杖つきながら先輩は口を開く。
何かはわかんないけど、先輩の真っ直ぐ見る目は何回も見たことがある。それは、時折先輩達が喧嘩したり行き詰まったりした時には特によく見る目で。他は………悩んでる時とか、そういう時で。
ふざけてるようでしっかりしてんなって感じる時。長男だからかなぁとは曖昧に思ってたけど……あぁ、そっか。
多分、先輩の視線は―――
「逃げんなよ」
見透かしたような、視線なんだ。
不思議と先輩の前ではさらけ出される感じがするくらいに、心の内読まれてるかのような、視線。
ただし……今の場合はよくわかんない。何に逃げるのかもそうだし、もしくは単純に今の話題からって意味なのか。それとも何か、予知じゃないけど、なんか感じてんのか。
「逃げるも、何も……」
「ん?」
「もう、解決したんで」
大丈夫っス!なるべくいつも通り、元気よくいったつもりだった。丸井先輩はそーか。んじゃもしなんかあったらいつでも相談しろよ、なんて言って立ち上がる。はいはいなんて相づちは打ったけど、相談は多分、しない。
「! ちょ……何するんスか!!」
「いーじゃん。お前髪ぐしゃぐしゃにしても大差ないし」
毎朝ちゃんとセットしてるって何度言ったらわかんだ、この人!
ぐしゃぐしゃに撫でなれた頭をぶんぶん振って、さっさと部室から出た。丸井先輩は部室の鍵閉め!って叫んでたけど、残ってた先輩が悪いし、俺管理悪いからっつって逃げる事にした。
今日も、笑ってくれっかな。
よくわかんない気持ちは今も占拠してて、教室行くのが、苗字サンに会えんのが楽しみな自分がいる。それはまるで初日に話しかけた時みたいにわくわくした気持ちで、昨日までの落ち込みムードは全くなかった。
仲良くなったって。
勝手に、思ってたから。
「苗字サン、おはよ!」
教室までを意味なく走っていれば、最近見かけるようになった、けど間違えることのない後ろ姿が見えた。
普段は俺の方が着くのが早いから待たなきゃだけど、今日は遅刻して走ってたせいでいつもよりちょい遅め。時間が被ったらしい。
ぴたり。
突然止まった彼女に、後から追いかけてきていた俺も立ち止まる。
どうかしたのかと話しかけようとすれば、小さく言葉が聞こえた。
「え?何?」
聞き返しては見たけど、苗字サンは俺の方を見向きもしなかった。え、って戸惑う暇もなくスタスタ行っちゃうし、話しかけてもガン無視。
―――まるで、俺なんか居ない、みたいで。
勘違いしてるよ
昨日何度も頭をフラッシュバックした言葉が響いた。
ぴたりと、止まったのは俺の足。
私は、君が嫌いだよ
拒絶するかのように見せた目が頭に浮かぶ。俺を知ってる口振りで、俺の全てを否定するような目。
―――嫌いって、感情は。
すぐには消えない……って事かよ。
もやもやした感情が広がってく。苗字サンの言葉にも態度にも一喜一憂して、けどそれでも関わりたいと思う俺はなんなのか。
嫌いだって言うなら、せめて理由くらい教えてくれたっていーんじゃねーの。
頭ではそう思うのに。
それすら、聞く気にもならないなんて。
なぁ、教えてくれよ。
――俺はアンタに、何かしたのか?