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あなたが(1/2)


ズキズキと心臓が痛む。別に病気でもないんだ。

気になって気になって、また嫌われただとか昔なんかあったっけとか昔じゃなくても俺なんかしたっけ、とか。頭ん中には色々聞きたい事とか確かめたい事がいっぱいあんのに、それを口に出す前にやられてしまう。何に?何にって、ほら。苗字サンの、

―――心の底から否定するような、目。

時折目が合うし、朝も挨拶出来ないかと思って話しかけた。けどやっぱり苗字サンは答えてくれないし、目が合ったら合ったで射抜くような冷たい目で、何も言えなくなる。その変わりに俺の心臓にはばくばくとしてた数日前とは違って、ズキズキと痛みが広がっていく。妙な悲しさとかそういうのが勝って、よくわかんないのに泣きたくなりそうな時だってある。馬鹿じゃねぇの。
他の奴等とは普通に話して、普通に笑うのに。大人しくだけど、それでも、分け隔てなく。しかも俺への態度はあからさまでもいいと思ってんのか、それとも周りがどうのとか言って繕うのすら嫌なのか、誰かが話してるノリで話しても冷たい目。初めて会った時より、ずっとずっと。
夢と現実はまた違くて、それが一層現実を重くさせる。今朝の恥ずかしいくらいのドキドキすら消え去って、今はどうしようもない感情が走る。

――― 一対一で、話せねぇかな。

せめて理由が知りたい。何でそこまで俺を嫌うのか。俺を避けるのか。もうこの際仲良くなるのはあきらめた方がいい気がする。なんか、もう。自信ないっつうかさ。落ち込むのも痛いのも………もう、いい。
授業中の暇な時間を使って、小さいメモ帳を破り取る。汚い字を出来るだけ努力して綺麗な字に、せめて読める字くらいにはなるようにゆっくり丁寧に、かいた。午前授業はこれで終り。昼休みなら隙見て渡せるし、午前中たっぷり挑戦はしてみた。ここまできて駄目ならやっぱり仕方ないと思うんだ。駄目で元々。これで最後なら、それでもいいっしょ?

どうしても、本当に、どうしても。聞きたい事がある。答えによっちゃもう無理に関わんないから。放課後、屋上で。 切原

こんなんで来てくれるだろうか。不安は拭いきれないけど、特に文才があるわけでもない俺はこれが限度だ。精一杯。言いたい事は書いたし、それで駄目ならそうだな……もう一回くらいなら、話しかけてもいいかな。
授業終了まであと10分が、異様に長く感じた。




****




「あ、丸井先輩?」
『おう。何?』
「俺今日部活遅刻します。副部長に伝えといて下さい」
『え。パシりじゃん……真田に直接言えばいいだろぃ?』
「………言えない内容、っス」

すみません、一言付け足せば、丸井先輩は少し黙ってから溜め息吐いた。

『解決したんじゃなかったのかよぃ』
「…………」
『……まぁいいや。真田には伝えてやるぜぃ』
「…っス。ありがとうございます」
『ん』

丸井先輩に電話したのは、こういうとこに理解があるから。真田副部長じゃ絶対駄目って言うし、というかまず副部長が学校に携帯なんか持ってきてるか果てしなく謎だから直接行かなきゃだし。直接行ったら行ったで、先輩達が全員揃っちゃう気もするし、それじゃ怒られるし許可も出ない。だからといって丸井先輩が甘いわけではないんだけど、なんだろ。やっぱ、感付かれるとこが逆にさ。いいんだよね。
んじゃ。電話を切ろうと思って耳から外す。同時に電源ボタンを押そうとして、

『赤也』

どきっとしてもう一度携帯を耳に当てる。なんすか、と言えばそんなもん気にしてないかのように丸井先輩はもう一度言うぜぃ、と続けた。


『逃げんなよぃ』


ぶち。何かを言い返す前に切られた電話。つー、つー、と流れる音を聞きながらも電源ボタンをすぐには押す事が出来なくて、固まる。

―――またかよ。

なんだよ、逃げるって。
俺、寧ろちゃんと、向き合ってんじゃん。

もやもやとした感情が広がっていって、乱暴に電源ボタンを押した。
理解あんのは嬉しい。けどさ。
それが全部正しいなんて限らねぇじゃん。

一回溜め息吐いて落ち着かせる。教室戻ってパン食って……あと二時間。授業、受けなきゃ。
のろのろと入った教室の、自分の机の上。小さな紙が綺麗に四つに折られて筆箱の下に挟まれてた。

掃除が終わったら行きます。 苗字

相変わらずの綺麗な字にどきっとして。

また、心臓が傷んだ。
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