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あなたが私に(2/2)
「聞きたい事って何」
放課後、ダッシュで屋上に行って苗字サンが来るのを待った。掃除終了のチャイムが鳴って数分後、現れた苗字サンが言ったのが冒頭。
「苗字サンさ……俺の事、嫌い…なんだよな」
「嫌い」
即答かよ……ここまでストレートだと逆に潔いけど、うんだけで良かったのに。わざわざ嫌いまで言ってくれた辺り本当に嫌いなんだろうな。
ぐっと拳を握って、気合いを入れる。こっからは多分一番傷つくだろうから、一々止まるわけには行かねぇ。最後まで、ちゃんと納得行くまで話して終わらせなきゃ―――例え、あの冷たい目が、俺を射抜いても。
「何で…嫌い、か。教えてくんねぇ?」
「………聞きたい事ってそれ?」
「まぁ…」
苗字サンが訝しげな表情をしてから溜め息を吐いた。多分苗字サンにとってはどうでもいいような質問なんだろう。なんか俺、女々しい。
「君の存在自体」
「………え?」
「切原赤也、っていう存在が…存在してることが」
嫌。
どくん、って。
心臓が一回だけ、大きく跳ねた。
「存在…?」
「そう」
「俺が、存在してるってことが、嫌いな理由…?」
「そう。もう質問ない?」
今にでも帰りそうな苗字サンは、俺が黙っていれば帰りそうだった。けど、駄目だ。存在自体が嫌いだなんて、そんなもん理由としちゃおかしい。その存在まで至った経緯が、嫌いな理由なんじゃねぇの?
苗字サンが一歩下がって背を向けようとした。咄嗟に腕を掴んで待てよ!って叫んだら、苗字サンは一瞬驚いた顔をしてから睨んできた。
まだ俺は、何も納得してねぇ!
「そんなもん理由じゃねぇ!」
「理由だよ。それ以上もそれ以下もない」
「じゃ存在が嫌な理由は!?」
腕に力を込めれば、苗字サンの表情は歪んだけど、きっと今歪んだのは、違う。歪んだっつーより、揺らいだんだ。存在が嫌な訳に。
「………君にそこまで教える義務はないよ」
ぶん、と大きく腕を振りほどかれ、苗字サンは顔を逸らした。
―――逃げんなよ
「逃げんなよ」
丸井先輩の言葉が頭に響く。けど今その言葉が必要なのは俺じゃなくて、苗字サンだ。
冷たい目が、真っ直ぐだった目が、こんなにも揺らぐなんて。こんなにも、歪むなんて。
「苗字サン」
びく、と。怯えたように、苗字サンは俺を見た。でも……俺を、見てるのに。俺じゃない何かに、怯えてるみたいで。
なぁ、教えてよ。
俺が聞きたいのは、そんな言葉じゃない。
「好きだ」
だから。
好き、だから。
理由を知る権利ぐらい、あったって良いと思うんだ。
好きな人に嫌いって言われて、諦めようと思っても理由には納得出来なくて。それならだ。それなら、納得いくまで。諦めつくくらい聞いたって、いいじゃねぇか。
こんな嫌な状況下で、ついさっきまで否定していた事実を言葉にすんのはおかしく感じた。でも、それに異なって、俺の心うちはすごく落ち着いて、その言葉がすんなりと受け入れられる。
認めちゃえば、楽だったんだ。
「……私は君が、嫌いなのに?」
「それでも、好き」
「私は君を、好きになれないよ」
目は未だに揺るぎっぱなし。それでも苗字サンはハッキリと断言した。そこだけは、狂わないと示すように。
「私が好きな赤也は――君じゃない」
切原くんじゃ、ない。
苗字サンはそう言って、屋上から走り去って行った。
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放課後、ダッシュで屋上に行って苗字サンが来るのを待った。掃除終了のチャイムが鳴って数分後、現れた苗字サンが言ったのが冒頭。
「苗字サンさ……俺の事、嫌い…なんだよな」
「嫌い」
即答かよ……ここまでストレートだと逆に潔いけど、うんだけで良かったのに。わざわざ嫌いまで言ってくれた辺り本当に嫌いなんだろうな。
ぐっと拳を握って、気合いを入れる。こっからは多分一番傷つくだろうから、一々止まるわけには行かねぇ。最後まで、ちゃんと納得行くまで話して終わらせなきゃ―――例え、あの冷たい目が、俺を射抜いても。
「何で…嫌い、か。教えてくんねぇ?」
「………聞きたい事ってそれ?」
「まぁ…」
苗字サンが訝しげな表情をしてから溜め息を吐いた。多分苗字サンにとってはどうでもいいような質問なんだろう。なんか俺、女々しい。
「君の存在自体」
「………え?」
「切原赤也、っていう存在が…存在してることが」
嫌。
どくん、って。
心臓が一回だけ、大きく跳ねた。
「存在…?」
「そう」
「俺が、存在してるってことが、嫌いな理由…?」
「そう。もう質問ない?」
今にでも帰りそうな苗字サンは、俺が黙っていれば帰りそうだった。けど、駄目だ。存在自体が嫌いだなんて、そんなもん理由としちゃおかしい。その存在まで至った経緯が、嫌いな理由なんじゃねぇの?
苗字サンが一歩下がって背を向けようとした。咄嗟に腕を掴んで待てよ!って叫んだら、苗字サンは一瞬驚いた顔をしてから睨んできた。
まだ俺は、何も納得してねぇ!
「そんなもん理由じゃねぇ!」
「理由だよ。それ以上もそれ以下もない」
「じゃ存在が嫌な理由は!?」
腕に力を込めれば、苗字サンの表情は歪んだけど、きっと今歪んだのは、違う。歪んだっつーより、揺らいだんだ。存在が嫌な訳に。
「………君にそこまで教える義務はないよ」
ぶん、と大きく腕を振りほどかれ、苗字サンは顔を逸らした。
―――逃げんなよ
「逃げんなよ」
丸井先輩の言葉が頭に響く。けど今その言葉が必要なのは俺じゃなくて、苗字サンだ。
冷たい目が、真っ直ぐだった目が、こんなにも揺らぐなんて。こんなにも、歪むなんて。
「苗字サン」
びく、と。怯えたように、苗字サンは俺を見た。でも……俺を、見てるのに。俺じゃない何かに、怯えてるみたいで。
なぁ、教えてよ。
俺が聞きたいのは、そんな言葉じゃない。
「好きだ」
だから。
好き、だから。
理由を知る権利ぐらい、あったって良いと思うんだ。
好きな人に嫌いって言われて、諦めようと思っても理由には納得出来なくて。それならだ。それなら、納得いくまで。諦めつくくらい聞いたって、いいじゃねぇか。
こんな嫌な状況下で、ついさっきまで否定していた事実を言葉にすんのはおかしく感じた。でも、それに異なって、俺の心うちはすごく落ち着いて、その言葉がすんなりと受け入れられる。
認めちゃえば、楽だったんだ。
「……私は君が、嫌いなのに?」
「それでも、好き」
「私は君を、好きになれないよ」
目は未だに揺るぎっぱなし。それでも苗字サンはハッキリと断言した。そこだけは、狂わないと示すように。
「私が好きな赤也は――君じゃない」
切原くんじゃ、ない。
苗字サンはそう言って、屋上から走り去って行った。