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私はあなたを


逃げられた。
何に、とはもう言わねぇけど。あれから更に五日がたった。一向に状況は変わんないけど、授業はあれ以来サボってない。先生から先輩の耳に渡り怒られ、且つあまりにもしつこ過ぎたからかお前さんストーカーしちょるんだって?とか言われ先輩達に犯罪はよくないと止められた。……詐欺の方が重罪じゃないんスか。
だからせめて、と昼休みだけ追い掛けることにした。しかし最近は苗字サンは何かを学んだらしく、学食に行くようになった。そして俺は先輩がチラホラいる学食ではオープンに何かは出来ない。いや、別に悪ぃ事してないけど!
そんなわけで、苗字サンが学食に逃げ込んだら諦めて飯食う。そんな、日常。

「ねぇ、切原くん」
「んあ?」

もきゅもきゅと飯に食らいついていれば、クラスメートの女子が数人いた。話しかけてきた奴とは何回か話した事もある。悪い奴じゃない。
何?と聞けば、ちょっと頼み事があるんだけど、と笑顔で言われた。……それ、断れない感じのだよな…。

「あのね、文化祭あるでしょ?」
「ん」
「和風のにしよーとクラスで話出たじゃん。で、各スペースを春夏秋冬にして攻めようと思って」
「へー、いーじゃん!」

うちのクラスは和風喫茶をやるらしい。教室全体使用でにして、四隅に違うくつろぎスペースにする、つう案が出てたのは憶えてる。部活で話してたら、柳先輩とか副部長も興味持ってくれてたし、面白い案だと柳生先輩に言われた憶えもある。俺の案じゃなかったけど、…ちょっと嬉しかった。
それでね、と言われて黙って先を促す。そうだ、頼み事、だった。

「買い出しして欲しいの」
「え。文化祭夏休み明けっしょ?早くね?」
「四季を揃えるなら、その時期にしか売ってないじゃん。だからちょこっとさ」
「………なんで俺?」
「和風だからねー。普段から和風な先輩といるからちょっと私達より適任みたいな?」

押し付けたいだけだろ、それ……!
さっき先輩達が喜びそうとか考えたの撤回。好みはちょっと、ほんとにちょっとだけならわかるから確かに喜ぶだろうけど、俺嬉しくない。休みは休みてぇ。
けど目の前にいる奴等はニコニコ笑顔で、なんとなく強制的だ。明後日の日曜11時、駅前で!と元気よく去っていく集団に溜め息つく。まぁ、今週の日曜は休みだけどさ……何で知ってんだよ。
女子怖ぇ、と思いながら、ふと気づく。

―――集合?

俺一人じゃねぇの?今の感じだと、俺単独で選んでこいって感じじゃん。
のそのそと歩いてって疑問をそのまま出したら、もう一人いるよと言われた。ついでにどんな感じのものが欲しいかも。
え、尚更いらなくね?俺。イメージあんなら自分で行けばいいし、聞いた感じ季節感ある飾り物っしょ?自分達で行けばいいじゃん。
けど、女子の中では決定事項らしい。せめてもの抵抗でもう一人が誰か聞いたら、まだ未定らしい。セッティングデートじゃないから安心しろとだけ言われた。そういうのやんないつか、嫌いな奴だからそこは信じとく。寧ろそうじゃないと困る。
そんだけ聞いたらもう俺の入る隙はなくなって、席に戻る。女子の集団に入るとよくわからんない疎外感あるよな。

「買い出し……先輩にちょっと、聞いてみっかなぁ……」

面倒だけど、決まったもんは仕方ない。やっぱり撤回した所で先輩達が喜ぶのは悪い気がしないし……卒業、しちゃうんだから。なんか、いっぱいしてやりたいよな。
もきゅもきゅと再び残りの飯を食べ始めたら、余鈴がなる。急いで飲み込んで片付けた所で、苗字サンが戻ってきた。……俺の事は、やっぱガン無視で。

「あ、名前ちゃん!」

さっきの女子の集団が苗字サンに話しかける。苗字サンは、あのグループの奴らとよくいるらしい。
あまりに見てると怪しいから、会話だけチラチラ聞く。いや、よくないんだけどさコレ。わかってっけど、やっちゃ駄目なものってやりたくなんじゃん?それに好きな子のことは気になるわけで、聞かないようにしてても聞こえちゃうわけで………うわ、俺ホントにストーカーっぽい………。

「あのね、名前ちゃん。この間話した買い出し、どうする?もう一人は切原くんにしたんだけど」

どき、とした。息がしずらくなって、心臓がばくばく鳴る。
無理しなくても、なんて聞こえてくる会話に自然と耳を澄ませる。
無理だって、思うのに。


「―――いいよ」


四季の案出したの、私だし。

苗字サンは、ハッキリとそう言った。
四季の案出したの苗字サンだったのかよとか、何で許可しちゃったのとか、色々思う事はあるけど。


―――思いっきりセッティングデートじゃねぇか……!


席に座ったまま一人で悶えた俺は、やっぱ駄目かもしれない。
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