menu
top    about    main

好きになれない(1/2)


―――ジーパンにパーカー。ポニーテールにして帽子を被った姿で、苗字サンは来た。
すんげえシンプルだなぁとも思ったけど、苗字サンの雰囲気には合ってるし、別に俺に対して好意もないんだから服なんか拘んないよなぁ、とちょっとへこんだ。

「案内して」

おはようの挨拶も何もなく、苗字サンはそう言った。
来たら言おうと思ってた事はたくさんあったはずだけど、その一言で一気に崩された俺は、なんかもう……断念した。
今日は、普通に楽しめばいっか、って。
思わず気ぃ抜いてへらりと笑えば、苗字サンはむすっとした顔をした。

「道、まだよくわからないから」

多分俺は、きょとんとした顔をしたと思う。――あぁ多分、俺が笑った理由を勘違いしたんだな。そういや苗字サンは転校生だった、って気づいた感じのだと思ったんだろう。だから、むすっとしたんだ。
それがなんか、学校にいる時より素が出てる気がして――かわいかった。

「うし!んじゃあ今日は、」

あいつらが歓声あげるような、掘り出し物探そーぜ!


にし、と笑って見せれば。

苗字サンが、不敵に笑った。




****




吹っ切れた、というか吹っ切ってただただいつも通りにしていれば、苗字サンは案外普通に接してくれた。
核心に触れなきゃいいって事か?人付き合いみたいにする分には、全く問題ない感じ。……まぁそれでも、どっか刺々しいし一定のラインはあんだけどさ。

「これなんか良んじゃね!?」
「………悪くないけど、予算越すよ」
「えっ……あ!ホントだ!」

やべーやべーと言って苦笑しながら商品を棚に戻せば、苗字サンは呆れたように見てきた。
冷ややかな視線じゃないだけ、俺には随分マシに思える。
他に店ある?と聞かれたから、いくつか頭ん中にピックアップして苗字サンに伝える。更にそん中から苗字サンが良さそうな店を選んで……そんな作業をしながら、色々な店を転々とする。
意外にも俺と苗字サンの感性は近いらしく、良し悪しの意見が割れる事はなかった。そして案外、苗字サンは負けず嫌いらしい。ちょっとでもイメージが違うと、見つけんのが難しくても探す。………ん?負けず嫌いつか、こだわりが強いのか?……わかんないけと、そんな感じ。

「切原くん」

がし、と肩を掴まれた。へ?と思わず間抜けな声を出して振り向けば、そのまま手首を掴まれて苗字サンに引き摺られた。

「手が届かない!」

二手に分かれて探していたところだったから、多分良いものを見つけたらしい。ウズウズした様子の苗字サンに驚きながら、ある一点を指差して威張っている姿に急かされる。

「よ…っと」

示された箱を取れば、苗字サンは俺からせかせかとぶんどって中を開けた。なんかのセットらしいそれを除き込めば、春夏秋冬、それぞれの飾り物と一緒にプラスチック製だけど、デザインがかなり良い皿が入ってた。

「うわ……何これ!」
「さっき道で貰ったチラシに載ってたんだ」
「へえ!」

これはホントに掘り出し物じゃん!すげえすげえ苗字サン!
帽子が影になりながらも、自慢気に笑う苗字サンが見えた。テンションが高いのはお互い様で、苗字サンは嬉しそうにレジへ向かって行った。それは最早、昨日までの雰囲気とは違ってて、誰ですかと問いたいくらいの変わりようだった。

「………飯、どうすっかなぁ…」

時刻は14:30。随分探し回ったみたいだ。けど、多分もうあれ買ったら十分だろう。俺の両手が埋まってるくらいなんだから。そう思ったら急に腹が減ってきて……多分、これでお別れ、かな。一人飯か…。
ちょっとだけ物寂しさはあるけど、欲張ったら終わりな気がする。無視されてたのに、今日ここまで一緒にいれたのとか、色んな表情見れたのとか。十分だよな。問い詰めたら、きっとまたこの数日間と同じになる。うん。我慢だ俺。

「買えた」
「ん。どーも!」

手ぇ出せば、商品を渡される。最初の内は渋ってたけど、ここまで来たらもう戸惑いなく渡してくる。飾りなんて軽いから全然持ちきれる。
まだ買うの?と聞けば首を振った。やっぱり終わりらしい。

「えっと……じゃあ駅まで送ればわかる?」

ここまで俺が全部つれ回したから、道なんかぐちゃぐちゃで憶えられないはず。そこまでは案内しないと、帰れないと思う。
けど、苗字サンは真顔で見てきただけだった。どうかしたのかと目をぱちくりされていれば、苗字サンは表情を変えずに、口だけを動かした。

「お腹、すいた」

お礼に奢るから、どっか案内してよ。



―――え?
- 16 -