menu
top    about    main

時として皮肉で


すみませんっしたぁッ!!

腹の底から全力で叫んで頭を下げる。見つめ続けた後に気がつけば、とっくに部活が始まってた。
一生懸命走ったものの、気付いた時点でもう開始時間は過ぎてたんだから、結局いつもと変わらず遅刻。

怒られるのは嫌だけど、流石にぶつかった挙げ句ずっと見てたら遅刻しました、なんて言える訳ねぇ……。

必死に頭下げて謝った所で、やっぱ真田副部長には怒られた。耳がキンキンするくらいの怒声で、もう頭は完全に目の前の事。他の事はログアウト。
つか、そうじゃなきゃ更に怒られっし。

「弦一郎」

するりと、怒声の間から柳先輩が声を掛けた。それにより副部長の言葉の羅列が一瞬止まり、渋々といった様子で柳先輩を見る。

「そのくらいにしておけ。今日は朝会だ」
「む………そうだったな」

時計をちらりと確認すれば、朝練終了時間の10分前。けど、週一で行われる朝会の日には部活は早く終る。

―――やっべ。柳先輩に借りできちまった……。ホントに時間ヤバいっつうのもあるけど、去り際に口角上がってた。絶っ対ぇ狙ってる!

副部長は溜め息吐いたかと思えばもう一回怒鳴って、放課後は遅れないようにと言い残しってった。今日はこれで解放らしい。
はぁ、と溜め息吐いてから、他の部員と違って未だ制服のままの俺は片付けだけでも引き受けといた。それなら片付け終わった頃には皆着替え終わってるっしょ。





部活がなかった……つうか、ちゃんと出れなかったからか、いつもよりは余裕もって教室に行けたし、朝会も普通に終了。
こっからまた長ーい授業が始まると思うと憂鬱だけど…………寝てりゃいいかなぁ。けど流石に部活遅刻した上に授業中寝たなんて先輩に知られたら……

(やべぇ、よなぁ……)

仕方ねぇなぁもう!形だけでも起きてやるよ!と半ば自棄になって頭をがしがしと掻いた。救いなのか幸い今日は英語がない。体育もある。なんとか乗りきれるっちゃぁ乗りきれる気がする。
切原。呼ばれて、ん?と振り向けば、一年ん時もクラスが一緒だった田原がノート持って立ってた。

「よう。はよ」
「おう、おはよう。これ昨日のノートな」
「おー!!わりぃわりぃ!助かるぜ!」

成績上々。立海にも成績ナンバーワンで入学したこいつには、色々世話になってる。寧ろ俺が頭悪い上にこいつとも仲良かったから、先生が俺を押し付けてるんだけどさ。
差し出されたノートを受け取った。
昨日は公欠だったからあらかじめ俺のノートを押し付けておいたんだけど、律儀に写しといてくれる田原はホントにいいやつだと思う。しかもすんげえ……つっても柳生先輩ほどじゃないけど。あの人はなんかもうおかしいと思うけど。まぁ、紳士的だし、顔も悪くない。
ホントにモテるべきなのは、顔だけ良いらしい俺じゃなくて、こいつみたいな良い奴だろうとしょっちゅう思う。

「で、も一個朗報」
「あ?」

ノート受け取ったら席に戻るか、もしくは他愛ない話でもすんのが日常。けど、今日はそれ以外もなんかあるらしい。
ぴっと、田原の人差し指が俺の席から対極の方にある席を指した。
窓際一番後ろ。一番良い席だけど、クラスの人数が他と比べて一人少ないうちのクラスでは、その席に座ってるやつはいない。

「は?何?」
「転校生、来た。女の子」

今は席外してるけど。そう付け足した田原に、ふぅんと相槌した。別に転校生に興味があるわけじゃないし、田原自身もそういう話を好む性格じゃない。一応報告、くらいのもんだろうと思ったけど、田原はむっと口を歪ませたからなんか違ぇのかと首を傾げた。

「朗報、っつったろ」
「あー…。んじゃ、なんかあったわけ?」
「なんかっつうわけじゃないんだけどさ……」

じゃぁなんだよ。と、今度は俺が口を歪ませる番。良い淀む田原も珍しいなぁとは思ったけど、正直焦らされるのは好きじゃない。
なんだよ、ともう一度急かせば、田原は気のせいかも知んないけど、と前置きしてから言った。

「切原が公欠って先生が言った時……その子、すんごい驚いた顔してたんだよな」
「………なんで?」
「いや、知らないけど……なんかさ、気になって」

知り合い?って聞かれたから、見てみるとだけ答えといた。

田原は、紳士的だ。
だからこそなのか、人のことはよく見てるし、細かい事にも気がつく。
その田原が言うんだから――まぁ、少なからずなんかはあるんだろ。

(他校のファンです、とかだったらどうすっかなぁ……)

面倒じゃなきゃいいけど。
俺はただ、その程度のことしか思わなかった。
- 3 -