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残酷なものなのに


授業が始まってから数分。既に授業受けるのなんてめんどくさくなった俺は、転校生の子をいつ見ようかと考えていた。

(苗字名前サン、ね……)

一応田原に聞いておいた転校生の名前は、やっぱり聞いた事もない名前だった。それなら顔知ってっけど名前わかんねーパターンかなぁと思いつつ、苗字サンの席は俺より後ろ。授業中には見にくい席だ。確認なんか出来ない。
なんとなくでノートに苗字サンの名前を書いてみる。普段ならこんな事気にしないんだろうけど、どうも引っ掛かる。見なきゃならないような、知らなきゃならないような……そんなよくわかんねぇ義務感が俺ん中に発生してるようなさ……ただただ、妙な感じ。

―――知らない、名前なはずだ。
なのに。その名を頭ん中では何度も呼ぶ。聞いたはずのない名前をすんなりと受け入れる。

まるで、知っているかのように。

妙な感じがぐるぐると渦巻いて、けどそれがずっと頭を占めていれば単なる不愉快だ。だんだんとわからない事に対してのイライラも募ってくる。けど、やっぱりわからない。悪循環だ。

「苗字」

黒板にひたすら文字を書いていた先生が急に口を開いた。
先生の口から飛び出した名前に、俺ははっとして前を向くけど、先生はそんな俺の様子は気にも止めない。寧ろ、見えてないんだろう。ただ名前が聞こえただけなのに、俺の心臓はどくどくと早く動き始める。
これは――顔見るチャンス…じゃね?

「聞き忘れていたが、前の学校の授業はどこまで進んでた?」

そんな話授業の最初でしろよ。頭の隅っこじゃそんな事思ったけど、この先生はどっか抜けてる。しかも数学大好き過ぎてずっと授業してたいタイプの先生。まぁ仕方ねぇなぁなんて感じで、クラスの端々で笑いを漏らすのが聞こえた。

(んじゃ、雰囲気的にも行けるっしょ?)

どくどくと鳴り打つ心臓はそのままに、俺は雰囲気に便乗して体を斜めに。授業の抜けた空気を利用して、俺も集中解けましたよ、と装って寛ぐ。

「大して、変わりません」

ぴしゃり。いい放った転校生―――苗字サン、は。
黒髪ロング。言った言葉が冷たかったからか、彼女自身も冷たく感じた。転校生として戸惑うとかそんな雰囲気も全然なくて、普段から堂々としてるんだろうなぁなんて思う。

けど、けど。

あの子。

緊張と期待で弾んでたはずの心臓は、余計にばくばくと打つ。

―――朝、会った子じゃん。

遅刻しそうな所を曲がり角でぶつかって、それが転校生なんてどんな少女漫画だよ……これで俺がパンでも食わえてりゃ完璧。性別は違ぇけど。
すんげえ偶然!なんて言って跳び跳ねそうになったけど、そこはやっぱ授業中。朝に抱いた目標も、ささやかながらに続行中。
けどこれは話しかけない訳にはいかないっしょ。ほら、朝の件もあるし?謝んのとこれからよろしくーってのでさ!

自然と頬が緩まるのがわかったけど、俺はなんとなくその偶然が嬉しくて、ついでに言うと妙な違和感の正体も掴めそうな気がして。ほぼ無意識での笑顔。

「切原。なぁに窓見てんだ!」
「うわっすんません!!」

どっとクラスに笑いが溢れる。静かにはしてたけど、凝視し過ぎたらしい。
うわやべ、恥ずかしー、なんてにへにへと笑いながらやり過ごして、一通り笑った先生とクラスメートは授業に戻る。
俺もこれ以上はなぁ……って、最後にもう一回苗字サンをちらっと見て、

(―――あ)

目が合った、気がした。
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