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その運命を


頭ん中、ぐるぐるする。

はあぁぁぁ、盛大に溜め息吐いてベッドに倒れ込む。今日はなんかもう、疲れた。いや、体力的には問題ないんだけど精神的に。

―――なんで、居んの……。

ぐるぐるした頭ん中が更にぐちゃぐちゃしてくる。苗字サンに言われた言葉が重い。苗字サンの存在が痛い。

嫌いだとか、怖いだとか。性格が性格だからか昔から結構言われてきたし、テニスになったらもっと酷い。自分でもまずいなって気持ちはちょっとはある。だからといって制御出来るわけでもないんだけど、やっぱり少しくらいはコントロール出来た方がいいんだろうなぁくらいにはぼんやり思ってる。
でも、中学入ってからは特に。人間関係には気をつけてきたはずだ。テニス同様、制御出来ない気持ちはあっけど、せめて必要以上怖がらせたりとかはしないようにしてきたつもりだし、だからこそ周りにも人が集まってくんだと思ってた。どんなに完璧な奴でも、どんなに見た目良くても、どんなに頭良くても、どんなに運動出来ても。性格がよくなきゃ――特に、怖くなけりゃ。周りに人なんか、寄ってこないって。
そう、思ってたのに。


勘違いしてるよ

私は君が、嫌いだよ



冷たくて、なのに俺の耳には透き通るように入ってくる声が頭ん中で再生される。

―――そう。そうだよ。

嫌いだって、確かにそう言った。

なのに、だ。
結局あの休み時間のあとから授業にはいないし、あとで先生に聞いた話じゃ体調不良の早退。クラスの連中から昨日の話を聞いたら、確かにあんまりはしゃぐタイプではないらしいんだけど、そこそこ笑うし女子の評判も悪くないらしい。
じゃぁ読者中、しかも体調不良の時に話しかけた俺が悪かったのか。もしくは朝の事でヒビらせちゃったか。その辺りじゃねぇかなぁなんてのも思ったけど、それは違う気がする。勘ってのもあるけど………嫌いって、言われてから。田原が言ってた事を思い出した。

昨日の朝。何で苗字サンは俺の名前に反応したのか。

よくよく考えりゃ、今日話しかけた時だって彼女は驚いた顔をしてた。その後だって、およそ初対面じゃしない表情ばっか。
それはやっぱり、彼女は何かしらのもので俺を知ってる……知ってた、って事だと思う。

そして。

今日、最大の、不思議。
俺の頭を、ぐちゃぐちゃにした出来事。


苗字サンは今日―――居た。
確かに、居たんだ。

テニス場に。


放課後。落ち込みともやもやで練習にも気が入んなくて、真田副部長に怒鳴られ丸井先輩に心配された。やっばいなぁって自分でもわかってたし、朝の分も含めて最悪だと思う。頭入れ直して、うし!って気合い入れた時。そん時だ。
周りの声援。コート周りを囲う人の塊。俺達にとっては日常茶飯事なその風景の、ちょっと先の場所で。

苗字サンが、見てた。

視線の先は俺だった。俺の周りに人はいなかったし、確かに目が合った。今度は一切逸らしもせず、ただ真っ直ぐに。
それでいて、悲しそうに。

(わけわかんねぇよ……)

そんなわかんないものばっか、俺は好きじゃないはずで、嫌いなはずで。イライラするもんなんだ。
けど頭から離れる事なんかないくらいに、今日はずっと苗字サンの事を考えてる。
最初はばくばくと打ち鳴らしていた心臓が、今はぎゅうぎゅう締め付けるように痛い。脳裏の浮かぶ姿が、俺に向けた声が。俺を占拠する。
ぐるぐるぐちゃぐちゃってきて、いっそ通り過ぎたのか普段使わな過ぎなのか、ズキズキと頭が痛くなってきた。

俺は、何かを忘れてるのか。

苗字サンは、一体何なのか。

痛い、痛い。
だけど、それでも考えるなんて。
―――何処かで、似たような、何かが。


そこまで思って、意識は沈んだ。
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