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うーん、なんということだろう。自分の立場を保障するための問いが余計なところに転がってしまった。
「アンタさ、どんどん首絞めていってるって気づいてる?」
「んん、……どうでしょうね……」
マチさんと並ぶ台所。私の家の小さなキッチンまで移動して、数少ない食材を使って一人分の料理を作る。パスタなんだけど、一人分にも満たないかもしれない。本当に最後の食材だ。彼らは全然耐えられるようなので、私一人がおいしくいただくことになった。
「マチさん、本当にいらないんですか? 一口も?」
「あたし達の事は気にしなくていい」
「そうですか。それではいただきます」
茹でたパスタにオリーブオイルと塩コショウを振っただけのもので、具材は無い。
他の人達の同行は私が断った。ゆっくりご飯食べたいのでと言った時に団長さんも止めなかったから、彼らは彼らで私に聞かれたくない話でもするのかもしれない。
てっきり、同行人はフェイタンさんになるのかと思ったんだけど──マチさんを選んだのは、同性だから? 料理が出来るとか? それこそ心労の面を考えてとか──。
……いや、違うや。普通に考えて手を怪我してる人はキッチンに送り込まないか。考え過ぎだな。
「ご馳走さまでした」
「まだ空腹?」
「いいえ、とりあえず朝までは大丈夫じゃないですかね? 食材は朝調達ですか? それともこれから?」
「朝。アンタとフェイタンで行く予定」
「マジですか…………」
「あと、今夜はフェイタンもアンタと同じ部屋で寝るから。あたしもいるけど」
「………………マジですか……」
団長さんのさっきの発言は本気のようだ。労ってくれるのならありがたいが、何でフェイタンさんにしたのかという疑問は尽きない。明日の同行は百歩譲ってわかるとしても、何で寝る時まで一緒にいなきゃならない。いや、昨日のことを考えたら原因は私なんだろうけど……あれは吹雪だったからで逃げるためではないし……なんて向こうは知る由もないもんなあ。
マチさんだけにしてくれたらいいのに。わざわざフェイタンさんご指名なのは、自分の事は自分で何とかしろということなんだろうか。
「フェイタンさんと二人か……高い場所に成ってる実は無理だな……」
「心配ないよ。背が足りなくてもどうとでもなる」
「そうですか。じゃあそんな遠出しなくても済むかな」
パスタを乗せていた皿をシンクに戻しながら、何を取りに行くか周辺地図を思い出しながら考える。
あまり複雑な場所に行けば彼らに疑われる。食料はきっちり確保したい。あわよくば逃げたいがそれは後で考えるとして。
うーん、と頭を捻らせていると後ろから「ふーん、本当にそんなで生活してたんだね」と声をかけられた。どういう意味だろう。
「さっき……団長に食料の入手手段を聞かれた時、何で買う選択はなかったの?」
「ああ、なんだ。最初に選択肢から外したのはそちらでしょう。買えるなら私に聞いたりしないだろうから、私も答えませんでした」
「……そう」
買う選択は、可能か不可能かでいえば、可能だ。島の反対側には人が生活しているし、勿論店もある。お金さえあれば売ってくれるだろう。
でも出来れば避けたい。
「釣竿と籠は向こうに持っていきますよ? 明日使うので」
「いいよ、貸しな」
ナチュラルに持ってくれるの男前だな……これで私の命を脅かす人じゃなければマチさんの纏う空気は嫌いじゃなかったかも。
まぁ、気遣いじゃなくて没収だろうけどね、今の。
***
「マチ、キッチンまで行くついでに頼まれてくれないか」
「なに?」
「あれとフェイの仲を取り持ってみて欲しい」
ぴたり。クロロとあたしの間に妙な間が生まれる。続けて出た声は意図的に静められた。
「キッチンに行くついでの用じゃないと思うけど……どういうつもり?」
「仲を取り持つといっても、無理に接近させる必要は無い。そうだな……フェイタンと険悪なムードになりそうになったら阻止してくれればいい。出来そうか?」
「フェイがあたしの話聞くわけないでしょ。……まぁ、話を逸らすか中断させるくらいなら出来るんじゃない」
「それでいい。要は好感度を下げるようなことを避けて行動してみて貰いたいんだが」
は? そう口に出しかけてやめる。クロロの口許には笑みが浮かんでいた。
……試したいことってやつ? 一応聞いてみれば無言。あたしも一つ息を吐き出して腹を括った。
「期待しないでよ」
「十分だ」
クロロの目は興味で満ちている。何か考えがあってというより、単純な知識欲だろう。
付き合わされるあたし──いや、今回はフェイタンか──は迷惑極まりないだろうけど、今に始まったことじゃない。問題はフェイタンがどこまで耐えられるかってところ。
「出来れば早々に手を打ちたい。思ったよりも頭が回るようだからな……気付かれる前に結果が出れば上々だな」
飲み込みは早そうだけど、クロロが言うほど頭が回るようには見えないけど。
という、あたしの認識が少し変わるのは、この後のこと。
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「アンタさ、どんどん首絞めていってるって気づいてる?」
「んん、……どうでしょうね……」
マチさんと並ぶ台所。私の家の小さなキッチンまで移動して、数少ない食材を使って一人分の料理を作る。パスタなんだけど、一人分にも満たないかもしれない。本当に最後の食材だ。彼らは全然耐えられるようなので、私一人がおいしくいただくことになった。
「マチさん、本当にいらないんですか? 一口も?」
「あたし達の事は気にしなくていい」
「そうですか。それではいただきます」
茹でたパスタにオリーブオイルと塩コショウを振っただけのもので、具材は無い。
他の人達の同行は私が断った。ゆっくりご飯食べたいのでと言った時に団長さんも止めなかったから、彼らは彼らで私に聞かれたくない話でもするのかもしれない。
てっきり、同行人はフェイタンさんになるのかと思ったんだけど──マチさんを選んだのは、同性だから? 料理が出来るとか? それこそ心労の面を考えてとか──。
……いや、違うや。普通に考えて手を怪我してる人はキッチンに送り込まないか。考え過ぎだな。
「ご馳走さまでした」
「まだ空腹?」
「いいえ、とりあえず朝までは大丈夫じゃないですかね? 食材は朝調達ですか? それともこれから?」
「朝。アンタとフェイタンで行く予定」
「マジですか…………」
「あと、今夜はフェイタンもアンタと同じ部屋で寝るから。あたしもいるけど」
「………………マジですか……」
団長さんのさっきの発言は本気のようだ。労ってくれるのならありがたいが、何でフェイタンさんにしたのかという疑問は尽きない。明日の同行は百歩譲ってわかるとしても、何で寝る時まで一緒にいなきゃならない。いや、昨日のことを考えたら原因は私なんだろうけど……あれは吹雪だったからで逃げるためではないし……なんて向こうは知る由もないもんなあ。
マチさんだけにしてくれたらいいのに。わざわざフェイタンさんご指名なのは、自分の事は自分で何とかしろということなんだろうか。
「フェイタンさんと二人か……高い場所に成ってる実は無理だな……」
「心配ないよ。背が足りなくてもどうとでもなる」
「そうですか。じゃあそんな遠出しなくても済むかな」
パスタを乗せていた皿をシンクに戻しながら、何を取りに行くか周辺地図を思い出しながら考える。
あまり複雑な場所に行けば彼らに疑われる。食料はきっちり確保したい。あわよくば逃げたいがそれは後で考えるとして。
うーん、と頭を捻らせていると後ろから「ふーん、本当にそんなで生活してたんだね」と声をかけられた。どういう意味だろう。
「さっき……団長に食料の入手手段を聞かれた時、何で買う選択はなかったの?」
「ああ、なんだ。最初に選択肢から外したのはそちらでしょう。買えるなら私に聞いたりしないだろうから、私も答えませんでした」
「……そう」
買う選択は、可能か不可能かでいえば、可能だ。島の反対側には人が生活しているし、勿論店もある。お金さえあれば売ってくれるだろう。
でも出来れば避けたい。
「釣竿と籠は向こうに持っていきますよ? 明日使うので」
「いいよ、貸しな」
ナチュラルに持ってくれるの男前だな……これで私の命を脅かす人じゃなければマチさんの纏う空気は嫌いじゃなかったかも。
まぁ、気遣いじゃなくて没収だろうけどね、今の。
***
「マチ、キッチンまで行くついでに頼まれてくれないか」
「なに?」
「あれとフェイの仲を取り持ってみて欲しい」
ぴたり。クロロとあたしの間に妙な間が生まれる。続けて出た声は意図的に静められた。
「キッチンに行くついでの用じゃないと思うけど……どういうつもり?」
「仲を取り持つといっても、無理に接近させる必要は無い。そうだな……フェイタンと険悪なムードになりそうになったら阻止してくれればいい。出来そうか?」
「フェイがあたしの話聞くわけないでしょ。……まぁ、話を逸らすか中断させるくらいなら出来るんじゃない」
「それでいい。要は好感度を下げるようなことを避けて行動してみて貰いたいんだが」
は? そう口に出しかけてやめる。クロロの口許には笑みが浮かんでいた。
……試したいことってやつ? 一応聞いてみれば無言。あたしも一つ息を吐き出して腹を括った。
「期待しないでよ」
「十分だ」
クロロの目は興味で満ちている。何か考えがあってというより、単純な知識欲だろう。
付き合わされるあたし──いや、今回はフェイタンか──は迷惑極まりないだろうけど、今に始まったことじゃない。問題はフェイタンがどこまで耐えられるかってところ。
「出来れば早々に手を打ちたい。思ったよりも頭が回るようだからな……気付かれる前に結果が出れば上々だな」
飲み込みは早そうだけど、クロロが言うほど頭が回るようには見えないけど。
という、あたしの認識が少し変わるのは、この後のこと。