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羽ばたけ空



歓迎の宴は終り、というかいつの間にか寝てしまって早朝。
再び樽の後ろへと避難していた私は、周りが寝ているのを視界にいれながら朝日を見ていた。

「……海、が、あると……こうも違うのか」

太陽の輝きが海に反射して、きらきらしてる。眩しいくらいの、光。
いつ戻れるのかとか、どうやったら戻れるのかとか。わからない事はたくさんだけど、こんだけ綺麗な朝日が毎日見れるなら、それはそれでいいのかもしれない。

「……ん?」

じっと朝日を見ていたら、黒い小さな影がぽつり。なんだろうと目を凝らしながら人と人の間を歩いて船の先っちょへ行く。んんん…鳥?いや、それにしちゃでかい気が……というか、あれ。なんかこっちに近付いて来ている気がするんだがちょっと待て。私あんなの来られても対処出来ないよ。
二、三歩下がって鳥?を見ていれば、やはり鳥はばさばさと羽ばたきながらこっちへ向かって来た。それに危機感を感じて更に二、三歩下がれば、鳥は船の縁というか、まぁ、なんか。そこに止まった。
何の用だろうかと警戒しながら見ていれば、鳥は何をするわけでもなく黙って私を見てた。賢いのかな。

「君、つつかない?」

勇気を出して話しかけてみれば、鳥は船の中に入ってきてトトト、と数歩歩いた。そして、私は逆光でよく見えなかった鳥の姿を、そこでやっと見れた。

―――青い鳥、だ。


「君、あれだ。私の世界に出てくる童話の鳥みたい」

鳥が首を傾げた。そしてまたトトト、と数歩寄ってきた。もしかして、この鳥も警戒しているのだろうか。人に慣れてる感じもするし、この船によく出入りしてたりして。
だったら私の、先輩だね。

「でも……目がよいよいさんみたい」
「………」
「あ、よいよいさんは脳内の呼び名だ。マルコさん。君、知ってる?なんかね、素晴らしいお御髪した人」

トト、とまた鳥が数歩歩いてきた。けど、さっきよりは少なめの歩数。心なしか戸惑ってるように見えた。
……私から寄ったら、逃げられちゃうかな。
試しにそっち行くよ、と言ってから少しずつ歩いて行ってみたけど、鳥は何も反応せずじっとこっちを見てるだけ。見定められてんのかな。別に何も危害は与えないのに。

「……もふもふしてる…飛び付いていい?」

ぶんぶん!思い切り首を振られた。え。何その拒否りよう。
しかしこれで人語を理解している事がわかった。賢い鳥さんらしい。
飛び付くのが駄目ならせめて、と、ゆっくり手を伸ばして首を撫でてみた。触るのは別に良いのか、されるがままになってる。とか言っても、そんながしがし撫でるんじゃなくて、出来るだけゆっくり撫でてるけどさ。
やっぱりもふもふしてる。

「海以外は、どうなってるんだろ……君は見てきてるのかな」

こくん。鳥が頷いた。
やっぱり、私の世界とは違うのかな。君なら――見れるのに。
よし!と気合い十分に言って立ち上がれば、鳥がびくっとした。慌てて突然立ってごめん、と謝ればふるふると首を振った。ヤバいぞこの子。鳥頭という単語がログアウトする賢さだ。

「用がないなら、もう行きな。そんで、気が向いたらまたおいで」

もう一度鳥の頭を撫でれば、鳥はじっと私を見た後羽ばたき出した。ばいばい、と言えば振り返ってくれたけど、そのまま船を追い越して死角に入ってしまった。もう、姿は見えない。
朝日も違う。鳥すら、私が知ってるものと違う。いくら親切で良い人達だと言っても、それでどうこうなるわけじゃない。
悲しいとは不思議と思わないけど、妙な虚無感だけが広がっていく。自分の世界に執着がないのかと言われたらそれは違うけど、悲しいと思えるだけの何かはなかったのかもしれない。それだけふらふらと、人生を歩んできたわけで。
まぁ、だからこそパニックにならなくて済んでるんだろうし。そこは良いとこかな。

「早いねぃ」
「あ」

足音もなく、いつの間にか後ろに立っていた事にびっくりして口が開いた。ホントはマルコさん、と言おうと思ったけど、本人から名前を聞いたわけじゃないからやめといた。命名よいよいさん。

「おはようございます」
「おはよい。何かあったのかい?」

多分、こんな所でぽつんとしてたからだろう。朝日を見てたんです、と言おうと思ったけど、見ていた時間はそんな長くないし、どちらかというと……。

「幸せの使者に、会いまして」
「………は?」

首に手を当ててほぐしていたらしいよいよいさんは、その状態で固まった。これはなんともラフな感じだ。昨日イゾウさんとかハルタさんに聞かされた知的な長男の面影はどこにもない。レアなのかな。

「青い鳥に、会いまして。私の世界の童話で、幸せを呼ぶ青い鳥って言われるのがあったので」
「あぁ……だから幸せの使者かい」
「はい」

ホントに納得いったようなよいよいさんを見つつ、やっぱり目が似てるなぁと思った。何かご利益でもあるんだろうか、この方は。

「だから、大丈夫でしょう」
「あ?」
「幸せの青い鳥を見たから、異世界でもなんとかなるでしょうよ」

病は気から。そんな風に、何事も気持ちから。
よろしくお願いします、と頭を下げれば、今更になって自己紹介をされた。マルコさん的には改めてなんだろうけど、実は初めてなのに気付いて下さい。
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