top about main
進めばならぬ道ならば
なるほどねと、イゾウさんは呟いた。
イゾウさんの所に行くといった後、クエスチョンマークでも頭に浮かべてそうなエースさんに、イゾウさんの話が引っ掛かってるんですとだけ伝えた。そしたらエースさんは、わかった!と言ったかと思えばちょっと待ってろとか言ってサッチさんとマルコさんも連れてきた。え、何で?と今度は私が首を傾げれば、状況知ってる奴は多い方がいいかと思って、と。………いや悪くないんだけどさ。
そんなわけで、ぞろぞろとイゾウさんの部屋に向かった。ドアから顔を覗かせたイゾウさんは一瞬驚いてたみたいだけど、聞きたいことがあってと言えばすんなりと部屋にいれてくれた。心の広い人だ…!
部屋に入って目に入ったものは畳。部屋の一角だけにあって、土足禁止だそうだ。近くにある棚には昔の本…和紙、みたいなのがあって。引っ掛かりはどんどん大きくなる。
与えられた椅子に座ったところで事情を話した。事情って言っても、イゾウさんの文化と私の世界の文化が少し似ているとか、昔の時代のだけどとか、イゾウさんの出身地の文化をちらほら聞いてみて、比べてみたりとか、そんなん。
あと、私の仮定。
「……偶然、でしょうか」
なるほどと呟いてからはイゾウさんは黙ってしまった。マルコさんも難しい顔をしてるし、サッチさんとエースさんもちょっと口をへの字にして唸ってる。
やっぱり気のせいですかねぇ…というかこんな重い空気なら呼ばなくても…だって考え込むマルコさんなんか怖いし。考えてみりゃ知り合って一日目にしてこの図々しさ。私終わった。
「…なんとも言えねぇ、な」
ぽつり。マルコさんが口を開いた。その言葉に対して周りもうーんとまた唸る。真剣に考えてくれてるんだなあと改めて思うと、ちょっと申し訳ない感じがした。しかし頼る人も知識もないから仕方ないかな。うん、図々しく生きよう。
「そうだねい……こればっかしは正しいも何も言えないよい。でも、その仮定はちょっと興味深いねい」
「おれも文化の起源まではわからねェしな。ちょっと調べておく」
なんなら此処にある本も見てみるかィ?と言われて反射的にはいと答えた。イゾウさんは立ち上がって、棚にある本を数冊持ってきてくれた。ありがとうございますと言って受け取って、一番上にある本をパラパラと捲って―――固まる。
「日本語……」
見た目だけなんじゃないかと思っていたのに、どうやら中身は全部日本語らしい。それも、古典で見るような。やっぱり昔の日本みたいだと思って数行目を通してみる。けど、それは。私がいくら馬鹿だってわかるくらいに。
「イゾウさん……この本、は?」
「ん…おれの国に昔からある有名な物語だよ。作者も、いつからあるのかもわからねェが……」
ミミズがのたくったような字だけど、よくよく見ればそれはわかる。ゆっくりゆっくり解読したその行には、今は昔、竹取りの翁≠ニ書かれていた。
それだけ。
それだけ、わかれば十分だ。
「私の世界にも、ありますよ…この話」
「マジで!?これちょっと有力説なんじゃないのマルコ!」
びっくりしたように、でもちょっと嬉しそうにサッチさんが言った。イゾウさんも驚いたらしく、ほうと漏らした。
――エースさんとマルコさんは、渋い顔をしたけど。
どしたの、とサッチさんが問い掛ければ、エースさんはムスっとした顔をした。マルコさんも、エースさんほどじゃないけど…少し、訝しげだ。
「……上手く行き過ぎてて、気持ち悪ィ」
「あぁ、俺もだよい。俺達海賊がこんな事言うのもおかしい話だが――」
――神に踊らされてる気分だ。
マルコさんは、そう言った。
それは……私が敵か何かと疑われてるという事だろうか。そんなニュアンスに聞こえて、思わずきゅっと口を結ぶ。小さく下唇を噛めば、そんな些細な動作にも気付いたのか、マルコさんが慌てた。
「お前を疑ってるわけでも、悪意があるわけでもねェよい!」
立場とか性分で、深読みし過ぎちまうんだ、とサッチさんが耳打ちしてきた。ちなみにエースさんはよくわからないみたいな顔してマルコさんを見てる。ふむ、あなたはあれですか。悪意はないからこそ何で弁解してるかわからない感じか。直感タイプかな?
とにかく、とサッチさんがあわあわするオッサ、………マルコさんを遮って、言った。
「親父が此処にいて良いっつったんだ。お前を、信じたんだ」
だから俺達は、お前を信じるし、協力する。
な、とサッチさんが言って、イゾウさんが当然じゃねェかと笑った。
いや、そんな大々的に言わなくても私別に構わないんですが寧ろ疑われるのは当然だと思うんですが。ちょっと気恥ずかしさやら何やらで複雑な心境だと思った所で、もう一つ声が上がった。
「おれ、親父抜いても信じてっけど」
真顔でさらりと言うエースさんに、更に焦りは募る。何なのこの人達、良い人にも程があるっつかホントに海賊!?
最早若干引き気味に、最後の砦であるマルコさんをチラリと見る。
彼は、ぐっと声を詰まらせたかと思ったら、息を吐いた。溜め息にも、近かったのかもしれない。
「……そういう事だよい」
困ったように笑って、マルコさんはそう言った。
うわあああ、と。妙な感覚がぞぞぞと背中を走った。なんかのドラマでしょうかこれ。なんか、よくわかんないけど息が詰まりますはい。
――けど。
しあわせって……こういう事を、言うんでしょうか。
くしゃ、と頭を撫でられたら
触れてもいない心臓が、暖かくなった気がした。
その時、彼女の表情が曇ったのを
見逃す奴は、いなかった。
- 12 -
イゾウさんの所に行くといった後、クエスチョンマークでも頭に浮かべてそうなエースさんに、イゾウさんの話が引っ掛かってるんですとだけ伝えた。そしたらエースさんは、わかった!と言ったかと思えばちょっと待ってろとか言ってサッチさんとマルコさんも連れてきた。え、何で?と今度は私が首を傾げれば、状況知ってる奴は多い方がいいかと思って、と。………いや悪くないんだけどさ。
そんなわけで、ぞろぞろとイゾウさんの部屋に向かった。ドアから顔を覗かせたイゾウさんは一瞬驚いてたみたいだけど、聞きたいことがあってと言えばすんなりと部屋にいれてくれた。心の広い人だ…!
部屋に入って目に入ったものは畳。部屋の一角だけにあって、土足禁止だそうだ。近くにある棚には昔の本…和紙、みたいなのがあって。引っ掛かりはどんどん大きくなる。
与えられた椅子に座ったところで事情を話した。事情って言っても、イゾウさんの文化と私の世界の文化が少し似ているとか、昔の時代のだけどとか、イゾウさんの出身地の文化をちらほら聞いてみて、比べてみたりとか、そんなん。
あと、私の仮定。
「……偶然、でしょうか」
なるほどと呟いてからはイゾウさんは黙ってしまった。マルコさんも難しい顔をしてるし、サッチさんとエースさんもちょっと口をへの字にして唸ってる。
やっぱり気のせいですかねぇ…というかこんな重い空気なら呼ばなくても…だって考え込むマルコさんなんか怖いし。考えてみりゃ知り合って一日目にしてこの図々しさ。私終わった。
「…なんとも言えねぇ、な」
ぽつり。マルコさんが口を開いた。その言葉に対して周りもうーんとまた唸る。真剣に考えてくれてるんだなあと改めて思うと、ちょっと申し訳ない感じがした。しかし頼る人も知識もないから仕方ないかな。うん、図々しく生きよう。
「そうだねい……こればっかしは正しいも何も言えないよい。でも、その仮定はちょっと興味深いねい」
「おれも文化の起源まではわからねェしな。ちょっと調べておく」
なんなら此処にある本も見てみるかィ?と言われて反射的にはいと答えた。イゾウさんは立ち上がって、棚にある本を数冊持ってきてくれた。ありがとうございますと言って受け取って、一番上にある本をパラパラと捲って―――固まる。
「日本語……」
見た目だけなんじゃないかと思っていたのに、どうやら中身は全部日本語らしい。それも、古典で見るような。やっぱり昔の日本みたいだと思って数行目を通してみる。けど、それは。私がいくら馬鹿だってわかるくらいに。
「イゾウさん……この本、は?」
「ん…おれの国に昔からある有名な物語だよ。作者も、いつからあるのかもわからねェが……」
ミミズがのたくったような字だけど、よくよく見ればそれはわかる。ゆっくりゆっくり解読したその行には、今は昔、竹取りの翁≠ニ書かれていた。
それだけ。
それだけ、わかれば十分だ。
「私の世界にも、ありますよ…この話」
「マジで!?これちょっと有力説なんじゃないのマルコ!」
びっくりしたように、でもちょっと嬉しそうにサッチさんが言った。イゾウさんも驚いたらしく、ほうと漏らした。
――エースさんとマルコさんは、渋い顔をしたけど。
どしたの、とサッチさんが問い掛ければ、エースさんはムスっとした顔をした。マルコさんも、エースさんほどじゃないけど…少し、訝しげだ。
「……上手く行き過ぎてて、気持ち悪ィ」
「あぁ、俺もだよい。俺達海賊がこんな事言うのもおかしい話だが――」
――神に踊らされてる気分だ。
マルコさんは、そう言った。
それは……私が敵か何かと疑われてるという事だろうか。そんなニュアンスに聞こえて、思わずきゅっと口を結ぶ。小さく下唇を噛めば、そんな些細な動作にも気付いたのか、マルコさんが慌てた。
「お前を疑ってるわけでも、悪意があるわけでもねェよい!」
立場とか性分で、深読みし過ぎちまうんだ、とサッチさんが耳打ちしてきた。ちなみにエースさんはよくわからないみたいな顔してマルコさんを見てる。ふむ、あなたはあれですか。悪意はないからこそ何で弁解してるかわからない感じか。直感タイプかな?
とにかく、とサッチさんがあわあわするオッサ、………マルコさんを遮って、言った。
「親父が此処にいて良いっつったんだ。お前を、信じたんだ」
だから俺達は、お前を信じるし、協力する。
な、とサッチさんが言って、イゾウさんが当然じゃねェかと笑った。
いや、そんな大々的に言わなくても私別に構わないんですが寧ろ疑われるのは当然だと思うんですが。ちょっと気恥ずかしさやら何やらで複雑な心境だと思った所で、もう一つ声が上がった。
「おれ、親父抜いても信じてっけど」
真顔でさらりと言うエースさんに、更に焦りは募る。何なのこの人達、良い人にも程があるっつかホントに海賊!?
最早若干引き気味に、最後の砦であるマルコさんをチラリと見る。
彼は、ぐっと声を詰まらせたかと思ったら、息を吐いた。溜め息にも、近かったのかもしれない。
「……そういう事だよい」
困ったように笑って、マルコさんはそう言った。
うわあああ、と。妙な感覚がぞぞぞと背中を走った。なんかのドラマでしょうかこれ。なんか、よくわかんないけど息が詰まりますはい。
――けど。
しあわせって……こういう事を、言うんでしょうか。
くしゃ、と頭を撫でられたら
触れてもいない心臓が、暖かくなった気がした。
その時、彼女の表情が曇ったのを
見逃す奴は、いなかった。