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心うち和やかに


「第一回居候会議を始めまーす」

はいみんな前向いてーとハルタが物差し棒で白板を叩いた。言われなくても既に全員向いているし何よりその備品はどうしたと問いたい。
なんとも言えない気持ちで前を見ていれば、ハルタが事の事情を話し始めた。それも、もう確認するまでもない周知の事実。

――久々に隊長だけで集まった理由は、その会議のタイトル通り、居候……あづさについてだった。
基本的にはサバサバ。エース曰くバッサバッサした性格がちらほら出てきている。何もしなきゃ普通の子だけど、俺たちを見る目は強い。そして、くすんでいる。芯があるように見えて、心がないようにも見える。ふらふらでもしていれば、すっと消えそうな気さえする子だった。

そして決定打は、つい数時間前の表情。

エースに呼び止められて、サッチとあづさも連れて、イゾウの部屋に行った。聞いた話はかなり興味深かったが、同時にどこか引っ掛かりもした。否定したつもりはなかったんだが、疑ってると思われたらしく弁解。それぞれがそれぞれの言葉で、彼女を受け入れた。
その時だ。

「じゃあ、こっからはマルコお願い」

ハルタに言われてバトンタッチ。丁度回想してた所だったから、タイミングがいい。
そろそろと前に……と言っても、何故か親父の部屋チョイスな為、親父に背を向けないようにドアの前に立った。そして、今一度彼女を思い浮かべる。

「……表情、曇ったんだよい」
「?……お前等、誤解解いたんじゃねェのか?」
「あァ。安心した顔したさ。けど、頭撫でたら……曇った」
「陰った、の方が正しいかねい」

ラクヨウの問いかけに俺とイゾウで答える。

そう、陰ったんだ。
あの一瞬。

寂しいとも切ないとも取れる、あの子の奥底が、くすんだ瞳の奥を、垣間見た気がした。
すぐに元に戻ってへらりと笑った彼女に、俺達はあからさまには反応を取らなかった。彼女もまた、すぐに話題を変え、サッチの手伝いをしたいと言い出したから。

「立ち入るのもよくないとは思うがね。あれは、気になるもんがあったよい」
「そんなに?」
「そんなに」

どうせなら、楽しく過ごして欲しいじゃねェか。異世界からただ一人で来た、弟の恩人に。

女ってのは、媚び売ってキツイ匂いをまとわりつかせて、男とはまた別の欲がちらつくもんばかりだと思ってた。実際違うのは知ってはいるが、それはあくまで知識なだけで、海賊なんざやってれば自然と普通の女とは関わらない。
だからなのか。異様に彼女が、気にかかる。

「……あいつが何か影があんのはァ、最初に気付いた」
「親父…」
「だけどよ、それはおれたちがどうこうしても駄目なもんだろうよ」

事の成り行きを見ていた親父が、口を開いた。親父がそんな事を言うとは誰も思っていなくて、自然、目が迷う。どういう意図があんのか、読めない。
だけどおれたちには親父が全てで。親父が、絶対で。言い聞かせるように言う親父はきっとあづさの何かを理解していてるんじゃないかと、そんな気にさせた。
全部、わかっているような、その目。

「気にしてやんな。そんなもん、求めちゃいねェ」

何か言いたそうにした奴らは何人かいた。それはおれも例外じゃない。

―――馬鹿か、おれは。

本来なら疑ってもいいような、船に来て二日目の女。それを一日でわかった気ぃして、一日で受け入れて。自分の立場を忘れてる。
それでも何処か引っ掛かるのは何故なのか。よくわからねェ気持ちだけが先行していく。まさか惚れてんのか、とさえ過ったが、それは違う。あんな心地いいもんじゃねェ。
これは、そう。…義務感だ。そうしなきゃならねェよな、よくわからない感覚。
腹がたつ。此処でもまた、神に踊らされてるようで。

「……散るよい」

おれがそう言えば、隊長達は渋々と去っていく。それすらも違和感を憶えるくらい、何かが妙だ。
勘の鋭い末っ子は、他の奴らとは違う意味で俺を見ている。またか。そう顔に出てた。


――なぁ親父。おれ一人だけでもその理由が知りたいと思うのは、我が儘なのかい。







それは彼女が船の主を尋ねた、三十分あとの話
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