top about main
芽吹く花はなく
えええぇ…、と思わず声に出して引いてしまった。隣にいたハルタさんとサッチさんは苦笑して「そうなるよね、やっぱり」だそうです。おいおい、みんなそう思ってるならどうにかしましょうぜ……何この部屋……。
ドアを開け放したまま中に入れず、とりあえず入り口から見える範囲で確認する。洗濯物、洗濯物。おかしいな…エースさんに当番制だから大丈夫って聞いてたのに。大量に、しかも明らかにちゃんと洗われてない洗濯物の山がある時点で何かおかしい。いや、でもやっぱりおかしいのはそんなんじゃない。いいんだよ、ここ洗濯用の部屋らしいから。いくら汚くて溜まってたって、そういう部屋なんだから仕方ない。……だけどですね。
「これ…誰の趣味ですか……」
飾りなのかなんなのか。ぐちゃぐちゃと植物が置かれていてその一つ一つはとても綺麗だ。見たことないものばかりだし興味惹かれる。違うタイミングで出会っていたらじっくり眺めたいくらいだった。…………が、しかしだ。蛍光色に蛍光色を合わせた時のような、目に痛い状態で置かれてる。それは最早インテリアでも何でもない。洗濯物と植物でわけがわからないカオス空間が広まっている。
「ビスタがさ、ガーデニングしてみたいとか言い出してさ」
「まぁもう二年も前からだけどな」
ビスタ…………あぁそうだ。ビスタおじさまか。ビスタおじさまとガーデニングとはまたなんとも良い感じにマッチしたものだ。薔薇とか似合いそうだよね。の割には薔薇みたいな花はこの部屋の何処にもない。しゅ、趣向がわかんねぇ……私みたいなやつには高度過ぎるぜおじさま。入り口から一番近い花が心無しか水色のラフレシアに見えるんだけど。何なのそれ。この世界ってそんなもんなの?だいたい二年も前からなら船員さんだって誰かしら何とかしてもいいと思うんだ。悲惨過ぎる。これじゃ洗濯も洗いたくたって洗えないでしょ。
「おやお嬢さん。私のガーデンに興味でも?」
声と口調で十分誰だかわかってしまった私は振り返る前に盛大な溜め息を吐いた。タイミング良すぎだと思うんですが。その辺どうなんですかおじさま。
ハルタさんとサッチが若干吃りながらビスタさんと言葉を交わしていた。ちょろっと聞いてみていたら、「部屋案内してたんだ」「成る程。確かにここは自慢のガーデンだ。案内もしたくなる」「はは、は……」なんて会話が聞こえてきた。いやいやおじさまよく聞いて!今すごいサッチさんが渇いた笑いしたから!あからさまだったでしょうが!!
うずうずと心臓あたりから何かが沸き上がってきて、あぁよせ馬鹿、なんて頭では冷静に自分を止めようとするのに実際は止まる気配がない。だって家事をするのは向こうでは当たり前だったわけで、ちょっと家庭環境的に私が家事を取り締まって指示する立場だったわけだし。
つまり何が言いたいかって。
「………見てられません」
「へ?」
ハルタさんの素っ頓狂な声が耳に入ったけど、私には気にするほどのものではないように思えた。サッチさんの料理は素晴らしかったから、家事に対して全く不満はなかったのに………あぁもう。三人ともきょとんってしてるし。ザ・空気読める組のサッチさんとハルタさんは恐る恐るって感じも醸し出してきたし。全く自分でも笑えてくる。
ぐっと顔を上げて、自分の身長より遥か上にあるビスタさんに顔を向ける。小首傾げた素晴らしきおじさまことビスタさんに笑顔を向けて、この船に乗ってから失礼なことは頭の中以外では一切言わなかった口を―――開く。
「いいですかビスタさん。まずガーデンとは庭のことを差す言葉なので使い方が間違ってます。そりゃ室内でもやろうと思えばやれますけど、洗濯物と一緒に植物置くってどうなんですか。汚れません?大丈夫だとしてもこの配置は明らかにおかしいでしょう!並べるならもう少し見栄えよくして下さい、花がかわいそうです!」
「あの…あづさちゃ、」
「だいたいサッチさん達も気付いてるなら言うか、言えないなら密かにでもなんとかしたらいいじゃないですか。わかりました?わかりますよね?わかったなら今すぐなんとかして下さい。それが無理なら私にこの部屋綺麗にする許可下さい。家事は譲れませんから!」
「え、あ……う、うん……」
「ごめんなさい」
「えぇっ!?」
一気に熱くなって一気に冷めた私は、圧倒されたサッチさんの返事を聞いた途端土下座した。やっちまったああああ!!顔が上げられん!つい家族や友達を叱るのと同じ感覚でマシンガン並にずばずば言ってしまったぜコンチクショウ、と頭ん中で自分に罵詈雑言。最近ちょっと慣れてきたのと、相手が心優しいこの船で更に心優しい三人だったからって調子乗りすぎた。マジ私切腹ものですねごめんなさい。
顔を上げなさいお嬢さん、と肩に手を置かれてそろそろと顔を上げれば、ビスタおじさまがそれはそれは良い笑顔をしているのが見えた。そして視界の端でハルタさんが口に手を抑えて体を震わせてた。………え。
「それじゃあ頼ませて頂くよ。いやぁ、家事が出来る子は重宝しなければ」
「………へ?」
はっはっは、と愉快そうに笑うビスタおじさまは本当におじさまって感じだ。大抵この船にいるのはおっちゃんとかおっさんって言葉が似合う人なのに…………というか待て。ん?
何かおかしい気がするんだけど…。
「エースがばっさばっさしてる子って言ってたけど……こんな所で見れるとは思わなかったわ」
ごめんあづさちゃん、とサッチさんに苦笑された上に肩にぽんと手を置かれて宥められた。ハルタさんは未だ爆笑中ながらもごめんねーと合間合間に一言。……いやまさかそんな。良い人組であるこの人達がそんなまさかいやいやいや!
「いやはや嵌めたわけではなかったのだがね。少し手伝ってくれれば良かったのだが……助かるよ、お嬢さん」
ぽかん。開いた口が閉まらないとはこのこと。まさかそんな小さな策略に乗せられた上に若干とはいえ本性出しちまったのか。おいおい、なんてこったよこの状況。おじさまの爽やかな笑いが心に痛い。何これ立ち直れない……。
エースさんが言うばっさばっさの部分が見たかった、とか言われてしまえば、もう今度エースさんに詳細問い詰めてやろうとしか思えなかった。サッチさんとハルタさんが謝罪してくるからこそ何も言えない。そして結局あの洗濯室は私がほぼ全部仕切りつつ四人で片付けてしまった。ええもう、それはそれは完璧に。
船員同士の仲の良さを知った気がします。……色んな意味で。
- 16 -
ドアを開け放したまま中に入れず、とりあえず入り口から見える範囲で確認する。洗濯物、洗濯物。おかしいな…エースさんに当番制だから大丈夫って聞いてたのに。大量に、しかも明らかにちゃんと洗われてない洗濯物の山がある時点で何かおかしい。いや、でもやっぱりおかしいのはそんなんじゃない。いいんだよ、ここ洗濯用の部屋らしいから。いくら汚くて溜まってたって、そういう部屋なんだから仕方ない。……だけどですね。
「これ…誰の趣味ですか……」
飾りなのかなんなのか。ぐちゃぐちゃと植物が置かれていてその一つ一つはとても綺麗だ。見たことないものばかりだし興味惹かれる。違うタイミングで出会っていたらじっくり眺めたいくらいだった。…………が、しかしだ。蛍光色に蛍光色を合わせた時のような、目に痛い状態で置かれてる。それは最早インテリアでも何でもない。洗濯物と植物でわけがわからないカオス空間が広まっている。
「ビスタがさ、ガーデニングしてみたいとか言い出してさ」
「まぁもう二年も前からだけどな」
ビスタ…………あぁそうだ。ビスタおじさまか。ビスタおじさまとガーデニングとはまたなんとも良い感じにマッチしたものだ。薔薇とか似合いそうだよね。の割には薔薇みたいな花はこの部屋の何処にもない。しゅ、趣向がわかんねぇ……私みたいなやつには高度過ぎるぜおじさま。入り口から一番近い花が心無しか水色のラフレシアに見えるんだけど。何なのそれ。この世界ってそんなもんなの?だいたい二年も前からなら船員さんだって誰かしら何とかしてもいいと思うんだ。悲惨過ぎる。これじゃ洗濯も洗いたくたって洗えないでしょ。
「おやお嬢さん。私のガーデンに興味でも?」
声と口調で十分誰だかわかってしまった私は振り返る前に盛大な溜め息を吐いた。タイミング良すぎだと思うんですが。その辺どうなんですかおじさま。
ハルタさんとサッチが若干吃りながらビスタさんと言葉を交わしていた。ちょろっと聞いてみていたら、「部屋案内してたんだ」「成る程。確かにここは自慢のガーデンだ。案内もしたくなる」「はは、は……」なんて会話が聞こえてきた。いやいやおじさまよく聞いて!今すごいサッチさんが渇いた笑いしたから!あからさまだったでしょうが!!
うずうずと心臓あたりから何かが沸き上がってきて、あぁよせ馬鹿、なんて頭では冷静に自分を止めようとするのに実際は止まる気配がない。だって家事をするのは向こうでは当たり前だったわけで、ちょっと家庭環境的に私が家事を取り締まって指示する立場だったわけだし。
つまり何が言いたいかって。
「………見てられません」
「へ?」
ハルタさんの素っ頓狂な声が耳に入ったけど、私には気にするほどのものではないように思えた。サッチさんの料理は素晴らしかったから、家事に対して全く不満はなかったのに………あぁもう。三人ともきょとんってしてるし。ザ・空気読める組のサッチさんとハルタさんは恐る恐るって感じも醸し出してきたし。全く自分でも笑えてくる。
ぐっと顔を上げて、自分の身長より遥か上にあるビスタさんに顔を向ける。小首傾げた素晴らしきおじさまことビスタさんに笑顔を向けて、この船に乗ってから失礼なことは頭の中以外では一切言わなかった口を―――開く。
「いいですかビスタさん。まずガーデンとは庭のことを差す言葉なので使い方が間違ってます。そりゃ室内でもやろうと思えばやれますけど、洗濯物と一緒に植物置くってどうなんですか。汚れません?大丈夫だとしてもこの配置は明らかにおかしいでしょう!並べるならもう少し見栄えよくして下さい、花がかわいそうです!」
「あの…あづさちゃ、」
「だいたいサッチさん達も気付いてるなら言うか、言えないなら密かにでもなんとかしたらいいじゃないですか。わかりました?わかりますよね?わかったなら今すぐなんとかして下さい。それが無理なら私にこの部屋綺麗にする許可下さい。家事は譲れませんから!」
「え、あ……う、うん……」
「ごめんなさい」
「えぇっ!?」
一気に熱くなって一気に冷めた私は、圧倒されたサッチさんの返事を聞いた途端土下座した。やっちまったああああ!!顔が上げられん!つい家族や友達を叱るのと同じ感覚でマシンガン並にずばずば言ってしまったぜコンチクショウ、と頭ん中で自分に罵詈雑言。最近ちょっと慣れてきたのと、相手が心優しいこの船で更に心優しい三人だったからって調子乗りすぎた。マジ私切腹ものですねごめんなさい。
顔を上げなさいお嬢さん、と肩に手を置かれてそろそろと顔を上げれば、ビスタおじさまがそれはそれは良い笑顔をしているのが見えた。そして視界の端でハルタさんが口に手を抑えて体を震わせてた。………え。
「それじゃあ頼ませて頂くよ。いやぁ、家事が出来る子は重宝しなければ」
「………へ?」
はっはっは、と愉快そうに笑うビスタおじさまは本当におじさまって感じだ。大抵この船にいるのはおっちゃんとかおっさんって言葉が似合う人なのに…………というか待て。ん?
何かおかしい気がするんだけど…。
「エースがばっさばっさしてる子って言ってたけど……こんな所で見れるとは思わなかったわ」
ごめんあづさちゃん、とサッチさんに苦笑された上に肩にぽんと手を置かれて宥められた。ハルタさんは未だ爆笑中ながらもごめんねーと合間合間に一言。……いやまさかそんな。良い人組であるこの人達がそんなまさかいやいやいや!
「いやはや嵌めたわけではなかったのだがね。少し手伝ってくれれば良かったのだが……助かるよ、お嬢さん」
ぽかん。開いた口が閉まらないとはこのこと。まさかそんな小さな策略に乗せられた上に若干とはいえ本性出しちまったのか。おいおい、なんてこったよこの状況。おじさまの爽やかな笑いが心に痛い。何これ立ち直れない……。
エースさんが言うばっさばっさの部分が見たかった、とか言われてしまえば、もう今度エースさんに詳細問い詰めてやろうとしか思えなかった。サッチさんとハルタさんが謝罪してくるからこそ何も言えない。そして結局あの洗濯室は私がほぼ全部仕切りつつ四人で片付けてしまった。ええもう、それはそれは完璧に。
船員同士の仲の良さを知った気がします。……色んな意味で。