menu
top    about    main

なくこともなく


―――島についた。

久々の陸地に密かにわくわくしながらも異世界異文化ってことにもすごく興味があった。「短い期間かもしれねェが、長くこの船にいる場合もあるからよい」とマルコさんに言われ、少量でも生活用品くらいは買おうということになった。自称お世話係らしいエースくんを付き添いという条件付けで。

そこまでは、全然全く良かったというのに。


「………迷惑、かけることになったなぁ…」

はあぁぁ、と深い溜め息を付きながらも壁の角から街の様子を見る。どこ行きやがったッ!とかなんとか荒々しい言葉が聞こえてくるのと同時に、数人の男達が走ってくのが見えた。おいおい、なんか増えてない……?壁にまた隠れて小さく息をつけば、くん、と服の裾を引っ張られた。目を向ければついさっき出会ったばかりの、小さな、男の子。

「だいじょう、ぶ?」
「……大丈夫よ、っと!」

茶色で、恐らく天然パーマらしい髪の毛に水色の目。不安そうな顔をしてるその子の頭をぐしゃぐしゃと撫でれば、ちょっとだけだけど笑ってくれた。――エースさんが買い物の途中、ちょっと待ってろと言ってどこかに駆けて行ってしまった。私は近くにある公園みたいなところでぼけぇっとしていて………そこで、三人くらいの男の人に追われてる彼を見つけたのだ。追われてた理由はわからないし、もしかしたら彼は何か悪いことをしたのかもしれない。だけど天パに茶色に水色のその特徴は、普段お世話になっている誰かさん達を連想させた。放って、おけなかった。
気づけばその男達の間を縫って彼に近付き、手を引いて逃げ出していた。そして現在にいたるわけだけど―――いやはや、我ながらなんて考えなし。

「聞いていい?」
「ん…?」
「なんで追われてたの?」
「………」

ぎゅっと、掴まれた裾に力が加わった。あぁ、強要はよくなかったわ、なんて、いつもなら詮索なんてしないだろうよと違和感。けどよく考えれば、この子を連れ出したところから違和感。私は………そんな厄介ごと、避けるもの。いくら恩人達を連想したからって、見ず知らずの、しかも何をしたかわからない人間をだなんて。
一気に嫌な感情が渦巻く中、私の腰辺りに頭があるその子は一生懸命何かを考えているようだった。ごめんね。そういう意味を込めて今度はゆっくりと頭を撫でると、彼はくんくん、と裾を引っ張ってくる。あれ、嫌だったかな。それとも何かあった?と首を傾げながらもとりあえずしゃがんで目を合われば、彼はあのね、と小さく切り出した。

「おとーさんが、死んじゃったの」
「………うん」
「でね、……おかーさんが、ちがう人と、つきあってね。でもおかーさんも、死んじゃったの」
「………」
「おとーさんじゃないおとーさんは、おかーさんの、ざいさん、が、欲しいんだって」
「………」
「だからぼくが、欲しい、んだって。でも、……みんないっぱい、いじ、…いじ、める、から……ッ」

ぶわりと、小さな顔の大きな目が潤んだ。もういいよと言って抱き締めてやれば、その子は嗚咽を漏らして泣き出した。それでも小さく、小さく。人目を憚るように。
そうして、耐えてきたのかななんて、思わせられてしまうくらいに。

(――…乗り掛かった船、ってやつ?)

内側から競り上がってくるような感覚に脳内で小さな溜め息。あとで絶対訪れるであろう、隊長さん方の激怒と叱咤。そして疑いと殺意。けどそれを、甘んじて受け入れてやろうじゃないか。迷惑に迷惑を重ねたこの恩知らずに、何を言われ何をされても文句は言わない。そのあとの関係性だってどうなったっていい。
――こんな小さな子、置いて行けない。

「ねぇ、おチビくん」
「ん…ぐ……?」
「私が、逃げ道を作ってあげる。だからその代わり君は――私に、君のおとーさんじゃないおとーさんの家、教えてくれないかな」

大きい目が更に大きく見開き、そのせいでぽろりとまた、溜まっていた涙が落ちた。涙腺が緩んでいたはずなのに驚きのあまりか涙も止まってる。なんで、と顔に書いてあるかのように私を見てくるその子に、私はただ大丈夫とだけ言った。それでも強く、和やかに、言い聞かせるように。彼が感じている不安要素なんかなくなるくらい、その一言で私を信じてくれるように。
ね?と優しく言えば、眉間に眉を寄せて不安いっぱいな顔をしたあと、小さくこくりと頷いた。ありがとうと返してまた彼の頭を撫でると、私は立ち上がりもう一度壁に隠れながら様子を伺った。さっきの人達が探し回ってる気配は………ない。

「今から、安全なところまで逃げます。そのあと二時間経ってもお姉ちゃんが戻ってこなかったら、これ持って逃げなさい」
「うん…」
「でももし、時間内でお姉ちゃんが来る前に連中に見つかったら、その場合も全力で逃げなさい」
「わか、った」

買い物用にと持っていたお金の余りを全て託して、人気のない場所で且つ海にでも山にでも街にでも逃げやすい場所を選んで、そこにあった岩の、子供しか入れないくらい小さい窪みにその子を隠した。追ってきちゃダメだよ、と念押しして返事を聞いてから背を向けた。相手の所在地は、もうとっくに彼に聞いて一致してる。


「覚悟しとけよ……ってね」


――あぁ、やっぱりどこか、私が私らしくない。








天然パーマ。茶色の髪。水色の目。

被って見えたのはそれだけじゃなくて


心はまるで………私のようで。

- 17 -