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其のもの


ギシギシギシ

小さな、恐らく物置らしい部屋に更に物を密集させた一室。物と物の間の隙間に体育座りで座り込んで、ただただぼけっとしてる。やることもないし、海の上じゃ逃げれそうにもない。助けを呼ぶなんてものも論外。この海域に船は寄り付かないと聞いたし、船員みんなが家族、という特殊体制の彼らだ。他人の私を助けには、来ないと思う。
―――どうやらそのまま漂流した後もう一度引き返すことにしたらしいこの船の人間は、私を道案内係としたらしい。知らないって主張したのに問答無用で押しきられちゃったりなんかしてさ!危害がない分マシなのかもしれないけど、こんな狭くて薄暗くてギシギシ物音するところに居たって何もよろしくない。

「………いつ着くのかなぁ…」

この海の流れを使ってたどり着くのは一つの島らしい。どんな島かは一切説明なしだったからわからないけど、とりあえずその島に到着したら島の周りを半周くらいして引き返すと元の島に帰れるのだと。ふむ。
時間は大分経っている。そろそろ着いちゃっていんじゃないの?せめて引き返し地点くらいには着かないと気分的には憂鬱っていうかさ……あ、でも上手くいきゃその島で脱走出来んじゃないの?あれ?そういう展開でもいけんのかなもしかして……!

ぐっと気合を入れて立ち上がる。一瞬にしてテンションが上がったとか私なんて現金。でも何もしないよかマシっていうかさ?最悪海に飛び込…………んだら死ぬわ…ちょっと無理だねそれは………。
ははは、と渇いた笑いを自分で自分にしてからふらふらと扉に向かう。何かしら理由つけて外出ればいいかな、なんて思って若干ドキドキとしながら扉を開けば……………誰もいなかった。

「…………あれ…これホントで逃げれるんじゃないすかね…」

おいおいおい、良いのかよそれ………思わずひきつった笑顔になっちゃったし更に渇いた笑い声になったんだけど…いやなんか脱走出来そうだからこそ逆に行きたくないっていうか………若干罪悪感すら感じたんだけど………えええええ…。

開け放した扉目の前にして突っ立ってる私。シュールにもほどがあるわ……!

がしがしと軽く頭を掻いて小さく溜め息。これはなるようになれ精神しかないじゃないの…何この展開。案外馬鹿だなあの人たち……。気が抜けるものではあるけど、まぁ仕方ない。わざわざ見逃す理由もないし、逃げてしまおうかな。
この程度に不安がるものなら、この世界に来た初日に挫折してる。良いじゃないか、上等です。とくに悪びれることなく歩いていったら、なんてこったまさかの展開!扉どころか船の殆どに人がいない。いや、これはさすがにちょっと…と口角がひきつったけど、それは何もホラーな展開でも何でもない、至極単純なものであった。

とっくのとうに、陸地にいたんだ。

あっさりと出れた部屋から見た景色は、オレンジ色にひかるたくさんの明かり。小さい頃に見た近所のお祭りのようだ、とぼんやり思った。だって笛の音もちらほら聞こえるし、ホントのお祭りのよう。……あぁ、だとしたら納得かも。ついた島でお祭りやってたら、遊び行きたくもなるよねぇ。
まぁだからといって、見張りもいないのはやっぱり馬鹿としか言えないんだけど。

「ここで逃げ切ったら私の勝ち……ってか?」

あの人たちの所へ戻れる可能性は、正直もう考えられなかった。ひとりでこっから頑張って逃げて、頑張って生きて、いつか…………戻れたら、いいよね。なんて。
理想みたいじゃないかとほんの少し悲しくなったけど、やっぱり自分のちっぽけな器量じゃそんなもんだろう。高望みはしちゃいけない。出来るものしか手に入らないし、多くを望めば手に入らないものだって多い。

ちっぽけな願望を、私は祈ってようじゃないか。


「………笹谷あづさ、脱出作戦、いっきまーす」
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