menu
top    about    main

愛しき愛し


「―――おい!船が一隻、ねェ!!」

もう一度、念のために。そう言って戻ってきたアノ野郎の船を探れば、聞いた話よりも一隻船が足りなかった。恐らく釣りとか用の………簡易的な、小舟。

「無理矢理紐を切ったあとがあるねい……」
「じゃぁやっぱり、あづさが……」

エースもマルコも眉間に思いっきり皺寄せて、中途半端に切れてる紐の先をみた。綺麗に切れてるとは言い難いそれに、うっすらと血の赤さえ見えた気がした。はは……んだよ、それ……。

嫌に落ち着いてんな、とはさっきジョズに言われた言葉。あまり切羽詰まりすぎるな、とはビスタに言われた言葉。どっちも正解で、どっちも不正解だ。
自分のせいとまではいかなくとも、あづさが居たはずの部屋を探したってコトでエースまで責任負った顔しやがる。お前はなんも悪くねェんだ、って、雰囲気だけで伝える。言葉にしても無駄なのは知ってるから。

「海に出たってのか……?航海術も、知らねェのに?」
「この辺の流れなら問題ないっちゃあ問題ねェな……さっき通ってきたあの海域がおかしいだけでよい」
「元いた島に帰るってことか?」
「いや、多分違う。……逃げたんじゃ、ねェかな」
「おれもそう思うよい」

陸に着いたことすら気づいてない。アノ野郎はそう言ったけど、だからといってずっと気付かないような子でもない。それから、ずっと危ない場所にいるような子でもない。だってあづさちゃんは、普通の、平和的な、女の子なんだから。危なくても何でも、やんないよりマシなはずだ。知らない奴の知らない船……明らかに、よくない奴らのトコロに。ずっといるはずは、ない。

「エース。周辺の陸地は、もう探したんだったよな?」
「ん。……手掛かり、なかった」
「ならやっぱり海だねい。おれは上から探すよい」
「もうすぐ人も寝静まるしな。島の灯りが消えたら……まず、目が利かねェ」
「……空からの捜索も難しくなる」

ほんの一瞬だけ目を合わせてから、何も言わずにそれぞれの行動へと移る。
おれはクルーの連中のところへ。マルコは空へ。エースは、ストライカーで海へ。

夜の海は危険だ。知識のないやつが海に出ることすら危ないのに、夜になれば尚更過ごしにくくなる。航路も何もかもわからなくなるし、何かが迫ってきても暗くてよく見えない。一人だけしかいないから、見張りすら置けない。
唯一救いがあるとすれば、あづさちゃんが能力者じゃないことだ。

もし仮に、夜の、冷たい海に落ちたら―――しかもそれが能力者だった場合なら―――

考えてゾっとする。そればっかしは、百パーセント助からないって言い切れる。
それならまだ……今の状況なら、助かる可能性も高いって。

そう、信じて。


「あづさちゃんは多分、海だ!アイツらの小舟で逃げたっぽい!」
「わかった!!」

全力で自分の船まで駆け抜けて、呼吸を整えるのも後回しに、勢いそのままに言う。
伝えるもん伝えれば、あとは所々からの返事と共に動いてくれる。おれはちょっと回復してからでも、入れる。


マルコは空へ。エースは海へ。

おれも自分一人で探せる力が……あれば良かったのに。


もどかしい気持ちだけが心の内を支配する。
別に、あの二人を信頼してないわけじゃない。寧ろすげェ信頼してる。だってアイツらは、おれの大事な、家族なのだから。
でも。それでも。……自分が守りたいものを守れないもどかしさってのは、別物で。

「頼むぜ……」

遠くの空は既に紫色へと染まっていってる。
この島は日が長いわけではない。直ぐに完全に日が暮れて、何も見えなくなる。

そうなる、前に。

「っ隊長!?」
「サッチ!?」


――おれのせい、なんていうものは、やっぱりおれが合うと思うんだ。

お前みたいな純粋な気持ちじゃない、私利私欲なおれに。


ならこの程度のリスク―――軽い、よな。




深い青へ、単独航海

- 22 -