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てふてふ追いかけて
「あづさちゃん、ちょいといいかィ?」
―――……イゾウ…さん、かな?
船員さんたちに言われた通り、ぐっすり夢の中に入って疲れをとっていれば、マルコさんと並ぶくらい独特な口調をした声が聞こえた。囁くくらいの、小さな声。多分イゾウさんだと思う。
「どう…かしたん、ですか…?」
「起こしちゃって悪いね。体の方は大丈夫?」
「ん……大丈夫ですよ」
のそのそと起き上がって目を擦る。……薄暗い…ってことは、まだ日も上る前ってとこかな……正直言うと物凄く眠い。まぁ、そんなこと言うわけないけどね。寧ろ言えない。言えるはずがない。うん。イゾウさんも、なんかちゃんとした用じゃなきゃこんな時間にわざわざ訪ねてきたりしないだろうし。ここはしっかりと起きて話を聞くべきだろうなと意識を無理矢理にでも浮上させた。
「ちょっと、外出れねェかねぇ……」
「今から…ですか?」
「ん。別にもっと明るくなってからでもいいんだがァ……ちぃとばかし、嫌でね」
「……わかりました」
サッチさんと約束した時間は昼間だ。人が起きる頃には戻って来れるかだけを確認して、軽く身だしなみだけ整える。よくないのはわかってるけど、昨日は疲れてすぐ寝てしまったから服は着替えてない。……あ。考えてみれば何日着てるんだ…?三日目、になるのかな……うわそれは流石にヤバい。あとで着替えよ……。
まだ少しぽやぽやとした頭で、イゾウさんのあとに続いて外に出る。そしてそのまま船を降りて、昨日チラッとだけ見た島に足を踏み入れた。
「あづさ。……此処なんだ」
「え?」
「此処が、おれの出身地―――ワノ国だ」
歩きながら、どこかに導かれながら、イゾウさんはそう言った。ワノ国……ね。通りで。
昨日から、ちょっとだけ似てるなぁなんて、そんな風に思ってた。道の途中でよく見たオレンジの光は、恐らく祭りか何かやってたんじゃないかな。小さくだから聞き間違えかと思ってたけど、笛の音も聞こえてたし。
ワノ国。倭の国。私の現時点での目標場所。向こうに帰る手掛かりになるかもしれない、根拠もない可能性がある国。―――目的地には、とっくについていたのか。
ポッカリ、と……ほんの少しだけ感じる虚無感。虚空感。あぁ、ついてしまったのかっていう冷静な解釈と、それをなんとなく良いとも思えないよくわからない中途半端な感情。それがなんだか懐かしく思えて、でもそんな感情に慣れていることも思い出して、意味もなく笑いそうになった。意図するものが何かは、知ってる。
そして、今イゾウさんが何を言おうとしているのかも。なんとなく。ただただ、なんとなく。勘に過ぎないけど………わかる気がする。そんなに簡単にいくはずがない、トントン拍子に物事が進むなんて、そんな都合よくいくなら誰も苦労しないのに。もし当たってしまっていたら……それはやっぱり、最初からイレギュラーだったっていう証明になるのかな。
気まずい空気だけが流れる。心なしか、イゾウさんが戸惑ってるようにも見えた。あぁ、でもそれはまるで………戸惑いの中にも、しっかりとした意思がある目なんて、
(……まるで、どこぞの長男みたいだ)
「……探してェみてなァ…何か、情報ねェかとさ……」
「はい」
「…あづさちゃん」
「はい?」
――みっけちまった。
そう言ってから、イゾウさんは着物の袖に手をいれて、そこから古びた本を一冊取り出した。……そこに何か書いてあるって、ことかな……なんにせよ、多分何かしらあったんだろうね。根拠のない可能性が、根拠のある可能性になる決定打が。この島に、この国に。イゾウさんの、手の内に。
スッと、本を差し出される。表紙には文字も絵も何も書いてない、赤茶色の本。やっぱりこれに関係するらしい。読んでみろ、イゾウさんが目で、そう合図してる気がした。そして、これを取ってしまったらどうなるか………私は、知ってる。
……だけど。私の中の答えだって―――もう出てるんだ。
「どうするかは、自分で判断すりゃァいい。何を選んでも、文句は言わねェさ」
「はい」
「………けど」
「………」
「おれは………選んで欲しくねェと、思ってる」
何を、とは言わない。きっとそれは、私を気遣って言った言葉。困らせないための、曖昧な言葉。
「ありがとうございます。イゾウさん」
イゾウさんは、ほんの少し困ったように、笑った。
手から手に渡った、本。
―――出てくるのは………吉と出るか、凶と出るか。
まさしく、予想不可能な運試し。
- 25 -
―――……イゾウ…さん、かな?
船員さんたちに言われた通り、ぐっすり夢の中に入って疲れをとっていれば、マルコさんと並ぶくらい独特な口調をした声が聞こえた。囁くくらいの、小さな声。多分イゾウさんだと思う。
「どう…かしたん、ですか…?」
「起こしちゃって悪いね。体の方は大丈夫?」
「ん……大丈夫ですよ」
のそのそと起き上がって目を擦る。……薄暗い…ってことは、まだ日も上る前ってとこかな……正直言うと物凄く眠い。まぁ、そんなこと言うわけないけどね。寧ろ言えない。言えるはずがない。うん。イゾウさんも、なんかちゃんとした用じゃなきゃこんな時間にわざわざ訪ねてきたりしないだろうし。ここはしっかりと起きて話を聞くべきだろうなと意識を無理矢理にでも浮上させた。
「ちょっと、外出れねェかねぇ……」
「今から…ですか?」
「ん。別にもっと明るくなってからでもいいんだがァ……ちぃとばかし、嫌でね」
「……わかりました」
サッチさんと約束した時間は昼間だ。人が起きる頃には戻って来れるかだけを確認して、軽く身だしなみだけ整える。よくないのはわかってるけど、昨日は疲れてすぐ寝てしまったから服は着替えてない。……あ。考えてみれば何日着てるんだ…?三日目、になるのかな……うわそれは流石にヤバい。あとで着替えよ……。
まだ少しぽやぽやとした頭で、イゾウさんのあとに続いて外に出る。そしてそのまま船を降りて、昨日チラッとだけ見た島に足を踏み入れた。
「あづさ。……此処なんだ」
「え?」
「此処が、おれの出身地―――ワノ国だ」
歩きながら、どこかに導かれながら、イゾウさんはそう言った。ワノ国……ね。通りで。
昨日から、ちょっとだけ似てるなぁなんて、そんな風に思ってた。道の途中でよく見たオレンジの光は、恐らく祭りか何かやってたんじゃないかな。小さくだから聞き間違えかと思ってたけど、笛の音も聞こえてたし。
ワノ国。倭の国。私の現時点での目標場所。向こうに帰る手掛かりになるかもしれない、根拠もない可能性がある国。―――目的地には、とっくについていたのか。
ポッカリ、と……ほんの少しだけ感じる虚無感。虚空感。あぁ、ついてしまったのかっていう冷静な解釈と、それをなんとなく良いとも思えないよくわからない中途半端な感情。それがなんだか懐かしく思えて、でもそんな感情に慣れていることも思い出して、意味もなく笑いそうになった。意図するものが何かは、知ってる。
そして、今イゾウさんが何を言おうとしているのかも。なんとなく。ただただ、なんとなく。勘に過ぎないけど………わかる気がする。そんなに簡単にいくはずがない、トントン拍子に物事が進むなんて、そんな都合よくいくなら誰も苦労しないのに。もし当たってしまっていたら……それはやっぱり、最初からイレギュラーだったっていう証明になるのかな。
気まずい空気だけが流れる。心なしか、イゾウさんが戸惑ってるようにも見えた。あぁ、でもそれはまるで………戸惑いの中にも、しっかりとした意思がある目なんて、
(……まるで、どこぞの長男みたいだ)
「……探してェみてなァ…何か、情報ねェかとさ……」
「はい」
「…あづさちゃん」
「はい?」
――みっけちまった。
そう言ってから、イゾウさんは着物の袖に手をいれて、そこから古びた本を一冊取り出した。……そこに何か書いてあるって、ことかな……なんにせよ、多分何かしらあったんだろうね。根拠のない可能性が、根拠のある可能性になる決定打が。この島に、この国に。イゾウさんの、手の内に。
スッと、本を差し出される。表紙には文字も絵も何も書いてない、赤茶色の本。やっぱりこれに関係するらしい。読んでみろ、イゾウさんが目で、そう合図してる気がした。そして、これを取ってしまったらどうなるか………私は、知ってる。
……だけど。私の中の答えだって―――もう出てるんだ。
「どうするかは、自分で判断すりゃァいい。何を選んでも、文句は言わねェさ」
「はい」
「………けど」
「………」
「おれは………選んで欲しくねェと、思ってる」
何を、とは言わない。きっとそれは、私を気遣って言った言葉。困らせないための、曖昧な言葉。
「ありがとうございます。イゾウさん」
イゾウさんは、ほんの少し困ったように、笑った。
手から手に渡った、本。
―――出てくるのは………吉と出るか、凶と出るか。
まさしく、予想不可能な運試し。