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手放しで与えられたなら(1/2)
―――かいぞく、せん?
ぽかーんと口を開いたのは数分前。あとでちゃんと話してあげるわと言って、白衣の天使には着替えを押し付けられ、病室のベッドのカーテンを閉められた。
とりあえず着替えない事には、という意味なんだろう。一応隊長さんらしい人に頼まれたって事は、やっぱり断ったりとか出来ないんだろうし。うん、よくわかんないけど大変だ。ナースさん。
腕に抱いていた服をぱぱっとベッドの上に広げてみれば、私の性格を一瞬で見極めたのか、女の子女の子してるような服ではなかった。いや、ちょっとはそんな要素はあるんだけど。あの可愛らしいナースさんのイメージとは違う、服。
ジーンズ生地の青いハーフパンツに、白に赤の模様の入ったベルト。上は黒いタンクトップの上に白の肩出しの長袖。
ついでのようにカーテンの隙間から渡された黒のブーツの紐をぎゅっと縛って、どこか変な所はないかチェック。
「……うん。とりあえずはオッケイ、かな」
ホントはもっとボーイッシュでもいいんだけど、せっかくお借りしたのだから文句は言わない。
………ただ、長袖が若干緩いのは、サイズのせいではなくスタイルのせいだとは思う。地味にめげるわ……。
カーテンをシャっと開けて、着替えましたよと言う。
だが。
「おふ!おはへか!」
口いっぱいに魚を詰め込んで、口から魚の尻尾が出てらっしゃる方がいました。
ええええ、誰ぇぇ……いや寧ろ口でっか!何故そんな食べれる!
思わず引いてしまったのと驚きとで顔がひきつったまま固まる。目の前にいる魚の人はモグモグと一生懸命に飲み込もうとしてるらしい。
「あら、よく似合ってるわね!」
「ナースさん!あ、服、ありがとうございます!」
「いいえ。サイズが合ったなら良かったわ」
セールで買ったわいいけど、着る機会もなくて一度も袖を通してないらしい。このままでも着ないからあげるわ、と言われてぶんぶん手を振ったが、今まで着なかったのにこれから着ると思う?と言われたら黙るしかない。何て素晴らしい言い回しだ、断れないじゃないか。
「いーじゃねェか。似合ってるし」
どきっとして振り返れば、魚の人がニコニコしながら立ってた。オレンジのテンガロンハットに、上半身裸の男の人。
…………上半身裸?
「初めまして。俺ァ白ひげ海賊団二番隊隊長、ポートガス・D・エースだ」
「エース、って……」
以後よろしく、とにかっと笑った彼の顔をまじまじと見る。目の下のそばかすに、二番隊の、隊長さん。エースなんて名前のくせに、溺れてた、人。
ナースさんの方を見れば、言いたい事がわかったのかそうよ、と頷いてくれた。やはり、この人が私が助けた人らしい。
「あんただろ?俺の事助けてくれたの」
「はぁ…まぁ、一応」
「ありがとな。恩に着る」
わざわざ帽子を取って頭を下げた彼は、中々に礼儀正しい人だと思った。しかしやはり上半身裸というのが引っ掛かって複雑な感じだ。何故服着ないんですか。そして海の上で上半身裸のくせに肌がそこまで焼けてないのは何事ですか。
とりあえず頭下げっぱなしで居て貰うわけにもいかないので、大丈夫です、気にしないで下さい、と言ってみた。そして顔をあげた所を狙って体調は大丈夫ですか?とも。
へーき、と彼は笑顔で答えた。うん、太陽みたいに笑う人だな。羨ましい。
「名前なんつうの?」
「笹谷あづさ」
「あづさ?異世界から来たんだっけ?」
「え」
「私もさっき聞きましたよ。暫くここに住むとか」
………なんと…あのお二方が?それとも船長さんが?
嘘をつかなくていいのは助かるけど、広まるの早すぎじゃないだろうか。あ、でもナースさんはエースさんに聞いたのかな。私が着替えてる時にでも。
「それでね、エース隊長」
「んあ?」
「彼女、ここが海賊船って知らなかったの!」
「…………は?」
ぽかーんと、エースさんは口を開いた。うん。間抜け面だ。多分とっくに説明された上でだと思ってたんだろう。だからこそ彼も堂々と名乗ったんだろうし。
えっと、とエースさんがぽりぽりと頬を掻く。説明は試みてくれるらしい。
まぁ、私は多分……意味ないんだけどさ。