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線路を辿った先(2/2)


探しものは何ですか?

―――別段、難しいものじゃない。







「……なんで…」

呟いた声が反響する。
姉さんは本屋が見たいと言って七階へ。俺は文具を買いに、五階へ。俺が買い終わった時点で姉さんを迎えに行って合流する。そういう話をして別れた。
それは―――かなり正解な判断となったらしい。

なんで、とさっき言った言葉をもう一度頭の中で、今度は声に出さず呟いた。頭じゃ全く理解してないのに、体は反射的に近くの壁の裏へと逃げ込んでいた。様子が見えなくなっても、固まった思考回路は全く機能しない。使えない。

―――確めなきゃ。
なんとか動き始めた頭をその一点の行動に集中させ、ドクドクとうるさいくらいに鳴る心臓を抑えつけながら体を動かした。
もし見間違いじゃなくて本当にいた場合、バレないために最小限にしか顔は出さず………振り向く。

(―――嘘だろ……!?)

ちらりと見て、またドクン!と一気にはねあがった心臓に合わせて、反射的に体は隠れた。

―――避けたのに…。誤魔化してるの姉さんにバレるってわかってても、姉さんに嘘付くことになっても、姉さんに隠し事しちゃうってわかってても……それでも、避けたのに…!

一瞬の間に目に焼き付けた姿は、いつも見ていた姿とは少し違った。どっから入手したのか知らないけど、少なくとも上半身裸とかTPOも何もないあの格好ではなく、普通のジャケットを着てた。下はよく見たわけじゃないけど、多分ジーパン。だって、アイツはいつも短いズボンだったから。変化はすぐわかる。
けど今はそんなことどうでもよくて。………問題なのは、アイツが此処にいて、彷徨いてることだ。

(―――エース……!?)

ドクン、ドクン。
数分前まで五月蝿かった周りの音が、全く聞こえない。自分の心臓の音だけが大きく感じられた。
――打開策は、何も浮かばない。
普段働く頭がこんな時に限って動かない。使えない。ダメだ。咄嗟に何も出来ないというなら、俺は何のために頭を使ってきたというの。
どうやって、……姉さんを守ればいいの。

見間違いであればいい。
たった今確認したばかりなのに、俺の頭はやっぱりちゃんと理解出来てなくて、いやもしかしたら理解したくなくて、そんなことを思ってしまう。そして此処でまた理解しようとして見たものなら………今度こそ、どうしていいかわからない。

―――話し、かけるべきなのか…?

深く深呼吸して、やっと考え出たのはその一問。
話しかけず、そのまま放置出来れば一番良い。けどもし話しかけて追い払うことが出来れば………それもまた、ベストなわけで。
ただその場合はリスクもかなりでかい。もし追い払ったと見せかけて後を付けられたりなんかしたらそれこそ終わりだ。今までの俺の努力は、全て無駄に消えてしまう。
だったら………答えは、一つ。

覚悟を決めながら、最後に、ともう一度後ろを見た。
けどその時点ではもう―――エースの姿は見えなかった。


「あれ……?」

思わず声が出る。もしかしたらもしかしなくとも、見間違いだったのかもしれない。ただ俺が、冷静に頭を動かせなかっただけなのかも。
服は違った。よく似た人だったのかもしれない。
第一アイツ………また明日って、俺に毎日言ってるじゃないか。今、もし仮に此処にいるとしたら……自分から約束破るのかよ、アイツ。


ドクドク、ドクドク。
いつの間にか手に汗握って神経張り巡らせていて。
念のためキョロキョロと周りを見ても姿は見えない。こんな短時間で、移動なんか出来ないに決まってる。やっぱりよく似た人だったのかもしれない。

――証明なんて出来ないのだから、単なる気にし過ぎって方が正しくない?だって俺、ちゃんと探した。
思いの他自分が焦っていたことに気付いて、今度は違う意味で心臓がうるさい。
なんでこんなにエースを姉さんに会わせたくないのか……自分でも、わからないくらいに。
焦ってる。

……ただ今はそれでいい。どう転ぶかなんて、わからない。俺が正しいかどうかすら、そして間違ってるかもしれないということすら、わからない。

今はただ……今この場で、見つからなかったから、それは居なかったってことで。

それで、いいんだ。
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