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スタートダッシュは軽やかに


信じらんない!

――最初にみづめ君が不貞腐れてそう言ったのは三時間前。
最初は私に対して。次に、その服はどうしたのかとエースさんに聞いたらタダで買ったとかなんとか言ったから。更に済んだことは仕方ないからとりあえず、と私がエースさんの生活用品を買い出したら。そして帰宅してもう一度、信じらんない、と。計四回。

そして今、五回目の信じらんない、が聞こえた。


「なに、今度はどうしたの?」
「姉さん……こいつ卵三つも粉砕した!」
「………なんか、割れやすくて」
「はぁ?」
「あー、はいはい。みづめ君交代!」

むすっとした膨れっ面で、でも文句は言わずにみづめ君は下がった。そしてそのまま、恐らく宿題をやりに自分の部屋に行ったみたいだ。
………エースさんを睨むのを、忘れずに。

「悪ぃ……」
「なんか、あれですよね。エースさん達って力強い」
「そりゃあまぁ……鍛えてっから」

くっそー!……なんて言いながら、がしがしと粉砕した卵をティッシュで拭きだした。ただ拭いてるだけだから二次災害、広まっていくだけ。
あぁ、こりゃサッチさんも厨房から出れないはずだなぁ、なんて。つい最近までいた場所を思い出した。エースさんが此処にいることには違和感があるはずなのに、どこか自然に感じてる自分がいる。

「他に俺が出来ることねェの?」
「みづめ君の相手?」
「ははっ、それはいいな!」

今度こそ、とまた新しく卵を手に取ったエースさんを横目に、私は私でみづめ君がやっていたことの引き継ぎ。
きっと、エースさんがみづめ君を構ったら、みづめ君は更に機嫌が悪くなると思う。でも、どうにも。………心の底から、嫌がってるようには見えない。これは少し、自信がないけど。
寧ろ私には、違うものが見えた。


「エースさん、みづめ君嫌でしょ」


ぱき。
それまで力んでいた手の力が抜けて、卵は綺麗な形のままボールに落ちていった。

「………別に、」
「嫌いじゃない。それはわかってますよ、大丈夫です。でも、嫌でしょ。みづめ君が、貴方を嫌がるから。………否定、するから」
「…………」
「すみません。でもあれ、寧ろ心開いてるんですよ。開き過ぎちゃってるのと、極度のシスコンのせいで悪く見えちゃうけど」

一つ、また一つ。
私が卵を手に取っては割っていく。エースさんの手は、止まったまま。

「すみません。……弟が、大好きなもので」

にんまりと笑って見れば、エースさんは困ったように笑った。
卵がまた一つ、エースさんの手で綺麗に割れる。


「俺も弟、好きだぜ」
「……おー」


すごいだろ、と真っ二つになった殻を見せつけてきてから捨てる。
弟と言ったエースさんの表情は、綺麗だった。






「………不愉快」
「んー?」
「なんで俺が教えたら出来なかったのに、姉さんが教えたら出来るの。姉さんなのに」
「いや、それ、逆じゃね?」
「いいんだよ姉さんだから」
「何てこと言うのみづめ君」

完成したオムライスをじっと見つめながら言うみづめ君は相変わらずの不機嫌。これはあとで構い倒してやるしかないかなぁと思いつつ、そんなことしたらそれはそれで子供扱いしないでよ、とかなんとか言うかもしれない。なにせ彼はツンデレですから。……ツンデレだよ。ツンツンじゃないよ、きっといつかデレるから大丈夫だよ。……うん。

「みづめ君、ケチャップ何書く?」
「かく?」
「はい。うちではオムライスに嫌なこと書いて、食べると嫌なこと消える!みたいな縁起を担いでまして」
「へー。いいな、それ」
「で、どうする?」
「……自分で書くよ」


―――あ…やな予感、するな…。

そう思ったのも束の間。予想通りみづめ君は、デカデカとエースと書きました。
えぇもう、躊躇なんかなしに。

「なんて書いてあんだ?」
「日本語読めないの?」
「にほんご?」
「あぁ、エースさん英語圏の人……に、なるかな……日本語はこの国の言葉ですよ」
「ふーん」
「………なんだ」

読めなきゃ意味ないじゃん。
……なんて言った弟の将来が、お姉ちゃんは心配です。
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