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見て見ぬフリを見て
ご飯食べて、片付けて。
食休みに軽くテレビを見てから、順番にお風呂に入った。最初が私、今はみづめ君。そして最後が、エースさんだ。
「さて……エースさん」
少し話を、聞かせて下さい。
髪をタオルで拭きつつそう言えば、エースさんはちらりと私を見たあと、テレビの音量を少し上げた。話す気ねぇよ、ってことなのかと思ったけど、エースさんはリモコンをいじったあと体ごと私に向き直った。
恐らく音量をあげたのは、会話が聞かれないための対策なのだろう。聞かれては不味いことなのかと、少し不安になる。
「じゃあまず……みづめ君とは、どういう経緯で知り合ったんですか?」
「……なんか絡まれちまって、でもあづさの様子からしてあんま殴ったりしちゃいけねェ世界かと思って何もしなかったら、みづめが追い払った」
「えっ」
…何してるんだあの子は……。
この際どんな方法で追っ払ったかは聞かないでおこう。なんとか出来ちゃうタイプの子だとはわかってるけど、それでも危ない。頭が回ったって所詮小学生。何かあったらどうするつもりだったんだ。
これはあとで注意しないとなぁと、溜め息が出る。エースさんは苦笑した。ある意味場の空気は和んだらしい。
「……おれも聞きたいこと、あんだけど」
「………どうぞ」
「お前……なんで、何も言わず帰ったの」
ほんの少し戸惑いが含まれたような、それでいて変わらず真っ直ぐな目が向けられる。そんなところも変わってない。
―――それは薄々、言われるんじゃないかと思ってましたよ。
イゾウさんに口止めしたのは今エースさんが聞いたこととは違う内容のもので、寧ろ理由なんて誰にも行ってない。イゾウさんもイゾウさんで、言及はしなかった。けれど聞かれて困る内容でもない。
本当に何も言わずに帰ったのだ。そりゃあ、気になるだろう。
イゾウさんは約束を守ってくれる人だとは思ってる。逆に言えば、口止めしたこと以外なら話してしまうだろう。だって相手は家族だもの。他人である私に対する配慮は、最低限のはず。
帰る方法が見つかった、自分の意思で帰った。恐らくそれくらいのことは言われてしまうだろうと、だいたい予想していた。
けれどまさか――誰かが追ってくるなんて、思っても見なかったけど。
「……私」
「ん」
「あの世界、好きでしたよ」
「………」
「でもやっぱり。……私が帰る場所は、此処です。それ以外は、ないんです」
引き留める人はいないだろうと思いながら、心の片隅で引き留められるだろうと思っていた。
そんなことをされては、あの時の心境では戸惑ったと思う。迷ったと思う。全部投げ出して、もう少し、もう少しと。帰らなければならないと思いながらも、ずるずるとあちらの世界に長居しそうで。
だけどそんなことが出来るわけがない。私には、そんな選択肢はない。
エースさんに負けないくらい、精一杯の意思を込めた目で見つめ返す。エースさんは引かない。私も、反らさない。
命の駆け引きしてるような世界の人に、こんな、しかも割と流されて生きてる私が対等であろうとするのも難しいのかもしれない。
けれどこれは、ハッキリさせておかなければならない。エースさんが此処にいるのなら。みづめ君が、いない場所で。
「………あづさを連れ戻そうと思って、来たんだけどよ…」
先に視線を反らしたのは、エースさんだった。
「まだ、いいや。……諦めたってわけじゃねェけど……もう少し、この世界のこと知ってからにするわ」
だから暫く、よろしくな。
ニカっと、向こうで散々見てきた笑顔を向けられる。いつの間にか緊張していたのか、その笑顔に一気に気が抜けるのがわかった。
この程度の空気で緊張してどうする。
向こうで敵というか、変な連中の船に乗り込んだ時の方がまだしっかりしてた気がする。私はまだまだです。
「あ……そういえば」
「ん?」
「あの子、どうなりましたか」
追われていた男の子。私が助けようとした子。
少し不安になって聞けば、エースさんは「あぁ、あいつか」と何もないように言った。
「見習い」
「………はい?」
「礼がしたいんだと。おれ達に。っつっても、なんかお前に対する感謝の方がでかそうなんだけどさ」
良かったじゃん。
そう言って、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。決して痛くはないそれが、心地いい。
―――お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな、なんて。
らしくもなく、照れそうになったり。
- 13 -
食休みに軽くテレビを見てから、順番にお風呂に入った。最初が私、今はみづめ君。そして最後が、エースさんだ。
「さて……エースさん」
少し話を、聞かせて下さい。
髪をタオルで拭きつつそう言えば、エースさんはちらりと私を見たあと、テレビの音量を少し上げた。話す気ねぇよ、ってことなのかと思ったけど、エースさんはリモコンをいじったあと体ごと私に向き直った。
恐らく音量をあげたのは、会話が聞かれないための対策なのだろう。聞かれては不味いことなのかと、少し不安になる。
「じゃあまず……みづめ君とは、どういう経緯で知り合ったんですか?」
「……なんか絡まれちまって、でもあづさの様子からしてあんま殴ったりしちゃいけねェ世界かと思って何もしなかったら、みづめが追い払った」
「えっ」
…何してるんだあの子は……。
この際どんな方法で追っ払ったかは聞かないでおこう。なんとか出来ちゃうタイプの子だとはわかってるけど、それでも危ない。頭が回ったって所詮小学生。何かあったらどうするつもりだったんだ。
これはあとで注意しないとなぁと、溜め息が出る。エースさんは苦笑した。ある意味場の空気は和んだらしい。
「……おれも聞きたいこと、あんだけど」
「………どうぞ」
「お前……なんで、何も言わず帰ったの」
ほんの少し戸惑いが含まれたような、それでいて変わらず真っ直ぐな目が向けられる。そんなところも変わってない。
―――それは薄々、言われるんじゃないかと思ってましたよ。
イゾウさんに口止めしたのは今エースさんが聞いたこととは違う内容のもので、寧ろ理由なんて誰にも行ってない。イゾウさんもイゾウさんで、言及はしなかった。けれど聞かれて困る内容でもない。
本当に何も言わずに帰ったのだ。そりゃあ、気になるだろう。
イゾウさんは約束を守ってくれる人だとは思ってる。逆に言えば、口止めしたこと以外なら話してしまうだろう。だって相手は家族だもの。他人である私に対する配慮は、最低限のはず。
帰る方法が見つかった、自分の意思で帰った。恐らくそれくらいのことは言われてしまうだろうと、だいたい予想していた。
けれどまさか――誰かが追ってくるなんて、思っても見なかったけど。
「……私」
「ん」
「あの世界、好きでしたよ」
「………」
「でもやっぱり。……私が帰る場所は、此処です。それ以外は、ないんです」
引き留める人はいないだろうと思いながら、心の片隅で引き留められるだろうと思っていた。
そんなことをされては、あの時の心境では戸惑ったと思う。迷ったと思う。全部投げ出して、もう少し、もう少しと。帰らなければならないと思いながらも、ずるずるとあちらの世界に長居しそうで。
だけどそんなことが出来るわけがない。私には、そんな選択肢はない。
エースさんに負けないくらい、精一杯の意思を込めた目で見つめ返す。エースさんは引かない。私も、反らさない。
命の駆け引きしてるような世界の人に、こんな、しかも割と流されて生きてる私が対等であろうとするのも難しいのかもしれない。
けれどこれは、ハッキリさせておかなければならない。エースさんが此処にいるのなら。みづめ君が、いない場所で。
「………あづさを連れ戻そうと思って、来たんだけどよ…」
先に視線を反らしたのは、エースさんだった。
「まだ、いいや。……諦めたってわけじゃねェけど……もう少し、この世界のこと知ってからにするわ」
だから暫く、よろしくな。
ニカっと、向こうで散々見てきた笑顔を向けられる。いつの間にか緊張していたのか、その笑顔に一気に気が抜けるのがわかった。
この程度の空気で緊張してどうする。
向こうで敵というか、変な連中の船に乗り込んだ時の方がまだしっかりしてた気がする。私はまだまだです。
「あ……そういえば」
「ん?」
「あの子、どうなりましたか」
追われていた男の子。私が助けようとした子。
少し不安になって聞けば、エースさんは「あぁ、あいつか」と何もないように言った。
「見習い」
「………はい?」
「礼がしたいんだと。おれ達に。っつっても、なんかお前に対する感謝の方がでかそうなんだけどさ」
良かったじゃん。
そう言って、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。決して痛くはないそれが、心地いい。
―――お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな、なんて。
らしくもなく、照れそうになったり。