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一期一会とはよく言ったもの


―――出来ることなら一緒にいたかった…なんて。
都合の良い、考え。


甲板で一人、夜風に吹かれる。さっきまでかけずり回って動いたせいか、夜独特の冷たい風がいつも以上に心地よく感じた。熱くなった体が、冷える。
同時に。………体だけでなく、中身も冷えりゃいいと思った。

「――元気ねェなァ、マルコ」
「……イゾウ」

そう言いながら近付いてきたソイツ―――イゾウも。全く元気には見えない。それもそうだろう。あの子………もはや暫くは名前さえ禁止ワードとされる、居候だった彼女。
彼女がいなくなって、真っ先に反感の対象となったのがイゾウだ。別にクルー全員からってわけじゃない。彼女が居なくなったことに最後まで納得いかなかった、一人のクルーによって、だ。
おかげで船の雰囲気は、未だ戻りそうにない。

「……悪い、イゾウ」
「………」
「まだ暫くは……立ち直れなさそうだよい」

誰が、なんて意識して言った言葉じゃない。いや、正確に言えば確かに意識した。イゾウに反感を持った、アイツのことを指したつもりだった。………だけど考えてみれば、立ち直るなんて言葉は、別にアイツじゃなくても当てはまってしまう。

――不思議な子だった。
ただの子供のはずなのに、おれらはあっさり受け入れちまって。疑うこともしなかった。嘘をついてるとも思わなかった。常に心が吸い寄せられるような気が、していた。
何度も何度も、おれはそれが不快で仕方なく思えて……別に彼女が嫌いだったわけじゃない。……好きだったわけでも、ない。

ただ今でも――神に踊らされてる気分は、抜けない。

彼女に最後まで惹かれていた四番隊隊長。彼女を家族のように思っていた、二番隊隊長。
特に関わりがあったのはその二人だが、他のクルーだって十分彼女を気にかけてた。別にそれについては……おれが例外だったとは、言わない。気にかけてたのは確かで、現に今、ささやかくらいには物足りなさは感じる。
だけど、普段のアイツらならどうなんだと。普段の―――おれだったら。どう、なるのかと。相手も状況も異例過ぎてわからない。異世界ってののせいなのか。あの子が持つ雰囲気のせいなのか。元からの人柄なのか。
わからない。
何であの子が、気になるのか。


「お互い、痛手を負ったもんだなァ」
「……は?」
「……あ?」

顔を向き合わせて固まる。冷たい風が吹き抜けて、波の音だけが響いた。
何のこと、と頭の中を探るものの、思い当たる節はない。今の話じゃ収集が大変だなっつう労いかとも思えたが、それはない。そんな空気じゃない。
ならそれ以外なら―――ない、はずだった。

「………何でェ、マルコ。お前ェまで無自覚か?」 

どくん!……と。
心臓が大きく跳ねた。
イゾウはさも当たり前のように言いはなったからか、今はすごく間抜け面だ。滅多に見れるもんじゃねェその表情に、何か言ってやりてェが、その余裕はなかった。
思い当たる節はないはずなのに、否定の言葉は出なかった。……それが意味することがわからないほど、おれは馬鹿じゃない。

(……おれも、十分、)


―――神に踊らされてる。


ぐしゃぐしゃと、妙に騒ぎ出した心を表すかのように頭を掻く。落ち着く気配は、当然ない。


「……思っちまうん、だよい」
「あ?」

最初から、気付いてた。
エースが落ちた海。その付近にいた小さな小舟を見たあの瞬間から。
必死にもがいた彼女が、浮き輪を掴んだあの瞬間から。

おれは、生きようとする人間に浮き輪を投げたはずだったのに。

おれは飛び込むわけにはいかねェし、周りにいたのはイゾウとジョズに、酒によってよれよれの野郎ばかり。
そんな奴らを海に飛び込ませるわけにはいかず、数十メートル先にいたサッチを呼んだ。なのに、サッチが来る前には人が飛び込んで、エースを抱えてきた。
だからおれは浮き輪を投げた。エースを助けるために、エースを助けようとした人間を助けるために。

なのに、


「………生きたいのかよい、って」
「………」
「お前、ホントに生きたいのか、…って……思っちまうんだよい」

――あづさはいつだって、執着のない目をしてた。
浮き輪から引きずりあげて、初めて会話して。その時から思ってた。ずっとずっと、変わらずに。

望めばいい。求めればいい。
おれ達より平和で幸せな世界なはずなのに、何でお前の目には望みがない。


「だからこそ、おれは、……」
「……」
「…………いや…、」


なんでもない、よい。

自分でも情けないくらいに掠れて、覇気のない言葉となったのがわかった。情けない。情けないけど、どうしようもない。
――此処で言えば、おれの敗けだ。
例えおれの本音がどうであれ、イゾウが最初に釘刺したように、選んだのはあづさ。そしてそれは実行され、もう手の届かない場所へ行っちまった。もとより家族でもなんでもない……居候、だったのだから。そもそもおれ達が何かを言えるもんじゃ、ない。
仕方ないものは仕方ないと。そう、割りきらなければならないもんなんだ。

「……これで終りだよい。アイツが落ち着いて、他の連中も折り合いつけりゃあ、いつも通りだろい」
「……マルコ、」


「―――ならおれは!」


まさか…。
あり得ないと思いつつも、ハッとして後ろを振り向く。聞き慣れた声に連想した人物は外れていなく、予想通りソイツが居た。
あづさがいなくなったことに納得しなかった、唯一のクルー。確かに取っ捕まえて暫く大人しくしてるよう言いつけたはずで……周りにいた奴らにも、気にかけているように言ったはずなのに。
何で、なんて思うおれなんかおかまいなしに、おれ達の気持ちなんか気にもかけず、ソイツは―――言い放つ。


「諦めるなんて出来ねェ……おれは、」





―――あづさを、連れ戻す。








その目に

能力に恥じぬくらいの、炎を灯して

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