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足枷をつけてでも辿って


――小さな空間で、小さな子供が泣いていた。

真っ暗なはずなのに自分の姿だけは見える。まるでアニメか何かだね、と嘲笑って佇む自分がいる。実際これは現実ではないから、架空という意味ではアニメと変わりはないかもしれない。
これは夢だ。


「………いつまで泣くんですか」


踞って泣く小さな子供に、まだあどけなさを残す少女が話しかけた。
小さな子は駄々をこねて、少女はその子供をずっと眺めていた。
ずっと、ずっと。

子供が泣き止むまで、それ以上悲しむことがないように盾となって。
小さな子供の隣で、眺め続けていた。


そうやって――ずっと。









「………あれ?」


――きょとんとした顔をして俺を見る姉さんは間抜け面だった。
気が抜ける、わざとらしい、落ち着く。
矛盾だらけの感情が頭ん中を渦巻いては俺から落ち着きを奪っていった。


「………こんな時間まで何してるの」


時刻は深夜三時。
隣からうるさいほどのいびきがして寝にくいところを、なんとか必死に眠りについてみればそれはそれで不快だった。

――嫌な夢を見た。
現実とはまた違うけれど、それでも当たらずとも遠からずといえる、夢。
そのタイミングで姉さんを見てしまったのは、良いようでもあり、やっぱり悪いかもしれない。


「寝る前によっちゃんとメールしてたらね、課題が出たってきいたから」
「明日出すの?」
「うん。出来ない問題でもないから、やれるならやっちゃおうかと」
「………そう」


小さなランプをつけて、明かりを最低限にしてくれてる配慮にすら複雑な気分になる。俺もエースも、明かり程度じゃ起きないのに。

―――姉さんがなにを考えてるのか、わからない。

いつだってそうだ。
昔から姉さんは俺を一番理解してくれているのに、俺は姉さんのことを何一つ理解してやれない。姉さんが抱えてるものの何一つとして、背負ってやれない。
今日だってそう。俺も察したしエースも気まずそうにしてんのに、姉さんはあっさりとエースに謝って、いつも通り笑った。……いつも通り、へらりと。
俺がいなければきっと姉さんはもっと自由に、好きに生きられるのに。
そうとわかっていても俺一人じゃ生きていけないこともわかっていて、結局俺は姉さんに頼って、姉さんがいないと生きていけない。姉さんに甘えてる。


「エース……」
「ん…?」
「……何も、聞かなかった」


バカかと思ったけど、以外と頭が良いということは知ってる。直感が良いところとか、実は強かったりだとか。
俺が面倒見てやってた時期に、そんなのわかってる。
なのになんで……何も聞いて、こなかったんだ。


「……何も聞かないのは、君もでしょうよ」


どくん、と。
心臓が跳ねた。

姉さんは困っている顔をした。その表情が俺には苦しくて、思わず視線を逸らす。


―――入って行けなかった。
エースがここに住み始めてからすぐ気づいた。ずっと俺と姉さんだけで築いてきたはずの空気が、エースによって、崩れていく気がした。いとも簡単に、あっさりと。
すんなり入ってきて、すんなりと姉さんを連れ去っていきそうで――エースの存在が、どうしようもなく怖い。
止める術がないんだ。
アイツ自身悪いやつじゃなくて、姉さんも……良く、思っているみたいだから。
どこで出会って、どんな関係で、どう思ってるのかなんて。

聞けるわけが、ない。


「………みづめ君さ」
「………」
「明日学校、休まない?」 
「……え?」


机の上にシャーペンが転がり、ノートが閉じられる。


「学校休んで、ちょっと三人で話そうか」
「………姉さん単位は」
「――私は」


―――家族が一番、大事だよ











―――ある日小さな子供は顔をあげて、隣にいる少女を見上げた。


「なんでいるの?」


自分ですらよくわからなくて、泣くしかないこの場所で。
あなたは何故、ずっと立っていられるの?


「だれ…?」


少女はしゃがみこんで、初めて顔を合わせた。
小さな子供の頬を伝う涙も、涙で溜まった水溜まりも。

吹き飛ばすくらい、眩しい笑顔で。







―――きみのかぞくだよ

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