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殺伐した道なら突き進んで(1/2)


頭ん中が、ぐちゃぐちゃするんだ。

家族が大事だと言った時の姉さんの表情は、俺が昔からよく見てきた表情だった。
いつも俺が不安になった時に見せる姉さんの優しげな顔が、好きだった。その表情だけで、姉さんが発する言葉だけで、姉さんの存在だけで。俺はいつだって立ち直れた。いつだって、何も気にせずいられた。姉さんがいればそれでよかったんだ。周りから何を言われどう思われようが、そんなもの家に帰ればノーカウント。俺には関係ない。

姉さんが、大切だった。

大切な、はずなんだ。

なのに。……今の俺はどうなんだろうか。
いや、今だけじゃない。考えてみれば、ずっと、だ。姉さんが大切だと言ってるくせに、姉さんが色々背負ってるのを知ってるくせに、今まで俺は何をしてきたんだろう。何を、しなかったんだろう。

答えはいつだって、此処にあったのに。


「……姉さん」
「ん?」

――俺を見る姉さんの、どこに余裕があったと言うんだろうね。


「俺……お祖母さんに、会ったよ」


ぴたりと、姉さんが固まる。

……最初から、こうすればよかったんだ。
姉さんに頼らず、俺が向き合えばよかった。姉さんは俺のためにやってくれていたんだろうけど、それもまた違う。俺が姉さんに押し付けていたんだ。自分の嫌なもの全て。
それに安心して、その癖姉さんには頼ってほしいだとか、大切に思ってるとか考えて、……馬鹿じゃないか。

「俺、昨日一回家帰ってから出掛けたでしょ。学校帰りに接触してきたから、鞄置いてから俺から会いに行ったんだ。エースが電話取ったのも聞いた」

姉さんの目が一瞬動揺してから、訝しげに眉を寄せた。

「………みづめ君から?」
「そう。……俺から」

自分でも複雑な気持ちだった。
今まで散々避けていたのに。嫌になるほど逃げて、姉さんに押し付けてたのに。
向かってみれば、大したことなんかなかった。

「………姉さん」


――…例え、ば。

姉さんが嫌いかと言われたら、違うって言う。
姉さんに嫌いかって言われたら、どうだろうねって言う。

素直じゃないなんて言葉に慣れて、それが自分なんだとすら思って直そうともしなかった。素直であることが大切なんだとか、そんなものまやかしだと勝手に決めつけて、避けて。
素直になることを、恐れてた。
向き合うことから、逃げてた。

(……行かないで。傍にいて。置いてかないで)

――言えたらどんなに、楽だったろう。
けれどそれは。……それはもう、言えない、言葉で。


「……行っていいよ」


情けないくらい覇気のない言葉だと思った。姉さんが困ったように、疑問を浮かべた顔で見つめてくる。
視界が歪む。
……耐えなきゃならない。俺が揺らいじゃいけないんだ。
手にぎゅっと力を入れて、真っ直ぐに姉さんを見据える。これが俺の意思なんだと、結論なんだと。姉さんが反論することすら出来ないくらい、断定的に。決定事項なんだって、大丈夫なんだって。……姉さんを、解き放つために。

俺が言わなきゃ、いけないんだ。


「……エースは……この世界の人間じゃ、ない」


――ゆらゆらと。
姉さんの目が、泳いだ。
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