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先行く道は閉ざされて


気が向いたら、戻っておいで

いいえ、戻りませんよ



私が確かに、言った言葉。



トクントクン。心臓は平常。全く問題なし。

この休みの間に、よっちゃんから借りた漫画―――ワンピースを、読み終えてしまった。一気に何十冊も漫画を読んだのは初めてだし、あまりにも漫画にかじりついてたからかみづめ君にはとても叱られた。早く飯食えとか薬飲めとか風呂入れとか寝ろとか。……私が姉で良かったんだよね?なんて、何度思ったことか。

そんなわけでまぁ―――まさか、彼らの未来となる話を知ることになるとは思ってなかったわけで。

サッチさんは、生きてる。私は生きてるサッチさんに、会ってる。ティーチとか誰だよとか思ったけど、きっと私が知らないだけで船の中にはいたんだと思う。
頂上決戦とか、エースさんの生い立ちとか、寧ろ主人公の兄ちゃんかよ、とか。いっぱい驚くことはあった。船長さんの心の強さだとか、船員の皆さんの覚悟とか。……すごいところに、居たんだな、なんて思ったり。

「―――と、まぁ……とても楽しませて頂きましたぜ、よっちゃん」
「え?朝の開口一番がそれ!?あ、別にいいんだけどね楽しんで貰えたみたいだし!元気でた?」
「よっちゃんおはよう」
「順番が逆!」

もうなんなのあづさ、なんて言いながらもよっちゃんは既に私を見ていない。私がどっさりとよっちゃんに渡した漫画に夢中。……おいおいよっちゃん…あと五分でチャイム鳴るんだけど………。
もそもそと漁り出して、お目当ての巻を見つけたらしいよっちゃんは、何やら語り出してきた。マシンガントークである。ちなみに私はよっちゃんのテンションMAXマシンガントークは聞き流す主義です。だって聞き取れないついてけない。

「――あぁもういいよね!すごくいいよね!私普段はトキメカないのにそん時はすごくもうきゅんきゅんしちゃって!」
「つまりよっちゃんはゾロが好きだと」
「あづさ絶対話聞いてないよね!いやゾロ好きだけど!!」

違ったらしい。やっぱりよっちゃんの話にはこれから割り込まないことにする。
けれどまだまだよっちゃんのトークは続きそうで、チラリと時計を見た。チャイムが鳴る一分前。少なくとも漫画、しまった方がよさそうだ。

「よっちゃん、先生来る」
「あ、はーい。……あ、そうだ!」
「ん?」
「―――あづさは、誰が好きなの?」


ドクン、
心臓が、跳ねる。


「……ヒミツ、かな」
「えー!?」

ぷんすか怒るよっちゃんを華麗にスルーして、黒板へと向き直る。

―――だって、仕方ないじゃないか。
どのキャラが、とか言われたら答えられたかもしれない。良いキャラいっぱいいたし、よっちゃんの言うゾロとか、わからなくない。海軍にも革命軍にも海賊にも。それぞれに良いところがあって、どれが良くないなんてきっとないと思う。そう、思えた。
ただよっちゃんは―――誰が、なんて言うから。
そんなことを言われたら、どうしても人として見た時にって言われた気がしてならなくて。だとしたら私はやっぱり、……関わった人たちが、頭に浮かんでしまう。

(――あぁ、…もう……!)

ドクドクドク。
昨日収まったはずの鼓動が、また騒ぎ出した。




***




「………あのね、あづさ…」
「待ってよっちゃん。……正直悪かったと、思ってる」
「うん……いいんだけど、ね………!」


―――状況を、整理しようじゃないか。

四時間目……いや正確には、午前中ずっと。
朝からテンションがあがりまくったよっちゃんに付き合って、ずっと語りまくってた。文字通り、ずっと。授業も休み時間も関係なしに、だ。
しかも私は、…いやよっちゃんもだけど、よっちゃんは隠すの上手いから。まぁ、私は、授業中に思いっきり漫画読んでた。よっちゃんがあまりにもディープなこと言うから、一回読んだだけの私にはついていけない。だからちょこちょこ読み直しながら話をしていたら、普段は真面目に授業を受けてる私には隠すスキルが足りなかったらしく、先生に見つかった。漫画が没収されなかったことだけが救いです。
で。ここからがやっちまった話で―――あろうことか私は、同じ失態を繰り返してしまった。

「あづさってさ……不機嫌になると、食べるタイプなんだね」
「…ううん。ぶっちゃけると、よっちゃんのご飯取られた時のしょんぼりした顔が好きでやってる」
「尚たち悪い……!」

酷いよ酷いよ楽しみにしてたのに!と、全力でしょんぼりし始めたよっちゃんに私はそっと野菜ジュースを差し出す。無類の野菜ジュース好きなよっちゃんはその誘惑には勝てなかったのか、しょんぼり顔のまま無言でそれを受け取った。

そのしょんぼり顔好きだけど、罪悪感湧くのはかわりないんだ。
……それに、


チクチクと胸刺す痛みの原因が何か、わからなく出来るでしょ?
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