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もどかしい


 ガキの頃からおれにだけ見えている存在は、時おり無性におれを腹立たせる。


「……おい」
「……ん……」
「おい、起きろ」

 ……こいつは、また……!
 すやすやと心地よく眠る様子の自称幽霊は、人の部屋のベッドを占拠し全く起きる気配がない。
 こいつが眠る時は、大体が元の世界へと帰る意味を現している。だが低い確率で、それでも少なくはない程度に、この世界へと来たばかりだという場合もある。
 何故か、寝て起きるとこちらの世界にいるのだと、こいつはよく言う。
 今回もいつの間にかおれの部屋へ現れ、気づいた時には既に眠っていた。消えていく様子がないということは、今から帰るのではなく、今来たということだろう。それは別に構わねェ。こいつが突然現ることには、もう不満も何もない。
 だが、寝ているなら起こさなきゃならない。
 ……むしろ。

「……なんつぅ格好で寝てやがる……!」

 薄いシャツと短いズボン。寝ている時にこちらに来ているという言葉通り、こいつはいつも寝間着で現れる。無防備に眠っている姿も、見慣れている。別にそこは問題じゃねェ。
 ただ──服が、僅かに捲れている。それだけで、どうでもいいもんが気になりはじめる。放っておくことも布団をかけることも出来ないから厄介なのだ。
 触れられないことがこんなに面倒なのだと知ったのは、もう随分前になる。

「……ん……あれ……カタクリさん……?」
「……降りろ」
「え……?」
「…………そのだらしない腹と足をしまい、おれのベッドから降りろ」
「……あ、ほんとだ。ごめんなさい」

 へらり。
 浮かべられた笑みは、羞恥もなければ申し訳なさもない。
 苛立ちが募る。

「……それでよく、風邪をひかずに済んでいられるな」
「ん? 心配してくれるんですか?」
「正気を疑っている。熱が苦手だったと記憶してるが、おれの間違いか?」
「おー、大正解です。熱すっごく弱いですし、風邪はよくひきます」
「…………」
「な、なんで睨むんですか……」

 ……手を伸ばしたところで、届かないことはよく知っている。
 数倍大きな身体も、力も、届かなければ意味がない。透けてしまえば、何も掴むことはない。
 小突くことも、布団をかけてやることさえ。

「……本当に、不愉快な奴だ」
「ええっ……」

 妙なもどかしさも、変わらない姿も。
 ただ、どうしようもなく。腹が立つ。
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