top about main
1
──それは、妙に眩しい月明かりが印象的な日だった。
「……あれ?」
ぱちり。目を瞬かせ周りを見回すと、明かりのついていない大きなお城のような場所にいた。
すぐ目の前にはシャンデリア。何故か重力を感じない身体。いや、何故かも何も、浮いてるんだなこれ。浮いてます。
青白い月明かりを頼りに自分の身体を見ると、なんとなく透けている気がする。足はあるけど、足元は特に透けていて、明るいところだったら見えないかもと思った。
くるり。回転してみる。……うん。原理はわからないけど、普通に動くし移動もできる。無重力体験でもしている気分で、ちょっと楽しい。
──いいなあ、これ。わくわくしちゃう。
ふふ、と息をもらして空中飛行を楽しんでいると、遠くからドシーン、ドシーンとでかい足音のようなものが聞こえてきた。
そうか、ここ、巨人の家かも。造りがでかすぎるし。
慌てて柱時計の影に隠れようとするも、私は透けているわけだし、見られないのでは?という気持ちもあって、ふよふよと浮いた状態を保ってしまう。
どうしよう。とりあえず天井付近で様子見してみるかな。
はじめに視界に入ったシャンデリアの元へ上がると、ちょうどよく曲がり角から人の姿が見えてきた。
どしん。最後の一歩を止めた大きな人が、僅かに目を見開き、すぐに眉をしかめた。
「……かなで?」
──えっ。
なんで私の名前、知ってるんだ。
シャンデリアにしがみついて……はいないけど、しがみつくふりをしていた私は固まり、僅かに下方にいるその人を見つめる。
やがて何も答えない私に痺れを切らしたのか、降りてこいという言葉と共に指を差し出してくる。まるで小鳥を指にとめるかのように。
「何度目だ」
「えっ?」
「おれに会うのは、何度目だ?」
ぱちり。また目を瞬かせる。
大きな手のひらの上で正座した私は、ただその人を見つめるだけだった。
「ええっと……初めて会うと、思います、よ……?」
困りながら、とりあえず素直にこたえる。
この人が私の名前を知っていようと、私はこの人のことは何も思い当たることがなかった。
……そうか。と呟かれた声はなんだか力が抜けていた。「……今更か」。呆れたような、嘲笑のような音に思えた。
すると。
「わっ!?」
ぐん! と顔が近くに寄せられる。月の光で鋭く輝く瞳は、まるで飢えた獣のようで。
するり、するり。決して触れることはない。体温を感じることもないのに、大きな人の指が私の頬を撫でるように何度も滑らせる。ぞわぞわと、何故だか背筋がむず痒くなる。その熱が伝わってくるかのように、とらえて離さない。
「……忘れるな」
「え……?」
「おれの名前は、シャーロット・カタクリ。ここにきたら、必ずおれを探せ。おれの元へ来い。いいか、かなで、お前は」
どろり。食べられてしまいそうな捕食者の顔で、苦しそうな瞳孔を私に向けて。
「お前は……──おれから、離れられねェ」
──ばちん!
そこで意識は、盛大に弾けた。
「おお……なんだ今の夢」
乱れる息とバクバクうるさい心臓。頭に残る熱視線。
それが私の見た、最初の夢だった。
← →
「……あれ?」
ぱちり。目を瞬かせ周りを見回すと、明かりのついていない大きなお城のような場所にいた。
すぐ目の前にはシャンデリア。何故か重力を感じない身体。いや、何故かも何も、浮いてるんだなこれ。浮いてます。
青白い月明かりを頼りに自分の身体を見ると、なんとなく透けている気がする。足はあるけど、足元は特に透けていて、明るいところだったら見えないかもと思った。
くるり。回転してみる。……うん。原理はわからないけど、普通に動くし移動もできる。無重力体験でもしている気分で、ちょっと楽しい。
──いいなあ、これ。わくわくしちゃう。
ふふ、と息をもらして空中飛行を楽しんでいると、遠くからドシーン、ドシーンとでかい足音のようなものが聞こえてきた。
そうか、ここ、巨人の家かも。造りがでかすぎるし。
慌てて柱時計の影に隠れようとするも、私は透けているわけだし、見られないのでは?という気持ちもあって、ふよふよと浮いた状態を保ってしまう。
どうしよう。とりあえず天井付近で様子見してみるかな。
はじめに視界に入ったシャンデリアの元へ上がると、ちょうどよく曲がり角から人の姿が見えてきた。
どしん。最後の一歩を止めた大きな人が、僅かに目を見開き、すぐに眉をしかめた。
「……かなで?」
──えっ。
なんで私の名前、知ってるんだ。
シャンデリアにしがみついて……はいないけど、しがみつくふりをしていた私は固まり、僅かに下方にいるその人を見つめる。
やがて何も答えない私に痺れを切らしたのか、降りてこいという言葉と共に指を差し出してくる。まるで小鳥を指にとめるかのように。
「何度目だ」
「えっ?」
「おれに会うのは、何度目だ?」
ぱちり。また目を瞬かせる。
大きな手のひらの上で正座した私は、ただその人を見つめるだけだった。
「ええっと……初めて会うと、思います、よ……?」
困りながら、とりあえず素直にこたえる。
この人が私の名前を知っていようと、私はこの人のことは何も思い当たることがなかった。
……そうか。と呟かれた声はなんだか力が抜けていた。「……今更か」。呆れたような、嘲笑のような音に思えた。
すると。
「わっ!?」
ぐん! と顔が近くに寄せられる。月の光で鋭く輝く瞳は、まるで飢えた獣のようで。
するり、するり。決して触れることはない。体温を感じることもないのに、大きな人の指が私の頬を撫でるように何度も滑らせる。ぞわぞわと、何故だか背筋がむず痒くなる。その熱が伝わってくるかのように、とらえて離さない。
「……忘れるな」
「え……?」
「おれの名前は、シャーロット・カタクリ。ここにきたら、必ずおれを探せ。おれの元へ来い。いいか、かなで、お前は」
どろり。食べられてしまいそうな捕食者の顔で、苦しそうな瞳孔を私に向けて。
「お前は……──おれから、離れられねェ」
──ばちん!
そこで意識は、盛大に弾けた。
「おお……なんだ今の夢」
乱れる息とバクバクうるさい心臓。頭に残る熱視線。
それが私の見た、最初の夢だった。
一生を喰らう夢