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21
「どうしよう、母性本能に目覚めそう……」
『はあ?』
電話越しにすっとんきょうな声を上げたトキちゃんに、からからと笑いが溢れる。妙に笑い上戸となってしまった私はずっと笑い続けているが、トキちゃんは『母性本能に目覚めるより恋に目覚めなよ』と呆れたように呟いた。その突き放し方にカタクリくんが重なって、また更に笑えてきてしまう。
『なに、例の夢の子?』
「う、うん……っふは、そう。その子。なんか、思い出すとあったかい気持ちになるんだ〜」
『ふーん。まぁ悪いことじゃないけどさ、ほんとかなではまず恋人作った方がいい』
「それは置いといて」
『はいはい。で、夢は解決したの? まだ戦ってる?』
「ん、解決した。もう大丈夫」
お、良かったじゃん! 弾むトキちゃんの声ににへらと頬を緩ませてしまう。どんな些細な出来事でも一緒に喜んでくれるトキちゃんが好きだ。
その節はお世話になりました、と電話越しなのに正座して頭を下げていると、どいたま〜という軽い言葉が返ってくる。ついこの間までは夢やカタクリくんについて本気で悩んでいたが、無事に過ぎ去った今振り返ってみると私の言動は本当におかしいものだっただろう。病院を勧めないでくれたトキちゃんには本当に感謝だ。
「なんか、強くなるためには弱味を見せずに一人で頑張ろう、みたいな。そんな話だったよ」
『かなでと一緒じゃん。うける』
「私はそんな頑張り屋じゃないよー! でもやっぱ知らないうちに気は張ってたのかも。解決してからは凄くすっきり」
『ふーん』
私の言葉を信じてるのか信じてないかわからないトキちゃんの相槌を聞きながら、だからね、と心の中で続きを紡ぐ。
──私はそんなに、能天気過ぎるわけでもない。
「もうあの夢も見ないし、大丈夫。トキちゃんありがとね〜」
軽い調子で、そう告げた。
夢はまだ見る。頻度や時系列は以前よりバラつきがあるけど、それでも私はまだあの不思議な夢を、妙にリアルで真面目に向き合ってしまう夢を、見続けている。
どう考えてもこれ以上は異常だ。あの夢をまるで現実のように受け取って話していたら、頭がおかしいのは私の方だ。もしかしたら本当に何か、精神的に不調を来しているのかもしれないと私自身も自分を疑っている。
でも、それ以上に。……もっとあり得ない疑いが、無い訳じゃ、ない。
その疑いは、それこそ異常で、私がおかしいことを決定付けている。真っ先に捨てるべき仮定だとわかっているのに、どうしても捨てられない。
ならせめて、隠すしかないんだ。私の中で答えが出るまで。誰にも知らせず、誰にも知られず、ひっそりと。
「お礼するから、暇な日あったら教えて〜」
『マジ? じゃあ来週飲み行こ。行きたい店あんの』
「オッケー!」
──ずっと考えてたことがある。
あたしがお兄ちゃんのために出来ることはなんだろう、って。
きゅっと下唇を噛み、地面に浮かぶ自分の影を見つめる。そこには何も写らないし、他に何かがあるわけでもない。
「いいんじゃないかなぁ。出来る事としたい事をすれば」
のんびりとした声にばっと後ろを振り向くも、何も、誰の姿もない。
ああ、これが幻覚か。噂に聞く夢まぼろしか。自嘲の笑いが出てしまうけど、これが幻覚ならすがってしまう気持ちもわかる。
だって、頷いてしまった。
勇気を、出してしまった。
ぎゅうと、今度は唇ではなく拳を握りしめた。
──そうだ。あたしは、出来る事をするんだ。それをしたいと思ったから、それがお兄ちゃんの力になると信じたから。
一歩踏み出す。動きもせず張り付いていた影は、ゲートの中で消えていった。← →
『はあ?』
電話越しにすっとんきょうな声を上げたトキちゃんに、からからと笑いが溢れる。妙に笑い上戸となってしまった私はずっと笑い続けているが、トキちゃんは『母性本能に目覚めるより恋に目覚めなよ』と呆れたように呟いた。その突き放し方にカタクリくんが重なって、また更に笑えてきてしまう。
『なに、例の夢の子?』
「う、うん……っふは、そう。その子。なんか、思い出すとあったかい気持ちになるんだ〜」
『ふーん。まぁ悪いことじゃないけどさ、ほんとかなではまず恋人作った方がいい』
「それは置いといて」
『はいはい。で、夢は解決したの? まだ戦ってる?』
「ん、解決した。もう大丈夫」
お、良かったじゃん! 弾むトキちゃんの声ににへらと頬を緩ませてしまう。どんな些細な出来事でも一緒に喜んでくれるトキちゃんが好きだ。
その節はお世話になりました、と電話越しなのに正座して頭を下げていると、どいたま〜という軽い言葉が返ってくる。ついこの間までは夢やカタクリくんについて本気で悩んでいたが、無事に過ぎ去った今振り返ってみると私の言動は本当におかしいものだっただろう。病院を勧めないでくれたトキちゃんには本当に感謝だ。
「なんか、強くなるためには弱味を見せずに一人で頑張ろう、みたいな。そんな話だったよ」
『かなでと一緒じゃん。うける』
「私はそんな頑張り屋じゃないよー! でもやっぱ知らないうちに気は張ってたのかも。解決してからは凄くすっきり」
『ふーん』
私の言葉を信じてるのか信じてないかわからないトキちゃんの相槌を聞きながら、だからね、と心の中で続きを紡ぐ。
──私はそんなに、能天気過ぎるわけでもない。
「もうあの夢も見ないし、大丈夫。トキちゃんありがとね〜」
軽い調子で、そう告げた。
夢はまだ見る。頻度や時系列は以前よりバラつきがあるけど、それでも私はまだあの不思議な夢を、妙にリアルで真面目に向き合ってしまう夢を、見続けている。
どう考えてもこれ以上は異常だ。あの夢をまるで現実のように受け取って話していたら、頭がおかしいのは私の方だ。もしかしたら本当に何か、精神的に不調を来しているのかもしれないと私自身も自分を疑っている。
でも、それ以上に。……もっとあり得ない疑いが、無い訳じゃ、ない。
その疑いは、それこそ異常で、私がおかしいことを決定付けている。真っ先に捨てるべき仮定だとわかっているのに、どうしても捨てられない。
ならせめて、隠すしかないんだ。私の中で答えが出るまで。誰にも知らせず、誰にも知られず、ひっそりと。
「お礼するから、暇な日あったら教えて〜」
『マジ? じゃあ来週飲み行こ。行きたい店あんの』
「オッケー!」
──ずっと考えてたことがある。
あたしがお兄ちゃんのために出来ることはなんだろう、って。
きゅっと下唇を噛み、地面に浮かぶ自分の影を見つめる。そこには何も写らないし、他に何かがあるわけでもない。
「いいんじゃないかなぁ。出来る事としたい事をすれば」
のんびりとした声にばっと後ろを振り向くも、何も、誰の姿もない。
ああ、これが幻覚か。噂に聞く夢まぼろしか。自嘲の笑いが出てしまうけど、これが幻覚ならすがってしまう気持ちもわかる。
だって、頷いてしまった。
勇気を、出してしまった。
ぎゅうと、今度は唇ではなく拳を握りしめた。
──そうだ。あたしは、出来る事をするんだ。それをしたいと思ったから、それがお兄ちゃんの力になると信じたから。
一歩踏み出す。動きもせず張り付いていた影は、ゲートの中で消えていった。