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 ──世の中、特徴的な人は多いといえど。
 この世界の人は、ちょっと特徴を詰めすぎている、気がする。



 ──ぺ、ぺろりん……ぺろりんって…………なんだ。
 頭の中は大混乱である。そういうシャレ? 流行り言葉? 芸人のネタか何か?
 扉の先にいた、おそらくペロスお兄さん、という人に。失礼だとわかっていても動揺が隠せない。
 道化師のような格好。やたらと飴の刺さった帽子や、でっかいキャンディのような……ボタン? とにかく、ピエロにファンシーな要素を足したような。でも顔はちょっと怖いような。そんな印象を受けてしまった。
 ひくり。口許がひきつる。──これが深層心理なら、結構疲れてる……かも。

 盗み見るように、隣に立つカタクリさんを見上げた。戸惑っている私など見えていないと言わんばかりに、軽く挨拶をかけ部屋の奥へと足を踏み入れている。
 慌てて追いかけた。つかつかと進み行く背はやはり、もう私を気にかけてない。

「聞いたぜ、カタクリ」

 しかも普通に会話が始まってしまった。なんか言葉の投げ掛け方が不穏だけど。
 カタクリさんが座るのとほぼ同時にかけられた声に、本当に見えてないよね……? と迷っていた私は少しほっとする。
 じゃあソファーの近くに寄ろうかなと近付いき、念のため、控えめにだがおそるおそる、ペロスお兄さんに向かって手を振ってみた。反応もない。何かに気付いている様子も、ない。……たぶん大丈夫。
 やっと肩を落とせた私は、口をきゅっと結んで成り行きの見守る。

「シュークリームの仲裁だってな。私としちゃァいつもの味は飽きてきたとこなんだが、どうなった? ペロリン♪」
「……両方、用意させる……材料は少々手間取りそうだ」
「あ〜ァ、そうか。生産量が少ないって言ってたか。希少価値のあるもんは、早めに用意させねェとな。くくくく……!」

 えっ……こ、こわいな。なんだか。

「ちょうどこの間立ち寄った島で、質の良いハチミツを見つけてな。何に使っても間違いないだろうぜェ、あれは!」
「ハチミツか……それならキャンディーにするのも悪くないな……」
「ああ、当然だ。シュークリームの表面に薄くハチミツキャンディーをコーティングする。妹達からのリクエストでな」
「そうか」
「くくくく……!」

 こ、こわいなあ!? なんだか!!!?
 笑みが一層深くなる。会話の内容も部屋の装飾もファンシーなのに、なんだろう、このぞわぞわする感じ……。
 見た目の印象に加え、不思議な語尾を挟む人──ペロスお兄さんは。二人がけソファーの真ん中に堂々と座り、カタクリさんに笑いかけている。笑いかけていると形容していいのか、わからないけど。笑顔がなんとなく怖いので……。

 カタクリさんに緊張や嫌な雰囲気はない。だからたぶん、仲は悪くないんだろう。見慣れているからとかでもなく、気心が知れているというのが見てとれた。
 だから……きっと、そこまで怖くないのかも、しれない。

 (──カタクリさんより、背が低い)

 勇気を出して、改めてペロスお兄さんを見据える。
 私からしたら十分大きいけれど、カタクリさんより目線が近い。手足がすらっと細長い。目の下に隈ができかけてる。
 距離も縮め、ペロスお兄さんの横に座り、その遥か頭上にある姿を眺め人と成りを知ろうとする。怖いなと思った顔もよく見れば、表情がコロコロ変わるが故の皺、少し疲れて苦労が滲み出てるものだと思えた。ちゃんとご飯、食べてないのかも。

「……休めているか? 少し顔色が悪い」
「あァ……そりゃ今朝まで食い煩いの対処してたからな。徹夜は堪えるぜ」

 私が目に余ったのか、カタクリさんも気づいたのか、心配が投げ掛けられる。
 ペロスお兄さんは、目元を抑えて溜め息を吐いた。その様子は嘘に見えない。
 ──うん。

「……おつかれさまです」

 怖がって、ごめんなさい。
 そんな意思をこめて、頭を下げた。



 それからしばらくの間、ペロスお兄さんとカタクリさんは何かを取り決めたり、お母さんや弟や妹の話に脱線したり。簡潔ながらも、ぽんぽん話を弾ませていた。
 兄弟姉妹がたくさんいるみたいだ。会話から二人の苦労が窺えた。特にペロスお兄さんは長男と聞いていただけあって、やる事が山積みのようだ。
 つい、口許が綻んでしまう。──言葉は愚痴っぽくても、嫌な感じがしない。
 きっと、カタクリさんもペロスお兄さんも、家族が大好きなんだろう。見た目で戸惑ったことは、もう申し訳なさしかない。

 時折部屋の中をぐるりと見てまわったり、ペロスお兄さんの話に勝手に相槌を打ったりして時間を潰す。
 たまに、海賊だとか、戦闘だとか、物騒な単語が聞こえてきたりして。見た目通り過ぎじゃない? お菓子の家と海賊という単語があまりにも不釣り合いで、この夢の世界観がますます不思議になる。

「……カタクリ」
「……?」
「お前──」

 ふと。
 ペロスお兄さんが、言葉を妙なタイミングで区切った。
 じっとカタクリさんを見つめ、間をあけたペロスお兄さんは「……いや」と何か納得したようにソファーへ腰掛け直す。
 きょとんとして、私もカタクリさんを見てみるも、特に変わった様子はない。カタクリさん自身もなんのことかわかっていなさそうだった。
 何か続きを話し出しそうなペロスお兄さんへ視線を移す。
 その空気は何だか、本当に余計なことを言ったとばかりの雰囲気で。


「何か……機嫌が良いように思えただけだ。ペロリン♪」


 紅茶を一口飲み、そう告げた。

「……いつもと変わりはないが?」
「あァ、そうだろうな。機嫌が良いっつうより、落ち着いてる感じだ。心配事が一つ消えたみてェに」
「……」
「目が、そういう風なんだよ」

 これ以上言うことはない。という態度でペロスお兄さんは肩をほぐしながら、目を瞑った。
 ばちん! 一瞬だけ、カタクリさんと目が合う。何でもないようにちらりと見ただけのカタクリさんの視線がなにか意味のあるようなことに思えて、ぱちぱちと目を瞬く。
 なんですか? 声は出せないので首を傾げる。もう一度視線が交わることはなかったものの、意図を汲みたくて見つめ続ける。
 ヒントは、見つからない。


「──……あぁ。そうかもしれないな」


 カタクリさんは返す。
 言いたいことがあるような空気を、飲み込んで。

 ──……なんだろう? 気になる。
 妙な違和感を覚えて、カタクリさんへ近づこうとする。近くで見たら、顔の高さまで浮いたら、また何か目で訴えてくれるかもしれない。
 そう思って、ふわりと席を離れようとして。

 (……あ、れ……?)

 ──どろり。
 急に。
 意識が、微睡む。

 心地良い倦怠感。鈍くなる周囲の音。
 この感覚は覚えがある。

 (これ──寝落ちる、時の、感覚)


「話し込んだな。何か用を残してるなら、もう行っていいぜ、ペロリン♪」
「いや、特にたて込ん──もの──い」
「───」

 ──まって、まだ、落ちるのは。
 このままじゃ……目覚めが、悪そ、う。

 音が、どんどん遠ざかっていく。二人の声も、姿も、なんだかぼやけている。
 逆らえない重みに身体は従っていく一方で、力を入れようとしてもこれ以上は抵抗出来ない。
 せめてもの抵抗で目を向ける。挨拶も何も出来ないけど、いきなり寝落ちることは避けたい。少しでもカタクリさんが気づいてくれたら嬉しい。
 薄い瞼を持ち上げ、閉じ、また持ち上げて。
 落ちていく意識の中で、カタクリさんを見れた気がした。

「──大した用じゃない。ただ……『離れるな』と、言い忘れただけだ」


 ゆらり、揺れる、瞳。

 ──それは、なん……の……───か。 
 答えのない問いを忘れるように、目を閉じた。

その目に焦がれる

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