エルキドゥと釣り
風化した岩の先端で、潮騒をBGMにひたすら待つ。
「あ、鳥だ」
「撃ち落とすかい?」
「ううん。今は魚が大事」
「そうだね」
「……楽しい?」
「楽しいよ」
珍しくエルキドゥから頼みがあるかと思えば、まさかの釣り。さっそくシミュレーションルームで道具を揃えて釣り糸を垂らしたのだが、今のところ釣果はゼロ。でも退屈してはいないらしく、「マスターと話したかっただけだよ」と嬉しいことを言ってくれる。けれど、やっぱりやるからには釣って楽しんでほしい。
「なんで釣れないんだろう……」
「設定ミスかな?やり方はエレシュキガルに教わったんだけど」
「それだよ!?」
うっかり属性の彼女ならやりかねない。そして天然気質のエルキドゥなら鵜呑みにしかねない。
エルキドゥは私の指摘を受けて「そうじゃないかとは思ってたんだよね」と朗らかに笑った。
「とりあえず設定変えよう!魚増やそう!」
「そうだね。どのくらい増やそうかな」
「大漁にしちゃう?」
「魚祭りだね。わかるとも」
エルキドゥがオプションを開き、操作していく。さっき操作で学習したらしく、その手つきに迷いはない。きっとわかってはいたけど、エレシュキガルの言葉を信じてセッティングしたのだろう。
「よし!これで釣れるね」
「女主は釣れなくてつまらなかった?」
「そんなことないよ、たくさんエルキドゥと話せたもん。エルキドゥこそがっかりしてない?」
「ボクは……そうだね。少し残念だよ、色々と」
口ではそう言いながら、どこか楽しそうに餌をつけ直すエルキドゥ。本当にそう思っているのだろうか。穏やかな微笑は無表情とは別のポーカーフェイスで、真意を読み取るには難しい。こういう時は直球で尋ねるのが一番だ。
「それ本心?あんまりがっかりしてるようには見えないけど……」
「どっちもかな。魚が釣れたらキミとの時間は終わってしまう。でもこうして話すだけで満ち足りているのも事実だ」
この時間に終わりが来るのは仕方ないことだ。このまま一匹も釣れなくても、食事とか周回とか、あるいは特異点の出現が終わりを告げるだろう。
でもこれが全てじゃない。エルキドゥが惜しんでいるなら、何回だって海に来よう。
「何匹釣っても終わらないよ。また釣りしようね」
「……そうだね。でもボクの目的は釣りじゃなくて──」
「ぎゃあっ!?何これ、すごい食いついてる!きっと大物だよ!」
「……そうだね」