土方十四郎、金魚を飼う。
ちょっとアンタ、悪いけどこれ引き取っておくれ。
スーパーからの帰り道、通りすがりのおばあさんは金魚が入った袋を無理やり握らせると、スタスタと歩いて行ってしまった。
家には去年の金魚が一匹いるから、飼えないことはない。けれど餌代が二倍になるし、性別次第では繁殖してしまうかもしれない。屋台用の金魚は改良されているって噂を聞いたことがあるけど、万が一の可能性もある。強引に引き止めて聞けば良かった。でも他人に押し付けた人が、金魚の性別を知っているだろうか。
延々と悩んでいるうちに、家に着いてしまった。
「……ただいま」
玄関を上がってゆっくり下駄を揃えていると、珍しく「おかえり」と土方さんがやってきた。
「何かあったのか?いつもより遅かったじゃねぇか」
「いえ、その……」
「……何隠したんだ?」
鋭い。そしてなぜ隠した自分。
しかし生き物を手荒には扱えず、後ろ手に隠した金魚はあっさり奪われてしまった。何食わぬ顔で泳ぐ金魚を、土方さんがまじまじと見る。
「縁日でもねぇのに屋台が出てんのか?」
「いえ、道端でおばあさんに渡されて……どうしましょう」
「その辺に流すか」
「えっ」
「冗談だ」
土方さんは意地が悪そうに笑って、そのまま金魚鉢の上で袋を傾けた。水と共に、赤い金魚がちゃぽんと入水する。
あれこれ悩んでいたことが、清々しいほどあっさりと解決してしまった。
「ま、こいつも連れがいた方がいいだろ」
「……土方さんも金魚の気持ち考えるんですね」
「どういう意味だコラ」
二人で金魚鉢を覗き込む。下手くそで一匹しか掬えなかった金魚が、仲間を歓迎するように尾びれを揺らしている気がした。
「今年もお祭り行きましょうね」
「おう」