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「 な、な、な…! なにごとだ〜〜!? 」

6限目の授業を終え、少し長引いたHRも終えて帰ろうとしていた。−− ところで、前も後ろもたくさんの他クラスの生徒で溢れかえっていることに気がついた

「 君たち、A組に何か用か? 」「 んだよでれねえじゃん!なーにしに来たんだよ! 」

リュックを背負って帰ろうとした足を止めると、わざわざここまでやって来たであろう者たちが私たちを見定めするかのようにジロジロ見る

「 敵情視察だろザコ。敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな、体育祭の前に見ておきてえんだろ。そんなことしたって意味ねえからどけモブ共 」
「 知らない人のことをとりあえずモブっていうの辞めなよ!? 」

敵情視察、か。確かに、予めわかっている対戦相手の情報を収集することは戦いにおいての基本だし、間違ってはいないとは思うけど… 出入り口を塞いでまで、わたしたちの帰る邪魔をしてまでは辞めて欲しいな

「 噂のA組、どんなもんかと見に来たが、随分と偉そうだなあ。ヒーロー科に在籍するやつはみんなこんななのか? 」
「 ァあ? 」
「 こういうの見ちゃうと、幻滅するなあ。普通科とか他の科って ヒーロー科落ちたから入ったって人結構いるんだ、知ってた? そんな俺らにも学校側はチャンスを残してくれている。体育祭のリザルトによっちゃヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ…… 敵情視察? 少なくとも俺は、いくらヒーロー科とはいえ、調子に乗ってっと足下ごっそり掬っちゃうぞっていう 宣戦布告しに来たつもり 」

爆豪くんのあの言葉に火がついたのか、饒舌に語り出す彼。話からしておそらく、ヒーロー科に落ちたから仕方なく他の学科に通っているのだろう…… 体育祭の結果次第でヒーロー科編入も有り、その逆も然り、か…

でも、ヒーロー科の入試に落ちた時点で此処にいる人たちより劣ってるって考えないのかな…? まあ、入試がどんな風に行われたのか知らないから、向き不向きもあるんだろうけど

「 おうおう隣のB組のもんだけど、敵と闘ったっていうから話聞こうと思ったんだけどよお、えらく調子ついちゃってんなオイ! …… って無視すんな! 」
「 待ってコラ!爆豪ー!どうしてくれんだ!? お前のせいでヘイト集まりまくってんじゃねえか! 」
「 … 関係ねーよ、… 上にあがりゃ、関係ねえ 」

人混みをかき分け ( と、言うよりも人混みが彼の周りを開け始めた ) 1番最初に教室を出て行く爆豪くん。彼のことは一理ある。いくら大口を叩こうが、結果が全て。さっきの彼だって、結果を出さなきゃヒーロー科編入云々の前に、意味がない

「 シンプルで男らしいじゃねえか! 」「 はあ!? 」「 言うねえ! 」「 は!? 」「 上か、一理ある 」「 いやいや騙されんな無駄に敵を増やしただけだぞ!? 」

「 あ、待って焦凍 」

呆気にとられている間に、焦凍も帰ろうとドアの方へ向かっていた。今日は彼とスーパーに寄って帰るのだ、置いていかれてはたまったもんじゃない

「 …… ねえ、特待生の女ってどの人? 」

焦凍の後を追うように教室から出ようとしていたら ふいに、そんな声が聞こえた

「 …… 十数年ぶりの特待生、噂では女って聞いてたんだけど、どの人? 」

特待生、と呼ぶ声にわたしだけではなく、焦凍も足を止め、クラスの人たちも一斉にその声の持ち主の方へ視線を送った

さっきまで爆豪くんに喧嘩を売っていた男の子の隣らへんにいたショートカットの女の子と、髪の毛を横で結んでいる女の子の2人がわたしを呼んだのだ。当然、面識などはないが

「 …… ああ、入学式に出てないA組の人は知らないんだ。今年、A組には何十年かぶりの特待生が入学してるんだよ 」

雄英高校の特待生制度、一見聞こえはいいが その中身は危険個性保持者を監視下に置くだけのもの。と、言っても この内容を知っているのは教師と、生徒の中では張本人であるわたしと、焦凍だけであると思っていたけど…

名指しはしないとはいえ、まさか保護者が出席している入学式でそんなことを言ってたなんて思いもしなかった、… まあ毎年定員40名のところ、1人多かったら誰もが不思議に思うことか、

「 このクラスにそんな奴いたのか!? 」「 今年は例年より1人人数が多いとは思ってたけど 」「 特待生ってなんかすごくね? 学校側からの直接オファーなんだろ? 」

クラスメイトがガヤガヤと騒ぎ出す。そりゃ誰もが特待生、と聞けば凄いと思うのが普通だろう。普通の高校であるならばの話だけど

何かを察したのか 焦凍はわたしの腕を掴んで「 早く帰るぞ 」と無理やり引っ張る

「 ちょっと待ちなさいよ 」

前の方に視線は集まっている。バレないように後方から抜けようとすれば ひんやりとした冷たい声がわたしに突き刺さった

「 特待生としてろくに入学試験も受けずに図々しくヒーロー科に入学した女って、あんたでしょ? 」

真っ黒な双眸がわたしに注がれた。真っ直ぐ、バカにして嘲笑うかのように。身体ごとその女の方へ見やれば 少し引きつったかのように笑う

「 ……、なあに? 」

「 特待生って蝕喰だったのか!? 」「 確かにお前の個性すげえ強力だったけどよ! 」「 特待生ってすげえな蝕喰! 」

何も知らない無邪気なその言葉が 抉るように突き刺さる。違う、違うの、なんも凄くなんかないんだよ、違うの……

「 あっはは、特待生?凄い?何言ってるの。あんたらクラスメイトのくせになんも知らないわけ?? この学校の特待生制度って、個性が凄いから学校側からオファーがくるわけじゃないんだよ? その個性が敵になり得る可能性を秘めていたり、過去にもうすでに事件を起こしたりしている危険な人物を監視して 更生させたり、場合によっては 捕縛、監禁、軟禁したりする為の制度なの、知らないの? 」

甲高い声で笑いながら、そう言った。動揺したクラスメイトの視線が一気に突き刺さった

体育祭がある以上いずれかは周りに知られてしまうことだと分かっていたけども、まさか第三者、それもヒーロー科でもなんでもない女にバラされてしまうなんて、思ってもいなかった

「 わたしの叔母さん、雄英ヒーロー科の卒業生でさ。20年前にも、特待生として入学した女がいたらしいんだよね… まあ最も、その女は更生できなくて在学中に逃亡。今じゃ生きてるのか死んでるのかもわからないらしいんだけど… 」
「 ……、で? 」
「 は、…? 」

心底その20年前の女のことなんかどうでも良くて、思わず で?と一単語で返してしまえば 顔を歪めては?と言われてしまった

「 だから、なに? ここにいるほとんどの人が特待生の内容を知らなくて、ここで多くの人にわたしが特待生であると言いふらして、それで? この女は危険だから近付くな、学校から追い出せ、更生なんか出来るわけない、そう言いたいの? 」

自分でも驚くほど低い声。ぶるりとその女たちが怯んだように見えた

敵情視察に来ていた人たちやクラスメイトはたちまち野次馬となり、息を飲んでわたしたちを見る

「 あんたみたいのが更生できるわけ、ないじゃない…… 知ってるのよ、… それに、体育祭にエントリーすらしてもらえないくせに……! ヒーロー科なのに体育祭にエントリーすらできないってどういう気持ち?? いろんなプロヒーローが見にくる大事な体育祭。年に1回、計3回しかない大事な大事な体育祭。" くさいものにはフタをする "。あんたみたいな女をテレビの取材が来るこの大事な体育祭に表に出すことの危険さを、学校側もよくわかっているよね 」

わたしに怯んで、少し泣きそうな顔をしながら、それでも強気に睨んでくる。この人たちはここまでして一体、わたしをどうしたいのだろう

「 …… 」

" あんたみたいな恵まれた女に、わたしの気持ちなんて分かり得ないだろうね "

何か言おうと、必死に言葉を探して やっとの思いで口を開こうとしたところで、騒ぎを聞きつけて来た 相澤先生やB組の担任の先生がやって来た

敵情視察に来ていた人たちは瞬く間に散っていき、その流れに乗っかるように 焦凍がわたしの手を引いて教室から出た

前を行く白と赤のツートンカラーを目に焼き付けながら、重たい足を必死に動かす

「 、…… 」

悲しくはなかった。ただ、なにも知らない、ましてやヒーロー科でもない見知らぬ女に あんなことを言われる筋合いはないと思った

「 きっと、」

きっと、炎司さんが条件を出さなかったとしても、わたしは体育祭とか、そういう行事には出ることができなかったんだろうなあ…