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「 ばく、ご、くん… 」

掴まれた左手首が痛い、
解けた包帯が力無く床に落ちる

そんな目で見つめないで、
嫌な顔をしないでよ、

わたしはわたしが勝手にわたしのやり方で幸せになるから、… だから

「 勝手にヒーロー諦めてんじゃねえぞこの半端野郎が! じゃあ何の為に雄英入ったんだァ!? てめえがヒーローになりたいと思っちまったから、どんな形であれ今ここにいんだろ!? 」

そんなこと、言わないで





《 第二種目、騎馬戦! 1位は轟チーム! 2位 爆豪チーム! 3位 鉄哲… ってアレェ!? 心操チーム!? いつの間に逆転してたんだよ!? そして4位!緑谷チーム! 》

最後の最後、飯田くんの個性のおかげで1千万を奪い取った焦凍のチームが1位で幕を下ろした。1千万を取られながらも、なんとか4位でギリギリ予選を通過した緑谷くんチームがすごいなあ…

緑谷くんが、というより警戒の薄くなっていた頭を狙って奪い取った常闇くんに完敗だ

上から見る騎馬戦に圧倒されてしまって、思わずその場で立ち尽くす。プレゼントマイクの昼休憩、の声でようやく動き出す

食堂に行く為に階段を降りて外に出ようとしたら見覚えのある背中が視界に入った

「 爆豪くん、お疲れ様 」
「 あァ? 」

後ろから声をかければ至極不快そうにこちらを振り向いた

「 ッち 腐敗女か 」
「 ねえその呼び方辞めない? 」
「 ッせ指図すんなや 」

ポケットに手を突っ込んでズカズカと大股で歩き出す。出口に向かってるみたいで、わたしもその背中を追う

「 午後からのトーナメント、勝てそう? 爆豪くんあんな派手な選手宣誓したんだから伏線しっかり回収しないとね 」
「 聞いてたんか 」
「 バッチリ 」
「 俺が欲しいのは完膚なきまでの1位だ。… デクにも、当然半分野郎にも1位は譲らねえ、…… 俺が、1番になんだよ 」
「 ふふ、強気だねえ爆豪くん。そういう所、嫌いじゃないしむしろ好きだよ。なんかこう、絶対に1番になってやる、っていう気持ちがヒーローっぽくていいや 」

へらり、と笑うと舌打ちで返されてしまった。恐らく彼にとっては舌打ちすらもコミュニケーションなんであろう ( と、思うようにしている )

爆豪くんの横に立って歩いていたら突然、腕を引かれて口元を抑えられた

「 ッ!? 」
「 うるせえ黙れしゃべんな 」

いや、喋れないけどこれじゃあ

「 …… あの、… 話って、何? 」

誰もいないはずの廊下に響いたのは先ほどまで騎馬戦で白熱の戦いをしていた緑谷くん、

「 …デク、… と半分野郎…ッ 」
「 しょうと、? 」

「 は、早くしないと、食堂混みそうだし…! …… えっと、… 」

爆豪くんの手から解放されるや否や、まるで悪いことをしているかのように、2人揃って壁に隠れながら様子を伺う。おどおどした緑谷くんの声がヤケに響いた、

暫くしてから焦凍が口を開く

「 …… 気圧された、… てめえの誓約を破っちまうほどによ… 」

" てめえの誓約 " 戦闘においては左を絶対使わない、という 焦凍が誓った誓約のことだ

「 飯田も上鳴も、八百万も常闇も麗日も感じていなかった。最後の場面、あの場で俺だけが気圧された…… 本気のオールマイトを身近で経験した俺だけ… 」
「 …それ、つまりどういう 」
「 お前に同様の何かを感じたってわけだ。緑谷、お前オールマイトの隠し子が何かか? どうなんだ 」

隠し子…!? その発想はなかった…! 確かに緑谷くんとオールマイトの、超パワーには似ているところがある、… けど、

「 ち、違うよそれは! て、言ってももし本当に隠し子だったら違うっていうに決まってるから納得しないと思うけど… とにかく、そんなんじゃなくて……! 」

" そんなんじゃなくて、" と言うことは少なくとも何か関わりがあるってこと?

「 逆に聞くけど、なんで僕なんかにそんな… 」
「 そんなんじゃなくて、… って言い方は、少なくとも何かしら言えねえ繋がりがあるってワケだな…… 俺の親父はエンデヴァー、… 知ってるだろ。万年No.2のヒーローだ。お前がNo.1ヒーローの何かを持っているなら俺はなおさら勝たなくちゃいけねえ 」

『 立て焦凍! 泣くな! お前は俺を、オールマイトをも超えるヒーローになるんだ! こんなところで立ち止まってる暇なんぞねえ! 名前もいつまで倒れ込んでるつもりだ立て! 』

「 親父は極めて上昇志向の強いヤツだ。ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが、それだけに 生ける伝説オールマイトが目障りで仕方なかったらしい 」

『 お前は何があっても焦凍を守るんだ。死んでも焦凍のことを守りきれ 』

「 自分ではオールマイトを超えられない親父は次の策に出た 」
「 なんの話だよ轟くん…… 僕に何を言いたいんだ…ッ 」
「 個性婚、知ってるよな。超常が起きてから第二、第三世代間で問題になったやつだ。…… 自身の個性をより強化して、子供に継がせるためだけに配偶者を選び結婚を強いる、倫理観の欠落した前時代的発想…… 実績と金だけはある男だ。親父は母の親族を丸め込み、母の個性を手に入れた。俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで、自身の欲求を満たそうって根端だ、鬱陶しい… 」

ぴくり、と指先が震えた。遥か昔に傷つけた左指が今更熱を帯びてぐちぐちと痛み出した気がした。

「 そんなクズの道具にはならねえ 」

熱くて融けそうになった左指が、冷たい空気を求めて蠢き始める

「 記憶の母はいつも泣いてる。 …… お前の左側が醜いと、母は俺に煮え湯を浴びせた 」

『 あなたがその左の傷を思い出して、どうしようもなく悲しくなった時、わたしがそばに居るから……ッ 』

「 ざっと話したが、俺がお前に突っかかるのは見返すためだ。クソ親父の個性なんざ無くたって… いや、使わずして1位になることでヤツを完全否定する。… オールマイトとの繋がり、言えねえなら別にいい。お前がオールマイトのなんであろうと俺は右だけでお前の上を行く。… 時間を取らせたな 」

足音を立てて去りゆく、
左指が酷く痛みを帯びた。

「 …… 」
「 、… 」

「 僕は… 」と、遠くから緑谷くんの声がまた耳を掠めた。その先の言葉はよく聞こえなかった

爆豪くんと2人、取り残されたこの空間。速くなってしまった鼓動をなんとか押さえつけて、息を整える

わたしよりも背の高い爆豪くんが わたしを見下ろすように冷たい目でわたしを見つめてくる

「 てめえはなんで雄英に居んだ 」
「 え、…… 」
「 ここにいる奴は全員、ヒーローになるためにここにいんだ。…… てめえはなんで雄英に居んだよ 」
「 わ、… わたしは、… 」

" わたしだって、誰かを救えるヒーローになるために、ここに来た " たった一言、それを言うことさえわたしは許されないのだ

きゅっと口を噤んでしまう、

「 黙ってんじゃねえよ 」

ギリギリと掴まれてしまった腕が痛い。自分の胸の鼓動がうるさい、相手に聞こえてしまっているんじゃないかって言うほど、大きな音を立てて動く

なんで雄英に居るんだ? 知らないよ、わたしだってヒーローになりたいと思って、此処に居るはずだったのに……ッ

「 なァおい、なんとか言えや 」
「 わたしじゃ、…… わたしじゃヒーローになれないから…… わたしだって憧れてしまったヒーローになりたかった、でもそれは許されないことだから…… わたしが今、此処にいるのは、 」
「 勝手にヒーロー諦めてんじゃねえぞこの半端野郎が! じゃあ何の為に雄英入ったんだァ!? てめえがヒーローになりたいと思っちまったから、どんな形であれ今ここにいんだろ!? 」
「 ッ! な、何も知らないくせに! 」
「 あァ!? 知らねえなあ!てめえの事情なんか興味もねえ!知ろうとも思わねえ! じゃあ今すぐ雄英なんか辞めちまえや!! 」
「 ッ 離して! 」

図星だと思った。わたしのこと何も知らないくせに、そうやって適当に片付けて 逃げ出そうとして、…

ぶわりと身体から溢れ出る個性を暴走させてしまって、この場から逃げたいと思ってしまったんだ。嗚呼、これじゃあ何も変わらないことくらい わたしが1番わかっているはずなのに、……

「 感情に任せて個性暴走させてんじゃねえ 」
「 ぁ、… ご、ごめん…… 」
「 てめえの個性、上手く使えばヒーローにだって十分なれんだろ。USJん時だって てめえが地面崩したお陰でクソ雑魚共の動きが鈍った、… 勝手に自分の個性の限界決めてんじゃねえよクソが 」
「 ち、… 違う、違うの…… 」

そうじゃなくて、違うの、…ッ

「 ただたんに個性が危険だからって理由で雄英に居るわけじゃないの…… わたし、…… 人を殺めてしまったことがあるの 」
「 は? 」
「 この手で人を殺してしまったの、… だから雄英側はわたしが敵になることを恐れて、雄英に縛り付けておこうとしているだけなの… 学校側が、わたしをヒーローにすることを許してくれるはずが、ないの 」