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「 嗚呼、おかえり焦凍。今日の晩御飯はお蕎麦にしたよ 」

体育祭振替休日。

病院へ向かった焦凍が帰ってきた。その顔は行く前よりも幾分も晴れていて、なんだかこちらまで嬉しくなってしまったものだ

手を洗ってくるよう促し、食卓に2人ぶんのご飯を用意してテレビを付ける

《 東京 保須市で、プロヒーロー インゲニウムが ヒーロー殺しステインに斬りつけられた事件で 》

「 ヒーロー殺し、… ステイン 」

プロヒーロー インゲニウム。確か、飯田くんのお兄さんだ。あの若さで自分の事務所を立ち上げ、何十人ものサイドキックを抱えているやり手のヒーロー。そんなヒーローが再起不能になるまでやられてしまうなんて、……

「 またこのニュースか… 」
「 うん、…… 明日から学校だけど、飯田くん大丈夫かな 」
「 … 何言うのも違えだろ 」
「 そうだね…… さ、食べよう! 時間あったから天婦羅もあげてみたの。えっとね インゲンに南瓜、これは竹輪で〜、こっちは椎茸ね。あとはレンコンと茄子! 野菜が結構あったからたくさん揚げちゃった…! 」
「 美味そうだな… いただきます 」
「 いただきまーす 」

天婦羅に塩をつけて一口。うん、美味しい。自分で言うのもなんだがなかなか良い揚げ具合だなあ。天婦羅作るのにハマりそう!

わたしは冷たいお蕎麦が苦手だからあったかいお蕎麦に麺をぶち込んで食べる。焦凍は冷たいお蕎麦だから 少しずつつゆにつけながら食べている

明日からまた学校が始まり、すぐに職場体験となる。職場体験が終われば期末テストがやってきて、それで夏休みに入る。此処最近、ずっと濃い時間を過ごしてきたおかげであっという間だったなあ…

「 あ、明日の天気予報雨だって… やだなあ 湿気で髪の毛爆発するなあ 」





「 やっぱり中継されると違うね〜!? ちょ〜声かけられたよくる途中! 」

雨を吸い込んでしまったブレザーを椅子にかけて乾かしていると、そんな元気な声が耳に届いた。

確かに、…

今日もいつものように、焦凍と2人で登校したが 彼の声のかけられ具合は尋常ではなかった。歩くたびに声をかけられ、女子高生などには写真も求められていた。まあわたしはただ遠くから眺めていただけなんだけど、

「 あー!俺も! 」「 私も〜 ジロジロ見られてなんか恥ずかしかった〜! 」「 葉隠さんはいつもなんじゃ…… 」「 俺なんか小学生にいきなりどんまいコールされたぜ… 」「 どんまい 」「 ぅっわっは〜!!! 」「 たった1日で一気に注目の的になっちまったな! 」「 やっぱ雄英すげえな! 」

雄英の体育祭は全国に生中継されるし、今年の1年生 特にA組は世間から色々期待されていたから当然、上位に進んだ人たちは顔や名前を覚えられ、話しかけられるのだ

「 おはよう 」
「「 おはよーございます! 」」

顔の包帯が取れた相澤先生がいつのと何も変わらずに教室に入ってきた。顔の怪我、良くなったんだ 良かったなあ

「 今日のヒーロー情報学、ちょっと特別だぞ 」
「「 ( キタッッ ) 」」

小テスト?ヒーロー関連の法律の小テストとかかな? やだなあ、勉強してないし

「 コードネーム… ヒーロー名の考案だ。と、言うのも 先日話したプロヒーローからのドラフト指名に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2.3年から。つまり、今回1年のお前らに来た指名は、将来性に対する興味に近い。卒業までその興味を削がれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある 」

プロヒーローからの直接オファー、… ヒーローを目指すわたしたちにとってこれ以上光栄なことはないことだけど、大人は勝手だなあ。自分が1度目にかけた子供を、違うと思ったらキャンセル、なんて。育ててあげてもいいのになあ

「 頂いた指名がそのまま自身へのハードルになるんですね! 」
「 そ。で、その集計結果がこうだ 」

指名された人が黒板に映し出される

1位 : 轟 4123
2位 : 爆豪 3556
3位 : 常闇 360
4位 : 飯田 301
5位 : 上鳴 272
6位 : 八百万 108
7位 : 切島 68
8位 : 麗日 20
9位 : 瀬呂 14

「 例年はもっとばらけるんだが、2人に注目が偏った 」

4桁を超えるのは 焦凍と爆豪くん。この2人が3位以下に圧倒的な差をつけて プロヒーローから指名を受けている

「 ッは〜!? 白黒ついた! 」「 見る目ないよね!プロ! 」「 1位轟2位爆豪って体育祭と順位逆転してんじゃん! 」「 表彰台で拘束されたやつとかビビってよべないって 」「 びびってんじゃねえよプロが!!! 」

もっともである。

「 はあ 流石ですわね、轟さん 」
「 ほとんど親の話題有りきだろ 」
「 百ちゃんも指名100超えてるじゃん 」
「 体育祭は不甲斐ない結果で終わってしまいましたもの… 不本意ですわ 」
「 でも、この100件の中に すごくいい事務所だってあるかもしれないでしょ 」
「 そうですわね…! 頂いた指名は無駄にしませんよう全力で選びますわ! 」

ぷりぷりと張り切りだした百ちゃん、可愛いなあ。にしても、4000件を超える中から選ぶなんて逆に大変だなあ。行きたいヒーロー事務所とかあるのかな焦凍は

「 この結果を踏まえ、指名の有無に関係なく 所謂、職場体験ってのに行ってもらう。お前たちはUSJの時、一足早い敵との対戦を経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった 」
「 それでヒーロー名かあ 」
「 俄然楽しみになって来た! 」
「 まあ、そのヒーロー名はまだ仮ではあるが適当なもんは 」
「 付けたら地獄を見ちゃうよー! 」
「「 ミッドナイトーーー!! 」」

相澤先生の言葉を遮るように、豊満な胸を揺らしながらミッドナイトが教室に入って来た

「 そういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん。将来、自分がどうなるのか名をつけることでイメージが固まり、それに近づいていく。それが名は体を表すってことだ。オールマイト、とかな 」

峰田くんから配られた紙を貰って、ヒーロー名について考える。何にしよう、全く考えてなかったな。みんな、どんなのにするんだろう? 〇〇ヒーローとか、そういうのも考えてたりするのかな?

「 ううん…… 」

全く思いつかない。腐蝕、… 蝕喰、名前… どこかとってヒーロ名つけたほうがいいのかなあ? 相澤先生は抹消ヒーローイレイザーヘッド、… 個性のインパクトのまんまだしプレゼントマイクだってなんかもうそのまんまだし……

「 じゃ、そろそろできた人から発表してね 」
「 発表形式!? 」

動揺するクラスとは裏腹に、青山くんが物凄いドヤ顔で挙手をして教卓に立った

「 いくよ、… " 輝きヒーロー I can not stop twinkling " 訳して、キラキラが止められないよ! 」
「「 短文!?!? 」」
「 ここは I をとって、can't に省略したほうが呼びやすい 」
「 ソレ〜 マドマーゼル! 」
「「 いいのかよ!! 」」

みんなの心の中のツッコミが手に取るようにわかってしまってじわじわきてしまう。青山くんのヒーロ名、彼らしくていいんじゃない?と笑いをこらえながら拍手をする。次いで三奈ちゃんが挙手し、これまた自信満々に教卓に立ってこう言ったのだ。

" エイリアンクイーン " と。

最初に ( 申し訳ないが ) 変な2人がきてしまったせいで大喜利っぽい空気になってしまったのだ。冷や汗をかきながらみんな次の出方を伺っている。とはいえ、わたしはまだ何も決まってないので頭をフル回転させて自分のヒーロー名を考える

「 ケロ!じゃあ次、わたし いいかしら 」
「 はい!梅雨ちゃん! 」
「 小学生の頃から決めてたの。" 梅雨入りヒーロー " FROPPY " 」
「 かーわいい! 親しみやすくていいねー! みんなから愛されるお手本のようなネーミングね! 」

フロッピ!フロッピ!!と 謎のフロッピーコールが生まれ、梅雨ちゃんに続くかのようにみんな次々と決めたヒーロー名を発表していく

「 " 剛健ヒーロー 烈怒頼雄斗 "! 」「 " ヒアヒーロー イヤホン=ジャック " 」「 " 触手ヒーロー テンタコル " 」「 " テーピンヒーロー セロファン "! 」「 " 武闘ヒーロー テイルマン " 」「 " 甘味ヒーロー シュガーマン "! 」「 " Pinky "!! 」「 " スタンガンヒーロー チャージズマ "! 」「 " ステルスヒーロー インビジブルガール "!! 」「 " 万物ヒーロー クリエティ " 」

次々と独創的なヒーロー名が出てくる。う、羨ましい……!! わたしもなんかかっこよくて可愛くて(?)親しみ易いヒーロー名を考えたい……!!

「 " ショート " 」
「 え、名前…? それでいいの? 」
「 ああ 」

ここまで独創的なヒーロー名が続いてきたけど、焦凍のソレはなんか意外だったな。てっきり ホワイト&レッド! ( ネーミングセンス ) とかそういう風な名前をつけるかと思っていた…

「 " 漆黒ヒーロー ツクヨミ " 」「 " モギタテヒーロー GREPE JUICE "! 」「 " ふれあいヒーロー アニマ " 」

常闇くんも、峰田くんも、口田くんも、自分によく似合ってるヒーロー名だ。うぅん、本気でどうしよう…

「 " 爆殺王 "!!!! 」
「 違う、そうじゃない 」

爆殺王…! それはイカしすぎだ爆豪くん…

「 あの…… 実は、ずっと決めてました… " ウラビティ " 」

恥ずかしそうにいう麗日さん。ウラビティ…! 可愛い! 自分の個性と名前をかけてるっぽくて可愛い…!

「 ヒーロー名、思ったよりずっとスムーズに進んでるじゃない。残ってるのは 再構の爆豪くんと、飯田くん、蝕喰さん、それに緑谷くんね 」
「 あ、じゃあ次、わたし… 」
「 はい!蝕喰さん! 」
「 えっと、… " ロットヒーロー ヒーロー名 " 」
「 ロットヒーロー… うん、いいじゃない! はい、次! 」
「 " 天哉 " 」
「 飯田も名前!? 」
「 ああ、… 」
「 あ、じゃあ僕…… 」

おずおずと手を挙げた緑谷くんが教卓に立つ。その紙には " デク " と書かれてある

「 緑谷!? 」「 いいのかそれで!? 」「 一生呼ばれ続けるかもしんねえんだぜ!? 」

「 うん、… この呼び名、今まで好きじゃなかった。けど、ある人に意味を変えられて、僕には結構な衝撃で…… 嬉しかったんだ。これが僕の、ヒーロー名です 」





「 さて、全員のヒーロー名が決まったところで、話を職場体験に戻す。期間は1週間。肝心の職場だが、指名があったものは個別にリストを渡すから、その中から自分で選択しろ。指名のなかったものは、あらかじめこっちからオファーした全国の受け入れ可の事務所10件、この中から選んでもらう。それぞれ、活動地域や得意ジャンルが異なる 」
「 例えば、13号なら対敵より 人命救助中心、とかね! 」
「 よく考えて選べよ! 今週末までに提出しろ。以上だ 」

出席番号順に、蝕喰、と相澤先生に名前を呼ばれて紙を受け取る。わたしは体育祭出ていないし、受け入れてくれる事務所があるのかも知らないけど…… ああ、でも、そうだよなあ。エンデヴァーヒーロー事務所一択だよなあ……

「 焦凍、どこか決めた?4000件もあるんじゃ大変だねえ。わたしは 炎司さんの所から指名来てたみたいだし、そこに行くことにしたよ 」
「 俺も… 」
「 へ? 」
「 あいつがどんなやつであれ、No.2と呼ばれてる事実をこの目と身体で体験して、受け止める。…… 認めたくはねえが 実力は本物だ 」
「 …そっか、… じゃあ職場体験、2人で1週間頑張ろうね 」
「 ああ 」