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職業体験3日目、夜
地割れのようなけたたましい轟音が響いた

「 焦凍!名前! 事件だついて来い! お前ら2人にヒーローというものを見せてやる! 」

人が集まる保須の中心部に向かうように足を早めるエンデヴァー。流石ナンバーツーヒーロー。冷静でいて尚且つ迅速な判断だった

わたしと焦凍も追うように走り出したその瞬間、コスチュームに入れていた携帯が振動した

「 緑谷? 」
「 位置情報、だけ……? 」

江向通り4-2-10、
たったそれだけの位置情報。だけど 緑谷くんは理由もなくこんな意味のないメールを送って来るような人じゃない、

「 どう思う…… 」
「 意味なくこういうの送って来る人じゃないからな緑谷くん…… 」
「 焦凍!名前! 携帯じゃなくて俺を見ろ! 」

頭の回転が遅いわたしと違って、頭の回転も速く そしてエンデヴァー譲りの判断力を兼ね備えた焦凍が 踵を返して走り出す

「 どこへ行くんだ焦凍!! 」
「 江向通り4-2-10の細道。そっちが済むか手の空いたプロがいたら応援を頼む。そっちの事件は任せたお前ならすぐ解決できるだろ… 友達が、ピンチかもしれねえ 」
「 焦凍…… 」
「 ごめん、エンデヴァー! わたしも焦凍と一緒に行って来る…ッ! 」

後ろで何か言いたそうしていたエンデヴァーを置いて 先を走る焦凍の背中を追う。江向通り4-2-10、ここから走って数分の所にある路地

「 内容、なんだと思う 」
「 さあな…… 緑谷のことだ、絶対何かあるに決まっている。そういうやつだろ 」
「 そうだけど……ッ 位置情報しか無いってところが気になる 」
「 緊迫した状況にあるってことだッ 」

全速力で保須の街をかける。ああもうこれ着くまでに足パンパンになりそうだなあ…! と、いうより そこにいくまでに巻き込まれた怪我人とかがいなければいいんだけどな……

「 …え、」

思わず走っていた足を止めてしまった、馬鹿みたいにそちら側に吸い寄せられる

「 名前? どうした 」
「 ……焦凍、路地に怪我人見つけたから助けてからそっち向かうね、先行ってて…! 」
「 わかった、気をつけてこいよ 」
「 うん、また後で 」

小さくなった背中を見つめながら、見覚えのある靄が蠢く路地へ一歩、足を踏み入れる。あれは間違いなく この間雄英を襲った敵の個性のワープゲート。あんな特徴的な個性、見間違えるはずが、ない

敵連合。ヒーロー殺しとなんらかの繋がりがあって、ヒーロー殺しを援助している? だとすればこの保須にいることも納得がつく

「 ッ!? 」

待ってました、と言わんばかりに ぶわりとわたしを囲んだ靄。浮遊感が気持ち悪くて思わずぎゅっと目を瞑ってしまう。数秒、もしかしたら一瞬だったのかも。靴の裏がぺたりと地面に着いた

「 蝕喰名前 」

わたしの名前をそう呟いたのは 彼、敵連合の中心核で間違いない 死柄木弔だ。閉じていた瞼を開き、双眸で彼を見つめてしまう

今日も趣味の悪い手形を顔面に引っ付けて、口元だけは愉快そうに歪めて笑った

「 死柄木、弔…… 」
「 そんな睨むなよ、怖えな雄英生 」

どこかの屋上、貯水タンクの上。保須の街がよく見える。所々から火が燃え上がり、大きな音も聞こえる。目を細めてみるとあの日雄英を襲った脳無という化け物が数体見えた

「 なんの つもり…… なんの目的があってわたしをここまで連れてきたの… 」

手足が震えた、
死柄木弔の視線が絡みついて仕方がない。その視線から逃げたいのに、足がすくんで逃げられないのだ

「 お前の個性について 」
「 個性…、」
「 ああ、この前雄英で見せてくれたその個性じゃなくて、もっと良い個性 モってるだろ名前チャン? 」
「 ッ な、… なんで、」
「 触れた相手の個性を奪っちゃって 自分のものにするなんていう個性、羨ましいなァ? 」

喉が渇いた、うまく呼吸ができなくて喉が渇いて空気の音が鳴る。上下の歯がカチカチと噛み合って震える、なんで?

「 お前今、どんな個性が使える? " 先生 " が言うには 結構使えるみたいだよなァ? 知ってるぜ。初めて奪ったのは自分の父親の個性だったってことも 」

『 俺の個性返せクソ餓鬼…ッッ!!! 』

「 昔仲良くしてくれてた友達の個性を間違って奪っちまったことも、… なあ?そうだろ? 」

『 あのね、わたしね、個性が使えなくなっちゃったの…… お医者さんが原因はわからないって言っててね、… それでね 』

「 俺はな、お前の力が欲しいんだ名前。俺たちの仲間になれよ 」

差し出された手、その指が5本触れるとどんな物質も崩壊してしまうという個性

「 生きづれえだろ、お前にとっても 」
「 ッ 」
「 生きやすい世の中に変えてやろうぜ 」

『 名前が苦しまずに生きることのできる世界に俺が変える… お前がもう2度と、悲しまないような世界に俺がする 』

「 ……… こちら側としては そっちの仲間になるメリットが、無い 」
「 そうだなァ。…… じゃあこうしようかァ。お前の大切な轟焦凍には手を出さないと約束しよう 」
「 ならない、って言ったら…? 」
「 今すぐそいつを殺す。黒霧の個性を使えばそんなもん簡単だぜ? あいつの首に俺が触れたらそこからポッキリ折れて終わりだ 」

さあ、どっちを取る? なんて。そんなものわたしに選択肢なんてないんだ。焦凍を殺すわけにはいかない。だって、彼は、わたしの、大切な…

「 約束、守ってくれるの? わたしが、… わたしがあなたの仲間になれば、焦凍には手を出さない…? 」
「 約束するよ 」

至極楽しそうに口を歪めた死柄木弔の掌を握り返した。わたしの手は、崩れ落ちなかった

「 歓迎するよ、名前 」

彼がヒーローになれないのは、ダメなんだ





俺の手を躊躇いもなく握りしめた女の顔を見れば、恐怖に怯えるわけでもなく、悔しそうに顔を歪めるでもなく、無表情だった。

先生の言っていたことは本当だった。コイツは登録してある " 腐蝕 " とはまた別の個性を持っていた。5本指が触れているにも関わらず崩れ落ちない

「 イレイザーヘッドと同じような個性ですか… いえ、無効化でしょうか… 」

黒霧が呟く
おそらく、無効化の類だ

「 持ってる個性は? 」
「 たくさん、最近使ってないからなにがあるのか忘れちゃった。治癒と、テレポート、… 多分わたしが今、あなたの手に触れても崩れ落ちないのは無意識にあなたの個性を封印しているからだと思う 」
「 封印…? 」
「 そう、相澤先生… イレイザーヘッドとは違うけど、似たような個性かな 」
「 ほう 」

順従な餓鬼は嫌いじゃねえ

「 裏切んなよ、名前 」