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結局、エンデヴァーの分析が正解だった

位置情報のみが添付された緑谷くんからのメール。江向通り4-2-10。そこにヒーロー殺しステインが姿を現していたのだ。

自分の感情をコントロールできなくなってしまっていた飯田くんが、職場体験先のヒーロー事務所に無断で交戦。ステインの個性は相手の血を舐め取り動きを封じるというもので、それを把握しきれてなかった彼は殺されそうになっていた。ところで、緑谷くんの応戦。そして焦凍も戦いに加わったとのこと

死柄木との接触後、急いで江向通りに向かえばもうすでに戦いは集結していて、応戦に来ていたプロヒーローが何人もいた。その中にはエンデヴァーもいたわけで、

『 お前はどこで何をしていたんだ 』

なんて目敏く聞かれてしまった。してもいない怪我人の救護、とだけ伝えてその場をなんとか凌いだ

ステインによって腕や足、肩を斬りつけられたその場にいた雄英生3人は 入院。資格未取得者の暴行は立派な規則違反となり、今回のステイン逮捕については、ナンバーツーヒーロー エンデヴァーのお手柄となった。( してもいない事件解決の功績を讃えられる彼の気持ちは如何様なものなんだろうか )

その間にも、焦凍のいない職場体験が黙々と進んだのである





「 名前 」

世間的に、火傷の怪我から ステインを捕まえたのはナンバーツーヒーロー エンデヴァーってことになってた

してもいねえことで功績を讃えられる親父がどんなツラしてんのか気になって退院して職場体験に復帰すれば、妙に懐かしく感じた名前がいた

妙に懐かしく感じた、何故そう感じたかは知らねえが、何処と無く昔のアイツのような気がした。名前を呼んでやればパッと顔を上げて大きな宝石見てえな目で俺を見てくる

「 焦凍…! もう退院できたの? う、腕! 腕 大丈夫だったの? 直そうか? わたしの個性で……! 腕以外に痛いところは!? 痛いところとかないの? あ、ッ… わ、わたし…っ! 」
「 名前……? 」
「 わ、わた、し……ッ もう どうしたらいいかわからなくてッ 」
「 心配かけて悪かった、すまない 」
「 ッわたしがあなたのそばにいたら、あなたはこんな怪我することなかったのに…ッ 」
「 俺が弱えから勝手に怪我したんだ。お前のせいじゃないだろ? 」
「 わたしが側にいたら良かったのに… 」

『 もう二度と、あなたが怪我をして苦しまずに居られるようにわたしがあなたのそばにずっといるから…ッ 』

齢5つにして交わした約束を思い出した。約束、というよりは名前の一方的な誓いに近いが。

「 俺は自分のことは自分で守る。お前のことも俺が守る、そうしよう 」
「 わたしのことまで守らなくていい。…… いずれこの世界を救うヒーローとなるあなたに守られるほどの価値が、わたしにはないんだ 」
「 ………… お前、何を隠してる? 」
「 へ、……… 」

嘘をつく時、必ず右手で左手を触る癖がある。包帯が巻かれた左手を、撫でるように。その傷は昔、俺が顔の火傷をおった時、一緒にできた火傷跡。

「 俺たちがいたところから、江向通りまでの道の間で、怪我人なんて誰もいなかった。警察に怪我人の容体、怪我した場所を問うた。あの区間では誰も怪我人なんてしていなかった。お前はあの路地で、何を見た? 」

保須警察署の署長に、怪我人は無事かと聞いた時、全員無事だと教えてくれた。あの路地で怪我した人も無事だったのかと聞けば、江向通りより西で怪我した人は1人もいなかったと言っていた

「 お前はあの路地で何を見て、嘘までついてどこに行っていた? 」

問い詰めるように聞けばぐらりと名前の瞳が揺れた。俺に嘘までついて、何をしたかった?

「 教えてくれ名前。あの時、俺たちがステインと戦っているとき、何をしていた? 」





わたしの悪い癖だ。

爆豪くんにも言われた。感情がうまくコントロールできなくなったら個性を暴走させてしまう、わたしの悪い癖なんだ

「 それがお前の、答えか? 」

わたしの方へ近づいてくる焦凍を拒むように、ぶわりと体の周りに個性を纏ってしまった。黒い靄。腐蝕の、個性

「 ち、違う…… 」
「 もういい 」
「 違うの、…… 焦凍、」
「 言いたくねえならこれ以上聞かねえ。お前が教えねえって言うなら もういい 」

ひゅ、と喉が渇いた

「 勝手にしろ 」

嫌な汗が額に滲んだ、

「 しょうと 」

未だ怪我が完治してないその腕を掴もうと手を伸ばしたけど 空気を遮っただけだった

あ、また 大切な人を失ってしまった

「 違うの、…… ちがうの、………… 隠してるわけじゃ、ないの 」

隠してるわけじゃないの、言えるわけないの。ヒーローになるあなたのことを守りたいとわたしが勝手にあなたを裏切ってしまっただけだから、言えるわけないの

嫌われたくなんてなかったのに、あなたに

あなたにはヒーローになって欲しかった、だけなのに。

「 どうしてこうなっちゃうの…っ? 」

どうしてわたしは、人並みのレールから外れた人生しか歩めないの? どうしてわたしには 人並みの人生を歩むことが許されないの?

超人社会なんか嫌いだ、どうしてだろう。どうしてわたしは、普通の子になれないんだろう


ねえ神様、

かみさま、どうか、
わたしが人並みの人生から外れることを怒らないでほしい。頑張って生きてる、無理して生きてる。優しい親の元に生まれたかった、ちゃんとした親の元に居たかった、

立派な人間になって、自分を救いたかっただけだった。無理だ、


かみさま、どうか お願い
わたしのこと 許さなくていいから、怒らないで





Against all odds

Chapter one
無理に理由をつけて納得して生きている



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