04
−− 土曜日、午前9時55分
7月も半ば、梅雨が明け 厳しい夏の太陽がじりじりとわたしの顔や腕、皮膚をこんがりと痛みつけてくる季節
夏らしくデコルテ部分がシースルー生地になっているノースリーブを上に、下はスキニー。そしてお気に入りの黒いヒールを履いて駅の改札を抜ければ赤い髪の毛が特徴的な切島くんと、不機嫌そうな爆豪くんが目に入った
目立つなあ、あの2人 ( いろんな意味で )
「 ごめんね、お待たせしました 」
「 おう!はよ蝕喰! 」
「 遅えんだよ 10分前行動心掛けろや 」
「 電車遅延してたの!ごめんね爆豪くん 」
10時集合の9時55分到着は許して欲しい。爆豪くんってこういうところはしっかりしてるんだよなあ、見た目や言動とは反比例して
一方の切島くんは そんな待ってねえし、何時間でも待ってやるのが漢ってもんだ!と眩いくらいの笑顔で言ってくれた ( 切島くん、将来危ない女の人に捕まりませんように )
オラ 行くぞ、と 目的の方向へズカズカと歩き出す爆豪くんを追いかけるように、切島くんと2人で背中を追いかける
雄英襲撃以来だな、この3人
「 蝕喰なんかいつもと雰囲気違うな〜 やっぱ女子ってすげえな、制服を脱げばなんとやらってやつか 」
「 なんとやらが一番気になるけど! 今日は暑いし髪の毛も縛ってるからかなあ 」
薄く化粧もしてるからかなあ? いやなんか焦凍以外の男の子と出かけるのとか初めてだから変に気合い入ってしまった、変かな? 一緒にいて恥ずかしい存在かな!?
「 蝕喰は大人っぽいからなあ 並んで歩くとなんか俺が餓鬼っぽくて恥ずかしいわ 」
「 え〜そう? ていうかわたしだけなんか季節感違ってちょっと面白いんだけど今日暑いよね? 」
切島くんは白いTシャツに、爆豪くんは中に赤い服を着て上は七分まで腕まくりをした黒いシャツを羽織っていた。私服が意外とかっこいい。髑髏とかついた服着てこられたらどうしようかと思った
「 暑いけど蝕喰は夏先取りすぎねえ? 」
「 そっかあ〜 上着持ってくればよかったな 」
まあお昼になれば暑くなるか、
とりあえず今日は名目上の勉強会 ( 切島くん蘇生のための )。わたしもわからない問題を爆豪くんに教えて貰いたいと思い、その勉強会に入れてもらったのである
駅にほど近いファミレスに入り、とりあえずドリンクバーだけを頼んで早速勉強会を始める
メロンソーダ、コーラ、アイスティ
「 まずカスはどの教科のどの範囲がわかんねえのか言え 」
「 ハイ!爆豪!全部です! 」
「 舐めてんのか殺すぞァア゛!? 」
「 いやまじで爆豪、俺なんもわかんねえんだ助けてくれよ 」
「 ッざけんなカスが! 」
「 どうどう 開始1分で喧嘩し始めないで 」
「 腐敗女はどこがわかんねえんだ言えや 」
「 数学の二次関数かなあ。Pに動かれたらたまったもんじゃない… 文系の教科は大丈夫、自信がある得意だから 」
「 文系なんて暗記するだけだろ舐めてんのかそんなん誰でもできるわアホ 」
「 今日は辛辣だなあスパルタか 」
「 蝕喰ィ〜〜! 英語!英語教えてくれ俺に! お前中間の英語学年1位だったろ!? 」
「 英語!いいよ 」
「 おいカス テメェ俺が教え殺したるからさっさとわかんねえとこ言え 」
今にも個性を爆発させそうな爆豪くん、今日の彼は至極短気である
「 数学因数分解からよろしくお願いしやす 」
「 まって切島くんそれ初っ端の範囲 」
「 いやまじでわかんねえんだ頼む 」
「 ッせ! さっさとやんぞカス! 」
「 あ、じゃあ因数分解終わったら切島くんと一緒に二次関数教えて爆豪くん! わたしそれまで生物やってるから 」
−− 午後2時30分
勉強を始めて4時間ほどたった。意外にも(?)切島くんの飲み込みは早くて、12時前にはわたしも爆豪くんに二次関数を教えてもらっていた。教え方がうまかったんだ爆豪くん……!
教え方はうまかったんだけどいささか暴力的であった! 丸めたノートでポカポカと切島くんの頭を叩きながら教え出した時には声が出そうになったし、途中で横通ったウエイトレスさんにめちゃくちゃに冷ややかな目で見られてしまった ( わたしも含めて )
お昼にはハンバーグを3人揃って頼み、英語の単語問題を出しながら食べた
「 じゃあそろそろ英語始めようか 」
「 ッシャス! 」
「 おい腐敗女 関節疑問文教えろや早よしろ 」
「 使い方?目的格とかによって変わるけど 」
「 関節疑問文〜〜? 目的格〜〜?? もっと簡単なところから頼む蝕喰 」
「 うう゛ん…… 爆豪くんちょっと待って、切島くんが結構手遅れだから 」
仮にも一般入試で雄英に入った子だ、頭はいいはず。頭は、… 中学までの範囲は大丈夫なはず、きっと、多分……
「 うん、じゃあどこから始めようかなあ。まだ1年の1学期末だしそんな難しい問題でないと思うの。だから基礎からちゃんと始めようね 」
にっこりと笑えば顔を引きつらせてお化けでも見たかのような顔をし出した切島くん。やるからには本気だからねわたし
◇
「 ッ〜〜! 爆豪!蝕喰! 今日は俺のためにありがとな! いいダチを持ったぜ俺は! 」
午後8時
とても長い時間ファミレスに居座って怒られるかと思っていたけど、体育祭で顔が割れてる2人を応援してくれるお客さんが多かったのでなんとか追い出されずにすんだ
夜ご飯もファミレスで食べて、何時間かぶりに外へ出れば肌寒い風が肩を撫でた
「 長い時間お疲れ様、切島くん。教えたところ出るといいなあ。ちゃんといい点とってね 」
「 お、おう! 」
「 赤点なったら殺す!! 」
「 お、… おう…!!任せとけ! 」
来た道を帰り、駅まで。10分ほど歩いたところにある。目と鼻の先だ
少し強い風が身体を冷やして仕方がない。やっぱり夜は冷え込むから上着を持ってくるべきだったかなあ
「 ンなカッコしてっからだアホ 」
「 へ? 」
腕をさすって歩いていれば ふわりと何か布が肩にかけられた。触り心地のいい、高価そうな生地
「 爆豪!! 漢だ…!! 」
「 ッせえ!黙れカス!! 」
爆豪くんが着ていた黒いシャツ、ふんわりと柔軟剤のいい匂いが鼻を掠めた
「 貸してくれるの? 」
「 ンな肩出して腕さすって歩いてたらこっちが寒くなんだよ いいから黙ってそれ着て帰れや殺すぞ 」
「 ありがとう! 」
羽織るよりも着る方が100万倍あったかいであろうと思い袖に腕を通したがやはり少し大きい。彼が腕まくりをして七分の長さになっていた袖は、わたしだと指先が少し隠れるくらいで。そもそも肩の位置があっていないのである
「 爆豪くんってモテそうだね 」
「 ハ? 」
「 爆豪は性格がだめだろ。それこそクラスで言えば轟の方がモテんだろ 」
「 舐めプ野郎に負けんのは気に食わねえ 」
「 あ〜 あの人は、…… 」
焦凍は昔からそうだったから、なによりもわたしを優先してくれた人だからあれはもう無意識というか
「 … そういう風に育って来た人だから 」
ずっと一緒にいて、喧嘩したことなんて一回もなかったのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう
「 …… 蝕喰、お前と轟の間で何があったのか知らねえけどよ、… 早く仲直りできるといいな 」
「 切島くん…… うん、そうだね。心配かけてごめんね、ありがとう 」
焦凍は何も悪くないんだ。全部わたしが、悪いのだけれども
「 おっ、じゃあ俺はこっちの路線だから。今日はマジでありがとな! 爆豪、蝕喰! 」
「 またね切島くん 」
「 さっさと帰れ 」
「 オウ! 爆豪、蝕喰のことちゃんと送ってやれよ遅くなっちまったから! 」
背を向けて去っていく切島くんに手を振り、わたしと爆豪くんも電車に乗り込む。帰宅時間も過ぎた頃で、2人が座ることのできる空間はいくつもあった
「 どこで降りんだ 」
「 こっから5駅のところ。そこから乗り換え。爆豪くんは? 」
「 テメェの家まで送ってやる 」
「 へ? 」
「 家まで送ってやるっつってんだよ 」
「 ええ わりと遠いけど…! それに爆豪くんだって遅くなったら 」
「 ウルセェ 黙って送られろ 」
「 んグッ! 」
唇をむぎゅっと捕まれ思わず変な声が出てしまった。わたしのそんな顔を見てふっと気の抜けた笑い声を漏らしてくる。あ、今の顔かっこいいなあ
「 ありがと、爆豪くん 」
揺れる電車の中、彼の肩に頭を置いて、彼の着ていたシャツに包まれながらなんとも言えない ふわふわとした時間だけが過ぎる
「 爆豪くん、」
「 ……なんだ 」
「 爆豪くんに、自分の命に代えても守りたいと思う大切な人ができたとしてね。もし、その人が自分と敵対する組織に人質に取られたとして、…… 人質を助けたかったらヒーロー活動をやめる、ヒーロー活動を続けるのであれば人質を殺す、とでも言われたりしたら 爆豪くんはどうする? 」
「 脈絡のねえ話 」
「 う〜ん、ヒーローを目指す上でありそうな展開じゃない? ヒーローである以上、誰かからは憧れたり羨望されたりする存在である一方で、誰かからは憎まれたりするんだよね 」
「 …… 」
「 全人類から愛されるヒーローがいたとしたら、ヒーローなんて必要ないと思わない? わたしはオールマイトみたいになりたいと思ってた、オールマイトが憧れだった。でも、USJでの襲撃や、ヒーロー殺しのような思想に触れて、現実を知った。誰もがオールマイトに憧れてるわけじゃないんだなあ、って…… 爆豪くんが、ナンバーワンヒーローになったとして、もしそういうことが起こったら どうする、 」
「 ……… 」
「 大切な人を守るために自分の人生とその他大勢の平和を終わらせる? それとも、その他大勢のために大切な人を見捨てる? 」
「 …… テメェがなにを言いたいのか知らねえが 俺はヒーローも辞めねえしその大切な人も殺させねえ。どっちも自分の力で守りきる 」
「 …… かっこいい〜! 爆豪くん、そういうところ本当にかっこいい、いいなあ羨ましい、強くて…… いいなあ、… 」
いいなあ、強くて、いいなあ、…… わたしは2つを守れない、… 大切な人を守るには自分が犠牲になるしかないと思った、だからあの手を掴んだ、
わたしが爆豪くんみたいに、強かったら…
嗚呼、でもわたし、爆豪くんじゃないから
「 爆豪くんはずっと、かっこいい爆豪くんのままでいてね 」
なにがあっても、そのままのあなたでいて欲しいと願ってしまうの、
≪ ◇ ≫