09


「 キミは弔と一緒に、次のボクになるんだ 」

そう、先生に言われたのは テスト明けの週末のことだった

「 は、…… どういうことですか? 」
「 そのまんまの意味さ。キミはね、世界を変える力があるんだよ。自覚した方がいい 」
「 世界を変える力…? それは、わたしのこの個性があるからってことですか? 」

嗚呼、ここに来たのは間違いだった、こんなくだらない話を聞くためにここに来たわけではないのに、

クラスのみんなは木椰区にある大きなショッピングモールに林間合宿の買い物へ。いいなあ、なんて思いながら、バーへ足を運べばわたしを呼び出した張本人が不在。いたのは、ちょっと変わった女の子と、男の人と、黒霧の3人だけだった

トガヒミコ、と 荼毘 と名乗ったその人らは新しい敵連合のメンバーだとか。

わたしを呼び出した張本人の死柄木がいないという事は如何なものなんだろうか… わたしもこんなところに時間を割いている暇なんてないのに

そう思い、踵を返したところで 死柄木からではなく、先生からの呼び出しが入ったのだった

「 君のその個性はとても価値のある個性だ、誇っていい。何万もの没個性とは価値が違うんだよ 」

先生はわたしに会うたびに必ずそう言った。没個性とは価値が違う、もっと誇れ、君のその個性があれば世界を変えられる

その言葉がわたしの身体をじわりじわりと蝕んでいくのだ。わたし自身には何も価値がないのだと、知るのだ

「 個性だけで価値を決められたくない、わたしはわたし自身に価値を見出したいッ 」
「 素晴らしい個性を持っている君は素晴らしいじゃないか 」
「 わ、わたしは 個性の付属品じゃない… 」

嗚呼、怖い、この人が堪らなく怖い

何を考えているのかわたしなんかには到底分かり得ないのだ。不気味な見た目がより一層不可思議さを増している

感情に任せて、先生に反撃すれば わたしたちの間にはなんともいえない沈黙が流れた

「 そのうち君もわかるさ、自分の個性の素晴らしさを…… そして、弔のことをしっかりと支えるんだよ、君が。僕ももう長くはないさ。僕がいなくなる前に、君を探すことができて本当に良かった 」
「 わたしはあなたみたいにはならない 」
「 それは君が決めることじゃないね。弔が決めることさ。でもきっと、弔は君のことを求めるだろうね 」
「 死柄木がわたしのことを求めるかどうかは別にどうでもいい… でもわたしは、あなたみたいにはなりたくないッ 」
「 子供だねえ君は 」
「 ッ帰ります、」

それ以上、この人の言葉に耳を傾けたくなくて 逃げるように踵を返して消えようとすれば 先生に手首を掴まれ阻止された。そして手を振り払う前にぶわりと身体の中に個性が入って来るのを感じた

「 な、んで……ッ? 」

個性を取り入れた反動で身体が一気に重くなり、呼吸するのさえ困難だ、

脂汗が額に滲んで、息が苦しい

「 ッ… は、……… なんの、個性…? 」
「 未来は変わらない、君自身のその目で未来を確かめるといいさ。その為の、個性だよ 」
「 ッ離して…!! 」

ああ、やだ、無理だ、この個性は身体に合わない、身体が重たい、息ができない、身体が燃えるように熱い、… 死んじゃう、助けて、……





「 お母さん、」
「 焦凍…! 今日も来てくれたのね 」
「 ああ 」
「 名前ちゃんは…? 」
「 …… 」
「 まだ喧嘩しているの? 本当に 2人とも頑固なんだから 」

休日はお母さんの見舞いに、

体育祭以降、自分なりのけじめを付けた。母はあっさり俺を許してくれ、そして 応援すると言ってくれた

「 名前ちゃんも焦凍も、お互い悪いと思っててもなかなか素直に謝れないのよね 」
「 別に… 」

クスクスと口元に手を当て、上品に笑う

俺の右半分はこの人でできている、
容姿も、個性も、この人で出来ている

「 そういえばテストはどうだったの? 」
「 問題無かったよ。筆記も実技も 」
「 そう、凄いわね焦凍は 」
「 … 普通だろ 」
「 ふふふ 照れなくていいのに 」

照れ隠しに、下のコンビニで買って来たいちごミルクを勢いよく喉に流し込む

お母さんと、こうやってまた 話せる日が来るとは思ってなかったから。遠回りはしたけど、また やり直せる、そう思った

「 夏休み、1週間の林間合宿があんだ。個性の強化が目的の、強化合宿。だから1週間は見舞いにはこれねえ 」
「 頑張ってらっしゃい 」
「 ああ… 」

お母さんを傷つけるヒーローになんかなりたくない、昔憧れた オールマイトのようなヒーローに俺はなりたい。オールマイトのようなヒーローになって、それで お母さんみたいに辛い思いをしている人を助けたい、

名前が生きづらいこの世界を、俺が少しでも変えてやりたい

「 お母さん、」
「 なあに? 」
「 次はちゃんと、名前と2人でくるよ 」

どんな個性の持ち主でも住みやすい、

「 ふふ、うん。名前ちゃんと2人でくるの、待ってるわね 」

そんな世界に変えることができたら、…