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−− 夏休み 3日目

夏の醍醐味、花火大会が街を賑わせていた

かく言うわたしも、浴衣を着、下駄を履いて、髪の毛を纏め結い上げ華の簪をさし、着物に合うようなメイクをバッチリとして フル装備で待ち合わせ場所へと向かっていた

下駄の鼻緒が痛いなあ、首の後ろがスースーしてなんだか心許ないなあ…

揺れる電車の中、浴衣を着た人たちが圧倒的に多い。女の子同士だったり、カップルだったり…… みんな幸せそうに笑う

3駅ほど電車に揺られ、乗り換えのために降りる。乗り換え前に響香ちゃんと合流するのだ。彼女は紺色の着物を着るって言ってたし、可愛いしすぐ見つかるかな?

「 お、1人? 美人だねえ 高校生? 俺らと一緒に花火見ねえ? 友達も一緒でいいからさ 」
「 わっ… ちょ、やだ 離して 」
「 いいじゃん、名前なんていうの? 」
「 ちょっっと、…ッ 」

男3人組に囲まれ、肩を抱き寄せられる。いやわたしの話聞けよ… すぐ近くまで寄ってくる顔が気持ち悪くてゾワゾワと鳥肌が立つ

どうしよう、個性使って脅す? そもそも友達も一緒でいいよってなんなのその上から目線… 自分の顔見てから出直して来なよ…! こちとら毎日面が良い轟焦凍を見ているせいで目が肥えてしまっているのだ、それ相当の顔じゃないとナンパにも靡かないよって

「 あの、待ち合わせに遅れちゃうので 本当に離して貰えませんか? 」
「 じゃ、俺たちもそこまで行くから一緒に花火見よう?な? 」

な?じゃないんだわ、…… 響香ちゃんのイヤホンジャックで目潰ししてくれないかな…!? いやでも他人に迷惑かけるわけにもいかないしなあ…

焦凍といたからナンパされることなんてなかったし、対処法がわからないなあ

「 ちょっ、と… いい加減に離 」
「 オイ 邪魔だクソ どけやモブが 」
「 ァあ!? 」
「 ばくご、くん…! 」
「 邪魔だっつってんだろうが どけや 」
「 コイツ…! 雄英の爆豪勝己じゃねえか!? 」
「 ! 連れ、連れですわたしの!!! だからこの手離してください!さよなら! 」

爆豪くんに気を取られて手が緩んだ一瞬の隙に振りほどき、逆にわたしが爆豪くんの手を握って走り出す

助かった…!

「 ありがとう、爆豪くん、助かりました 」
「 ナンパされてんじゃねえよクソが 」
「 え、え〜〜 いやあれは向こうが勝手に… ていうかアレ?切島くんと上鳴くんは? 」
「 知らねえ 」
「 もう最寄りまで行ってるのかなあ? あ、わたし響香ちゃんと…って うわ、」

" なんか上鳴と切島きたから先行くわ。爆豪といるんでしょ?後でね〜〜 " と、響香ちゃんから連絡が入っていた

え、なんで…!?

確かに今日、わたしと響香ちゃんと、爆豪くん、切島くん、上鳴くんの5人で花火大会に行く予定ではあった。そもそもは上鳴くんと響香ちゃんが花火に行きたいと話しててそれに切島くんがのっかり、半ば強制的にわたしと爆豪くんは追加されたみたいなもんで

最初から3人で行けばよかったじゃん…!(?)

「 ……なんか3人とも先に行っちゃったみたいなんだけど、… わたしらも行こうか 」

以前、不機嫌そうな顔をして ポケットにと突っ込んでズカズカと歩く爆豪くん

花火大会に行く人たちで溢れかえるホーム。人の流れに身を任せていれば爆豪くんと離れ離れになりそうになってしまう…! この中で離れ離れになると多分もう2度と会えないな…?

ていうか爆豪くん、そろそろキレ出しそう…! この人の多さもそうだしチンタラ列が動くのもそうだし……

「 オイ 」
「 っ!はい! 」
「 テメェ花火見てえか? 」
「 え、… いや見たい見たくないの感情じゃないなあ 半ば無理やりの参加だったし 」
「 にしては粧し込んでんじゃねぇか 」
「 どうせ花火見るなら浴衣の方がなんかそれっぽくない…!? え、なに? 帰る? 」
「 人がクソ多い中電車乗ってられっか 」

" 来い、" そう言ってわたしの手を掴んだ爆豪くんは 人の流れを遮るようにUターンし始めた

「 え、…!? まって、どこ行くの…! 」
「 会場なんか行かんくても花火くらいどっからでも見れんだろ、アホ共に連絡入れとけ 」





「 うわあ、こっち穴場だねえ 」

爆豪くんに連れられて河川敷に来れば、決して人が少ないわけではないが、会場ほどではないくらいの人がパラパラといた。10組中10組がカップルなのだが、

大きな音を立てて打ち上がる花火、
天に舞い上がれば直ぐに儚く散っていく

「 … 」

爆豪くんが淡々と花火を見てるの、なんかちょっと面白いけど…

今日の花火は1時間もの。わたしたちが移動してる時にすでに音がしていたからあと30分くらいかなあ、なんて

花模様の花火、動物の絵柄の花火、リボンだったりハートだったり星だったり…、いろんな花火が次々に音を立て、煙を上げて打ち上がる

「 きれい…… 」

なんか、爆豪くんの個性みたいだなあ

「 あっという間に夏休みに入ったね。林間合宿に行けばあっという間に夏休みも終わるし、夏休みが終われば学校祭だってあるし… 高校生活ってあっという間だなあ 」
「 ババアかよ 」
「 時の流れ早くない…? ほんとに、やらないといけないことたくさんあるじゃん…! ヒーローになるなら高卒でしょう? 遊べるのって今しかないんだなあって……。こうやって、爆豪くんと花火を観ることももうないんだろうなあって 」
「 花火くらいいつでも観れンだろ 」
「 いやいや、絶対有名プロヒーローになるでしょう爆豪くん? そんな爆豪くんとこうやって花火見れんのは今しかないって… 忙しいし、有名人だし、…… 」
「 意味わかんねえ 」

ああ、でもそうしたら 焦凍とも一緒に出かけることも出来なくなるのかなあ。百ちゃんとも、響香ちゃんとも、三奈ちゃんとも…… クラスのみんなと気軽に会えなくなるの、かなあ

「 テメェもヒーローになんだろ 」
「 ふふ そうだねえ 」

ヒーローになる、かあ

爆豪くんはそうやって簡単に言うけど、不思議なことにこの世界は " 普通 " じゃない人間のことを許してくれる世界ではなくて、

「 爆豪くん、」

あなたがプロヒーローとして活躍してる未来が、何故だか鮮明に映像が浮かんだんだ

ナンバーワンヒーローとして、幾つもの事件を解決して、たくさんの人を助ける、そんな未来がみえたんだ

「 わたしがどうしようもない女になってたら、爆豪くんが迎えに来てくれる? 」

空高く打ち上がる花火のあまりの綺麗さに、頭がおかしくなっちゃっただけだよ、だから 気にしないで、

「 蝕喰、」

時が、止まった、

初めて、彼に名前を呼ばれた

口から言葉が溢れるよりも前に、きゅっとわたしの胸が高鳴った

ラストと言わんばかりの花火が次々に、休む暇なく空高く打ち上がる

ドンドン、打ち上げ場所から距離があるとはいえ大きな音が耳に届くのに、… わたしの名前を呼ぶその声は、魔法にかかったみたいにわたしの耳に届いた

まるで、この世界にはわたしと彼の2人きりのような、そんな静けさが襲った、

そんなわけ、ないのに

「 しょうがねえから 迎えに行ってやる 」

今までのどの花火よりも、高く高く天まで打ち上がった大きな花火が 音を立てて空いっぱいに華を咲かせた、

その音が堪らなく切なかった

永遠なんてないことくらい、分かってた

いつかこの瞬間に、この時間に 終わりが来るのだと 知っていた、分かっていた

それが、今だということも、

「 あなたのことを、」

だけどわたしは、この時間が永遠に続けばいいのになんて、思ってしまったんだ

嗚呼、やだ、わたし、

「 好きに、なってしまうかもしれない 」