02


「 う、わあ… 大きいね 」

1-Aと書かれた教室の扉が大きく立ち聳える。少しだけ狼狽えるけれど 涼しい顔で焦凍が中に入っていくものだから、半ば追うようにわたしもなかへ急ぐ

机と椅子が丁寧に整頓されていて 黒板に張り出されてある座席表に目を通し、指定された椅子へ腰を下ろす

偶然にも、隣の席は焦凍で。知らない人がいきなり隣にいるよりは安心してしまう

このクラスの人たちはどんな個性を持っているのだろう、…… 一般入試倍率は驚異の300超え。そんな超難関を突破してきた彼らは 一体どんな個性を持っているのだろうか。超パワー?異形型?派手な個性?

なんて考えていれば いつの間にやら担任の先生が教卓に立っていた。立っていた、というよりも黄色い寝袋に包まって至極怠そうにそこに居た、という表現の方が正しいかも

「 担任の相澤消太だ、よろしくね。早速だが 体操服を着てグラウンドに出ろ 」

担任の相澤です、と名乗ったその男は 先ほどまで自分が入っていた黄色い寝袋から体操服を取り出して真っ赤な目を怠そうに開いてそう言った

入学式やガイダンス、その他諸々全てのことをぶっ飛ばしてわたしたちヒーロー科A組はグラウンドへ召集される。自由か!なんて思いつつも、紺を基調とした体操服に着替え、そして急いでグラウンドへ向かう

そして相澤先生は " 個性把握テストを行う " と、これまた怠そうに言った

「 入学式は!?ガイダンスは!? 」
「 ヒーローになるなら そんな悠長な行事出る時間ないよ 」

雄英は " 自由 " な校風が売り文句、そしてそれは " 先生側 " も然り。だけども流石に入学式くらいは出させてくれても良かったのでは…?と悶々としたところで、相澤消太という人物のことを思い出した

入学するにあたって、雄英のヒーロー科の実績はここ10年分は洗いざらい調べた。この相澤消太先生は去年、ヒーロー科をまるまるひとクラス全員除籍しただとか。まるで鬼のような人である

個性把握テストの種目は8つ、
ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走に持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、そして長座体前屈

内容はいたって普通だけど 忘れてはいけないのはここがどこかということ。雄英高校 −−しかもその中でもトップクラスの学科、ヒーロー科である。普通に測定するわけがない

「 爆豪 」

個性をいかに駆使して いかに記録を伸ばすか、それが問われるのが 雄英だ

「 中学の時 ソフトボール投げ何メートルだった? 」
「 67メートル 」
「 じゃあ " 個性 " 使ってやってみろよ。円から出なきゃ何してもいい。早よ 」

爆豪、と呼ばれた男の子は相澤先生からボールを受け取って円の中に入る。そして肩を十分に慣らしてから思いっきり振りかぶった

「 死ねえ!!! 」

ヒーロー志望であるまじき掛け声とともに、

「 ふふ 」

みんなが呆気にとられる中、死ねの掛け声があまりにも面白くてツボに入って笑ってしまう。そして焦凍に横っ腹を殴られてしまった

場違いな笑いを止めて、彼が投げたボールの行方を追う。投げる際に、個性である爆発の爆風を利用したのか、落ちることを知らずにボールは飛距離をみるみる伸ばす

「 まず自分の " 最大限 " を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段 」

" 705.2 " そう書かれた端末を見て 思わず感嘆の声が漏れた。個性を使用しないと使用するでこの差、十倍以上。投げた本人は 満足そうに笑みを浮かべていた。そして周りは 中学までは個性の使用を校内では禁止されていたこともあり 個性の使用可について大いに盛り上がる

「 なんだこれ!すげー面白そう! 」「 705ってまじかよ 」「 個性を思いっきり使えるんだ!さすがヒーロー科! 」

各々思ったことをすぐ口に出す。筋力増強型やパワー型にとっては 喜ばしいことかもしれないけど、腐蝕のわたしにはあまり関係ないかな

「 面白そう、か 」

盛り上がる一部の人を見て 相澤先生は鋭い眼光をしてそう呟く。あ、これ不味い感じでは?

「 ヒーローになる為の3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるつもりかい?よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう 」
「 はああああ!?!?!? 」

「 生徒の如何は先生の " 自由 " 。ようこそ、これが 雄英高校ヒーロー科だ 」

些か自由すぎるなこの人。除籍処分と言って相澤先生は至極楽しそうに笑う。なるほど、流石は除籍処分大好き人間 ( わたし命名 )。やることが何歩も先を行く

入学初日から除籍だなんてたまったものじゃない

ここに居る推薦組2名と特待生のわたしを除いた残り18名は、倍率300倍をも潜り抜け、僅か36の枠を死ぬ気で奪い合って勝ち抜いてきた。にも関わらず 入学式に出ることすらも許されず初日から除籍処分宣言

「 " plus ultra " 全力で乗り越えて来い 」





1種目目 : 50メートル走

出席番号19番 峰田実
出席番号20番 蝕喰名前

「 お、おっぱい…… 」
「 おっぱい? 」
「 体操服越しにでもわかる良い形、それでいて巨乳すぎず貧乳すぎずのおっぱい!!! 」
「 え…… 」
「 サイコーだぜ雄英!!! 」
「 助けて!? 」

頭に紫色のボールのようなものをいくつも付けた背の低い男の子が、わたしの胸を見るなり饒舌に語り出す。グッ、と親指を立ててわたしの方へ向くのだ

個性把握テストは全員が見てる中で行われるものであるから、当然、クラスの人たちに聞かれてしまっている。顔を赤くするものや、同じく親指を立てるもの、女子に至っては サイテー!と野次を飛ばし始める始末

ああ、どうしよう穴があったら入りたい。どうして初日でこんな恥ずかしい仕打ちを受けなきゃならないの……!

とりあえず 動揺をなんとか隠しながらクラウチングスタートの姿勢を取り、スタートの合図とともに全速力で駆ける。個性を使わずとも足には少々自身がある。まあ自信があると言っても6秒そこそこの記録だけど。そんな記録 ここではなんも関係ない、だって3秒台だっていたし

「 蝕喰、6.89秒 」
「 ッはあ、… はあ…… 7秒弱… 」

去年の方がもう少しだけ早かった…、なんて、己の弱体化を身を以て痛感してしまった

みんなの方へ戻ると、数人の女子にぎゅうぎゅうに抱きしめられた。どさくさに紛れて誰か女の子に揉まれた! 距離感が近い……


2種目目 : 握力

「 ふんヌッ 」
「 わ、蝕喰さん41kgですわ 」

一般女子 ( 個性未使用 ) の中では 所謂 " 怪力 " やら " ゴリラ " やらと呼ばれる部類に入ると自負している、けど これもやっぱりここではなんてこともない記録である。わたしの測定をしてくれた八百万さんだってその " 創造 " という個性を活かして測定していたし、それにとなりで " 540kg!? " なんていう末恐ろしい数字が聞こえてきたし…


3種目目 立ち幅跳び、そして 4種目目 反復横跳び、5種目目 ソフトボール投げ、そして残りの持久走と長座体前屈を 終えて全ての種目を終了した

ぴ、とその場に映し出された投影に自分の名前を見つける、特にこれという結果を出していなかったけど どの種目でもビリではない順位をキープしていたのにも関わらず、総合14位という どうしようもなく低い順位を叩きつけられた。わたしの個性は直接攻撃向きじゃないし、なあ…… なんて思いながら焦凍の順位を見ると 2位。流石である

ちなみに、除籍は嘘な、なんていう。わたし的には むしろそっちが冗談でしょ?と思った言葉が相澤先生から溢れる。除籍するのが大好きな相澤先生が 除籍を撤回…?

ふと最下位の名前を見る。緑谷出久くん。ソフトボールの結果だけが突出してた、男の子だ。でも自分の個性を上手に扱えてないみたいで、指を酷く痛めていた

相澤先生はそんな彼に何かを見出したとでも? 彼には何かがあるの、?

うんうんと唸りながら 教室まで帰り、本日の活動は終了となった

更衣室で体操服から制服に着替えて靴箱まで。携帯を弄って壁によしかかる焦凍の姿が。別に帰る約束とかはしていなかったけど「 ごめんねお待たせ 」と言えば「 構わない、」なんて男前のセリフ

「 びっくりしたね、入学式すっ飛ばして個性把握テストなんて…… 2位、おめでとう 」
「 2位ぐらいで喜んでらんねえよ 」
「 ふふ そうだね。もっと上を目指してプルスウルトラ、だもんね 」

なんてヘラヘラしながら朝と同じように肩を並べて帰った