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−− 2日目 AM5:30

「 おはよう諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は 全員の強化、及び それによる仮免取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かうための準備だ。心して望むように 」

眠い目をこすりながらA組全員は 合宿所の外へ集まった。担任の、相澤先生だけはいつもと変わらず怠そうな目で立っていた

「 と いうわけで爆豪。ソイツを投げてみろ 」
「 これ、体力テストの 」
「 前回の入学直後の記録は705.2M。どんだけ伸びてるかな 」
「 おー! 成長具合か! 」
「 この3ヶ月、いろいろ濃かったからなあ。1キロとか行くんじゃねえの!? 」
「 いったれ爆豪〜〜!! 」

ボールを渡されて型の準備をし始める爆豪くん。死ね!ていってまた投げたりするのかなあ 過激だなあ

でも実際、この3ヶ月でどれだけ個性の使い方を学んだのか、成長具合は気になるところでもある。なにより彼は、うちのクラスではトップクラスの人材だからなあ

「 んじゃあ… よっこらくたばれやァ!! 」

くたばれ…… 死ねじゃなかった

投げた張本人はドヤ顔。どんどん遠くまで行く球は次第に視界から消え、相澤先生の端末が震えた

「 709.6M 」「 な!? 」「 あれ、… 思ったより… 」「 4メートルしか伸びてないなんて… 」

「 入学から3ヵ月、様々な経験を経て確かに君らは成長している。だがそれはあくまで精神面や技術面、あとは多少体力的成長がメインで、個性そのものは今見た通りでそこまで成長していない。だから今日から君らの個性を伸ばす。死ぬほどキツいがくれぐれも死なないように 」

これ死ぬやつでは……?
全員の背中に冷や汗が流れたところで、本格的な林間合宿が幕を開けた

楽しい楽しい、林間合宿だ


−− PM14:45

あちらこちらで生々しい音が聞こえる、

爆発、岩の削る音、阿鼻叫喚と言ったところだ

かく言うわたしも、自分の個性のせいで右腕がもう使い物にならない。痺れてしまってどうしようもないし、空気に当たっているだけで痙攣が止まらない。ああ もうやだなあ。強くなりたいなあ

個性の強化が目的である今回の林間合宿。2日目からは本格的に個性を伸ばすための特訓が始まったのだ

『 21人いれば21通りの個性があるのは当たり前だ。個人個人、自分の個性と対話し、個性の強化に努めるように。』

あの後、相澤先生によってそれぞれの個性の強化の仕方を教わった。個人個人で個性の強化を図る。中には、お互いの個性で自分の個性を高めあってる人もいるが、

わたしの課題は 自分の個性に耐えうる身体を作ること。反動で自分の身体まで腐らせてしまわないこと、個性の耐性をつけること。耐性をつけるといっても、自分の腕を腐らせたからといって何が起こるって言うわけでもないんだけどなあ。ただ一時的に痛みや痺れを帯びるだけであって……

ヒーローになるためには自分の個性に負けてしまっていたらダメなのか。

「 ヒーローになりたいなあ 」





「 さあ! 昨日言ったね! 世話を焼くのは今日だけって! 」
「 己で食う飯くらい己で作れ〜〜! 」

夕焼けが辺り一面を照らし、カラスが泣く午後5時半。ボロッボロのヒーロー科1年生41名は全員、返事をする気力すらない

「 きゃっはは!! だからって雑なねこまんまは作っちゃダメね! 」

こんな疲れ果てた状態の自分たちでご飯を作るって鬼なのでは… しかもカレー…… 定番かよ… しかも雑なねこまんまは作っちゃいけない…? 無理、包丁持ったら自分の指、ソーセージか何かと間違って間違いなく切っちゃう…

「 確かに! 災害時など避難先で消耗した人々の腹も心も満たすのも救助の一環…! さすが雄英… ムダがない! 世界一うまいカレーを作るぞ!! 」
「「 おおー、…… 」」

「 飯田くん、チョロ男かて… 」

やる気満々の飯田くんを筆頭に、まずはみんなで火を起こす。マッチマッチ… ああ 確かピクシーボブたちが用意してくれたものの中にマッチがあったはず……

「 轟ー! こっちにも火ィちょうだあい 」

アッ そうだね… マッチで細々と火を起こすより焦凍くんに火を起こしてもらったほうが効率が良かったね… 速かったね……

「 爆豪! 爆発で火ィ作れねえ? 」「 っつけれるわクソが! 」BOOOM!!「 つけれてねえじゃん… 」「 ッせぇ! 」「 みなさん! 人の手を煩わせてばかりじゃ、火の起こし方も学べませんわ! 」「 ええ…… 」「 自分の体内でライターを創造しながら言うセリフじゃないよね百ちゃん 」「 いや、いいよ… 」「 もっえろ〜もっえろ〜〜! 燃やし尽くせ〜〜! 」「 つくしたらアカンよ… 」

わちゃわちゃと、全員で火を起こす。起こし終えたらここで何グループかに分かれる。材料を切る係、火を見ながら調節する係、飯盒でご飯を炊く係、…… エトセトラ エトセトラ

「 おい名前、うまく切れねえ 」
「 ちょっと焦凍、包丁持つときは猫の手だよって昔から言ってるよね? 」
「 ?こうか?? 」
「 誰が猫ポーズしろなんて言った……? 」

鷲掴みにしながら危なっかしい手つきで人参を切る焦凍。猫の手にしろとあれほど言ってるのに… こうか?なんていって可愛らしく両手を丸めたけど 天然すぎである。誰が猫ポーズしろなんて言った

「 轟って料理できないの以外〜〜! 」
「 家ではやらねぇからな… 」
「 食えりゃいいみたいな思考の人にご飯預けてられないもん… 」

その昔、わたしと焦凍と冷さんの3人で台所に立ったことがあった。その時の焦凍の包丁捌きと云えば、今思い出しただけでも鳥肌が立ってしまう。

「 もう、焦凍がいたら倍の時間かかっちゃう。緑谷くんがいる火の係りの方に行って! それか力仕事! 」
「 … わりぃ 」

しゅん、と肩を落として釜戸の方へ向かう焦凍の後ろ姿が小さくて少し面白い

ゴロゴロと不揃いに切れた人参、まあこれはこれで煮込めば柔らかくなるし味に損害はないし…… 入れちゃえ

残りのジャガイモと玉ねぎ、早く切っちゃわないとご飯が先に炊けてしまうよ

「 名前手伝うよ 」
「 響香ちゃん! ありがとう〜! このゴロゴロした人参は気にしないで、そのまま入れる。残りの人参と玉ねぎはわたしが切るから、ジャガイモの皮むいて切ってもらってもいーい? 」
「 了解 」





「「 いっただっきまーす! 」」

「 店とかで出したら微妙かもしれねえけど、この状況も相まってうめえ!! 」
「 言うな言うな! 野暮だな! 」

6人テーブルには わたしと響香ちゃん、百ちゃんの女子3人に、切島くん瀬呂くん、上鳴くんの男子3人が座っている。目の前でがっつく瀬呂くんと切島くんと、以外にも百ちゃんも

「 やおももがっつくねぇ! 」
「 えぇ、わたしの個性は脂質を様々な原子に変換して作るので たくさん蓄えるほどたくさん出せるんです 」

ドヤ、と可愛らしく言う百ちゃんに対して瀬呂くんが「 うんこみてえ 」なんてカレーを食べてる時にあるまじきことを言う。( カレーじゃなくても食事中なので遠慮していただきたいけど ) 落ち込む百ちゃんの背中をさすりつつ、瀬呂くんの方を見れば「 謝れ!!! 」「 すいませっっっん 」と響香ちゃんのフルスイングを一身に受けてた。反省してほしい

「 お、この人参、花柄じゃん!! こんなん切ったやつ器用かよ! 」
「 あ、それわたしが1個だけ切ったの! ラッキーだね上鳴くん。いい事あるかもよ 」

「 まじか!!! うめえ〜〜! 蝕喰!この人参うめえよ! 」と、意味わからないところで感激する上鳴くん。多分焦凍が切ったゴロゴロした人参と味は変わらないよ!

洋服に飛ばないように、綺麗にカレーをたいらげると 身体が少しだけ重たくなった。食べ過ぎた…!

途中、切島くんと瀬呂くんにドン引きされるスピードでカレーを食べてしまったのはちょっとだけ恥ずかしかったかも…

「 蝕喰って割と大食いなんだな… 」
「 割とって言うか結構食ってたよな? 」
「 いつも昼のときから思ってたけど、食べるスピードもえげつないし 量もえげつないんだよね名前… 」
「 そう言えばお昼を食べ終わった後、いつも物足りなさそうにしてますもんね名前さん 」
「 蝕喰の意外な面見つけたわ 」