16


「 はい、じゃあ補習を始める 」

午後10時30分。嗚呼 一体この補習は何時まで有るんだろう、眠たいなあ

黒板に書かれた図、
広げられた教科書にノート、

これ全部、期末前の座学のヒーロー基礎学で学んだやつだよね! 基礎だよね!

「 1人でも寝たら連帯責任で 30分ずつ補習の時間増やしていくからな 」
「 相澤先生の鬼!地獄!! 」
「 補習になった己を恨め 」
「 ぐうの音も出ねえ… 」
「 ていうか俺たち、実技で赤点とったのに筆記の補習っすか!? 」
「 蝕喰以外はほぼ全員、筆記も赤点に限りなく近いし、筆記の内容が頭に入っていなかったから実技で応用できずに補習なんだろ 」
「 ぐっ……… 」
「 ふ、ぅ…… 眠い 」
「 ダ、ダメだ!!! 寝るな蝕喰!! 寝たら死ぬぞ!! 」
「 死ぬ!? 」

出席番号順に並ばされ、相澤先生のスパルタな指導を受ける。隣の瀬呂くんが完全に白目向いてます!

案の定、見つかって先生の捕縛道具で首を絞められてるドンマイ

「 30分延長 」
「 瀬呂ォ!! 」
「 すいませっっっっ!! 」

本日2度目の瀬呂くんのごめんなさい。終わりの見えない補習地獄が30分延長された、南無。

補習の部分は頭に入ってる筆記の部分だらけだし、わたしはだいぶ楽な補習かも… 多分バカ5人には厳しい補習なんだろうけど

「 蝕喰、筆記は余裕だったからって余裕ぶっこいてると痛い目にあうぞ。今日の内容は簡単でも明日からもっと頭使う内容になるからな 」
「 う゛…… 」

ピカ、と光った相澤先生の目が怖すぎた





隣で寝ているお茶子ちゃんを起こさないよう、忍び足で布団から這い出ると ぶるりと悪寒が背中を走った。タンクトップの紐がずり落ちる、

ぺたりと裸足で廊下を踏めば冷んやりと足の裏が心地いい。ぺたりぺたりと玄関まで向かう

この宿舎で、先生の部屋の明かりだけが灯っていた。男子の部屋も女子も部屋も、疲れ切ったみんなはもうすでに寝静まっていて、先程まで補習をしていた彼らも 今ではすっかり夢の中。

バレないように宿舎を出れば、薄っすらと青い炎が視界に移った

来い、と言うことか

ぐっと地面を蹴って瞬間移動をすれば そこには敵連合開闢行動隊となるメンツが揃っていた。正確にはいない人もいるが。

荼毘、と話しかけると荼毘よりも先にトガヒミコが口を開いた。馬鹿でかい声で

「 あー! 名前ぢゃん! 」
「 声がでけえイカレ女 」
「 だってだって!名前ちゃんだよ! 」

可愛い可愛い!ちゅうちゅうしたい! と暴れまわるトガヒミコ。ちゅうちゅうはされたくないなあ

「 なんだよその傷 」
「 これ? 今日の特訓の怪我 」
「 立派にヒーローごっこやってんじゃねえか元ヒーロー志望 」
「 …… 別に、ごっこじゃないし 」

スピナーはあの保須事件のステインの信者で、本物のヒーロー以外をひどく嫌う。だから ヒーロー志望であったわたしのことが気に食わないのだ。今日もこうやって、くだらないところで突っかかってくる

「 まあまあ 2人とも落ち着いて。それに 蝕喰ちゃん、そんな薄着で外に出たら風邪引くわよ 」

大柄のオカマ、マグネ。前科はどうあれ人柄としてはそんなに悪くはないんだけど…

ここに集まった人達は わたしと同じで 生きやすい世の中に変えたいと思っている人たちがほとんどで、

まあ それはわたしとは 違うやり方で、だけど

彼女の場合は セクシャルマイノリティに関係しているんだろうけど、

『 嫌な世界だと思わない? 固定概念に縛られるこの世界。倫理や価値観に縛られてるこの世界を変えたいと思わないの? 』

いつだったか、彼女とは数回しかあっていないけどそう言われたことがある。

『 こんな世界、変えたいと思うからわたしはヒーローになりたかった 』

そう言うと、彼女は悲しそうに笑った。その顔がどうにも脳裏から離れてくれない。それは、一体どう言う感情だったんだろう

『 個性持ちも無個性も、ヒーローも敵も関係なく過ごせる世界が作れるなら、もっと早くに作れたと思う。今こうやって、ヒーローと敵とで啀み合ってる世の中なのは、ヒーローと敵が共存できなかった証なのかもしれない 』
『 あら、じゃあ蝕喰ちゃんはどうしたらあなた自身が生きやすい世界になるのかしら? 』
『 …… 誰かの生きやすい、は誰かの犠牲の上で成り立ってるのかもしれないから。わたしの犠牲の上で誰かの幸せが成り立つならそれはそれでいいかもしれない 』
『 変わってる子ね 』

人としては、いい人なんだよなあ

ふと、荼毘がその腕でわたしの頬を撫でた。擽ったくて思わず身を捩る。親指がスリスリとわたしの頬を撫でて擽ったい、

荼毘の個性は青い炎。この前、帰り際に教えてくれた綺麗な青い炎、

熱い炎を操る筈なのに その掌は恐ろしいほど冷たかった。まるで、焦凍の右のように

青い、炎

焦凍の冷たい氷に熱い炎。それを混ぜ合わせて丁度よく溶け合ったような、そんな炎

酷く嫌な記憶が脳裏を過ぎった、

『 名前、』

いつだったか 名残惜しそうにわたしの名前を呼んだ、その男を思い出してしまった

わたしはその男をなんと呼び、慕っていた?

その男の名前は、なんだった? 顔は? 声は? わたしとその男との関係は?

数秒、あるいは数分だったかもしれない

目を閉じてその男のことを思いながら冷たいその手に身を委ねていれば「 名前 」と 頭上から声が降り落ちる、

「 …… 合図はわかってるな? 」
「 青い炎が狼煙をあげたら、」

青い炎が狼煙をあげたらもうそれは最後で。

どんな状況であろうとわたしは雄英高校ヒーロー科の生徒ではなくなる。

「 轟焦凍が大切だろ? 」

それはまるで魔法の言葉。
わたしを雁字搦めに縛り付ける、

「 やくそく、だよね? 」