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「 お前、いつまで彼処にいるつもりだった 」

いろんな人の目をかいくぐって、やっとの思いで宿舎を離れて荼毘がいるところへと急げば 少しだけイラついた荼毘が立っていた

遅えよ、そう言ってわたしの元へズカズカと歩み寄ってくる。前髪を鷲掴みにされたかと思うとぶわりと青い冷たい炎が顔全体を包み込んだ

次第に腕や足まで炎が行き渡り、全身青い冷たい炎に包まれる

「 ッぐ…!? あ゛ァ!? 」
「 オイ荼毘! 」
「 お前、俺が彼処に行かなければずっと彼処にいたつもりだろう 」
「 そんな、こと…ッ 」
「 …… まあいい。結果的に来たって事実は変わらないからな 」
「 ッ 」

満足したのか、わたしに当ててた炎を弱め、回収地点である 少し広めの森が開いた場所へと歩き出す。

「 ひゅ、…っ 」

トゥワイスに支えられながら じりじりと完全に焼けただれた顔や腕、足を自分の個性で治す。ふっと掌をかざせばあっという間に焼けただれた後は消え、元の白い腕に戻る、全くもって便利な個性だ、アイツの個性は。

「 …そうだ。そんなことより、荼毘に聞きたいことがあるんだけど。爆豪くんを狙ってるって、どういうこと 」
「 は? なんでお前がそれを 」
「 マンダレイのテレパスで、伝わって来たんだけど。何処かの誰かがわたしら生徒の誰かに情報を漏らしたんだろうけど、…… そんな事はどうでもいい。ねえ、爆豪くんを狙ってるって、どういうことなの? 」
「 …死柄木がお前へちょっとしたサプライズプレゼントだとよ 」
「 爆豪くんを連れ去って、どうするつもり? そもそもどうして爆豪くんを 」
「 よく喋るなあ、お前。…… 轟焦凍が大事なんだろう? 轟焦凍を殺されたくなければ黙って言う事聞いてろよ 」
「 ッ…… 確かに、あの時死柄木は 焦凍に手を出さない、としか約束しなかったけどッ 」

一本取られた… 保須の時、いろいろな事で感情がいっぱいいっぱいだったんだ、…… まさか、わたし以外にも目的があってこの林間合宿の襲撃をしてくるなんて 思っていなかった

「 おいおい蝕喰チャン! 元気出せよ! 」
「 五月蝿いよトゥワイス 」
「 なんだと!? そうだよな、ごめんな! 」
「 開闢行動隊各位に告げる。名前の回収には成功した。爆豪の回収を急げ 」

ああ、もう、… クソ





「 おい荼毘! 無線聞いたか? テンション上がるぜえ! Mr.コンプレスが早くも成功だってよ! 遅えってんだよなあ!? 眠くなって来ちゃったよ! 」
「 そういうな、良くやってくれてる。後はここに戻ってくるのを待つだけだ 」
「 違えだろ!! そうだよな! 」
「 予定では、ここは炎とガスの壁で見つかり難いはずだったんだがな… ガスが晴れてしまってらあ。予定通りにいかないもんだな 」
「 そりゃそうさ! 予定通りだぜ! 」

Mr.コンプレス。彼の個性でいとも簡単に爆豪くんの回収に成功した、らしい。Mr.コンプレスの個性について知らないが、あの爆豪くんを簡単に捕まえるほどの凄い個性なんだと1人感心する

ふと、視線を感じて草叢に視線を移せば バッチリと青山くんと目があってしまった

「 あ、」

思わず声が漏れて急いで口を塞げば 案の定、荼毘が青山くんの方を見ていたのだ、

「 あ、だ…荼毘! 」
「 おい荼毘! そういやどうでもいい事だがよお 脳無ってやつは呼ばなくていいのか? お前の声のみだけに反応するとか言ってたろ? とても大事な事だろ 」
「 …… ああ いけね、なんのために先頭に加わんなかったんだって話だな 」
「 感謝しな! 土下座しろ! 」
「 死柄木から貰った俺仕様の怪物。… 一人くらいは殺してるかな 」

ありがとうトゥワイス…! わたしがトゥワイスに土下座でも感謝でも何なりとする…!

ほ、と一息ついたところで あれえ? と トガヒミコの明るい声が響いた

「 まだこんだけですかあ? 」
「 イカレ野郎、血は取れたのか? 何人分だ 」
「 1人でぇす 」
「 1人ィ!? 最低3人はって言われてなかったか!? 」
「 仕方ないのです。殺されるかと思った! それより名前ちゃぁん! 今日もかあいいねえ ちゅうちゅうしたいねえ! 」
「 トガちゃんテンション高くねえか!? 何か落ち込むことでもあったのか!? 」
「 ふふ〜ん お友達ができたのとぉ、気になる男の子がいたのですぅ 」
「 それ俺!? ごめん無理ィ! 俺も好きだよ 」
「 うるっせえなぁ、黙って……… ん? 」

気配を感じ、荼毘の視線を追うように 騒つく空を見やれば Mr.コンプレスの背後から勢いよく人が複数飛んで来た。まるで突然、重力が戻って来たかのように ずしりと地面に埋まったのだ

お茶子ちゃんの、個性かな

「 オイオイオイ! 知ってるぜェ この餓鬼共! 誰だ!? 」

土煙が晴れれば赤と白のツートンカラーがよく似合う、護りたい人もそこに居た

「 しょう、と…ッ 」

「 かっちゃんと、常闇くん… それに 蝕喰さんを返せ! 」

障子くんに抱えられたボロボロの緑谷くん。嗚呼、まったく彼はまた無茶な戦いをして… そのボロボロになった腕は折れているどころの話じゃないのに

でも彼は、きっとまた 誰かを助けるためにこんな無茶をしたんだろうなあ。

「 Mr.、避けろ 」
「 らじゃ! 冷たッ! 」
「 ぐああッ!? 」
「 緑谷! 障子!! 」
「 死柄木の殺せリストにあった顔だ! 」
「 トガです! 出久くん! うわあ! さっきも思ったんですけど、もっと血が出てたほうがもっとかっこいいよ出久くん! 」
「 緑谷! 」
「 そうですか… 邪魔するんですか。あなた、少しも好みじゃないけど 刺してあげます 」
「 くッ… イカレてるな… 」
「 いってて… 飛んで追ってくるとは 発想が飛んでる 」
「 爆豪は 」
「 もちろん、… ん? 」
「 緑谷! 轟! 逃げるぞ!! 今の行為ではっきりした、個性はわからんが さっきお前は散々見せびらかした右ポケットに入っていたこれ、常闇と爆豪だなエンターテイナー! 」
「 障子くん! 」
「 あの短時間でよく……… 流石、六本腕! 弄り上手め! 」

感心してるMr.を他所に、爆豪くんと常闇くんを取り戻した障子くんと緑谷くんが走り出す。そして その混乱に乗じた焦凍が素早くわたしの左腕を掴み、彼らの後ろを追いかけ始める

嗚呼、この手を離したら多分、きっともう二度と会えない。だからどうか、この手を離さないでいてほしい、このまま何処か遠くへ、わたしを連れ去って欲しい

「 よし、でかした障子! 」

焦凍の個性で氷の壁を作り、追っ手が来ないよう 策に転じている

「 名前! お前宿舎にいたんじゃないのか! ンでこんなところに! 」
「 轟! そんな話は後だ! まずは3人をやつらから遠ざける事を優先にッ…… !! こ、こいつは……ッ! 」
「 USJにいた… 」
「 ワープのッ 」
「 合図から5分経ちました、行きますよ荼毘 」

ぶわりと黒い靄が複数現れた。
開闢行動隊の面々は吸い込まれるように靄の中へ入っていく。そして 黒霧の本体が、わたしの前にもぶわりと現れる

「 ごめんね、出久くん、またね 」
「 とう! 」
「 まて、まだ目標が 」
「 ああ、どうやら走り出すほど嬉しかったようでプレゼントしましたよ。癖だよ、マジックの基本でね。物を見せびらかすって時は、見せたくないものがあるって時だぜ 」
「 ま、まさか俺の氷か! 」
「 そう、氷結攻撃の際にダミーを用意し、ポケットに入れておいた 」
「 クソ! 圧縮して閉じ込める的な個性か! 」
「 右手に持ってるもんが右ポケットに入ってんのを発見したらそりゃあ嬉しくて走り出すさ 」
「 待てえ! 」
「 そんじゃ、お後がよろしいようで 」

Mr.コンプレスがかっこよく去ろうとした刹那、青山くんのネビルレーザーが Mr.コンプレスの頬に直撃。口の中に入っていた爆豪くん、常闇くんの二つの水晶玉が宙へ舞う

それを見た瞬間、するり、と離された手

「 え、… 」

遠くなる背中、寂しくなった左手
わたしよりも そっちを取ったという事実、

「 蝕喰名前。あなたも余り遊びすぎていると死柄木に怒られますよ 」
「 ……… 今、行く 」

黒霧にそう言われ、止まっていた足を動かし 吸い込まれるように靄の中へ身を委ねる

「 くっ! 」
「 悲しいなあ、轟焦凍… 確認だ、解除しろ 」
「 俺のshowが台無しだ 」
「 問題、無し 」
「 かっちゃん、かっちゃああああん!! 」
「 なあ おい、轟焦凍。良かったのか? 名前の大事な手を離して 」
「 ! 名前!!! 」

後ろからわたしの名前を必死に叫ぶ焦凍の声。手を、離さないで欲しかった

「 ……またね、」

これでさよならだ。

どうか、いつか彼がわたしを殺しにくる、素敵なヒーローになりますように。

「 ッ名前!!!!! 」