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もし明日
誰か人を殺めたとして

殺めたその腕で
あなたに抱きついたとして

抱きつかれたあなたは
今日と変わらずに

わたしのことを

XXXXXX、
と 言ってくれるのだろうか





「 おはよう、爆豪くん 」

薄暗いバー。ブラインドの隙間から漏れる陽の光だけがこの部屋を明るくしていた。

チリンとドアからベルを鳴らして入ってくるや否や カウンター席に腰をかけ、俺に話しかけてきやがる。気に食わねえ。

「 よく眠れた? そんなわけ、ないか。ごめんねそんな硬い椅子に座らせたまま一夜過ごさせちゃって。あ、なんか飲む? コーヒー? 」

眉を下げて悪びれた仕草。目の下に薄っすらと浮かぶ隈。寝てないんかコイツ

「 なんでテメェはここにいる 」

全てをぶった切るようにそう問えば 考えるそぶりを見せ、" う〜ん、… 護りたいものを護った結果だから? " そう言った。

『 自分の命に代えても守りたいと思う大切な人ができたとしてね。もし、その人が自分と敵対する組織に人質に取られたとして、…… 人質を助けたかったらヒーロー活動をやめる、ヒーロー活動を続けるのであれば人質を殺す、とでも言われたりしたら 爆豪くんはどうする? 』

あの日、帰りの電車の中でコイツが脈絡のねえ話をし出したのを思い出した。大切な人のために自分を犠牲にするか、自分のために大切な人を犠牲にするか、……

「 そうかよ 」

コイツの護りたいもの、察するに十中八九舐めプ野郎のことで間違いねえ。

舐めプ野郎を護った結果、自分が敵になるとか馬鹿かよマジで。自己犠牲するほど強い女じゃねえくせに

強い女なんかじゃねえくせに 虚勢張って 護りたいモンを護ったっつうわけかよ、

つか、こんな女に護られる舐めプ野郎も舐めプ野郎だ、クッソ腹立つ。

なんなんだ、
なんなんだよこの女は。

デクとも舐めプ野郎とも違え、
なんで俺はこんなにコイツに腹立っとんだ?

なァ、

「 ヒーローになるんじゃなかったんか 」





「 爆豪の様子、どうだった? 」

バーとはまた違う、簡素な部屋に足を運ぶと 死柄木弔がわたしに話しかけた。

" 昨日と何も変わらないよ " そう伝えてベットに腰を下ろす。重みで少しだけ沈んだベット。

普段布団づかいのわたしには慣れない感触。

嗚呼、眠たいな。
なんやかんだで昨日の夜は寝ることが出来なかったから… 朝日は登ったけどわたしは眠ってしまいたいな、

ずるりと身体をベットに預け、半開きの視界で死柄木弔を捉える。何を考えているんだかさっぱりわからん。

「 …… ヒーロー、か 」

ヒーローになるんじゃなかったんか、そう言われた。でも、最早ここまでくると、ヒーローの定義すらわからなくなってしまう。わたしにとってのヒーロー像は オールマイトそのもの。小さい頃から憧れてきた。

でもあくまでそれはわたしの感性。

人によってはオールマイトがヒーロだと思わないことだってある。例によって死柄木弔がそうであるように。

難しい、

世間一般的なヒーローは 一般人がピンチの時に駆けつけ、涙を流す人がいれば涙を拭い、悪の敵と戦うのが仕事である、と わたしは思う。

でも 悪の敵だって人それぞれなんだ。

例えば、自分の親がとんでもない悪党だったとし ヒーローによって罰せられたとして。幼い子供はその事実を把握して自分の親が悪いと腹をくくることができるのだろうか。その子にとっては、育ての大切な大事な大好きな親だったのかもしれないのに。

そうなれば悪はヒーローだ、

そのまま育った子供がいずれ、ヒーローに復讐しにやって来る。

そうしてその子は敵となり、また 運命を繰り返すことになる。

血の繋がりが生み出す悪だってある。

「 ねえ、どうしてヒーローが嫌いなの? 」

彼の地雷を踏んだ。
そんなことはわかってる。

ただ単純に、知りたかっただけなんだ。何がそこまで彼をヒーロー嫌いにさせたのかを。

「 ……… いつかヒーローが助けに来る、そう思ったことはあったよ。まあそれはもう昔の話だけどな 」

意外にも、頬杖をつきながら彼の地雷と思われたその話題に返事が来る

「 ヒーローなんて来ねえよ。」

吐き捨てたその言葉が、やけに悲しそうにわたしには聞こえた。ヒーローが来なかったという事実が、彼の心を蝕み、傷つけた。

ヒーローが来ない悲しみは、わたしだって知ってるから。

かつてのわたしも いつかヒーローが来てくれると信じ、願った。けど ヒーローは来なかった。

でも、

『 だいじょうぶ? 』

「 …… わたしには、手を差し伸べてくれる人がいたんだ 」

『 だいじょうぶ、? ひとりなの? 』

「 昔、わたしがひとりだった時、同じくらいの男の子がわたしに手を差し伸べてくれたんだ、ヒーローだった。間違いなくその男の子は わたしの ヒーローだったんだ 」

わたしはその手を拒絶してしまった。だけど構わずにわたしの手を握ってくれた、ヒーローがいた。オールマイトよりももっと身近な、わたしだけのヒーローが。

「 だから わたしが、」

あの日、あの場所にわたしには焦凍が来た。焦凍が来てくれたおかげでわたしはわたしとして存在することができた。

焦凍という、小さなヒーローのおかげで。

「 わたしが、… 」

だから今度はわたしが誰かのヒーローになってあげる番だ、

「 あなたのヒーローになってあげる 」