06
翌日。酷い寝不足によって生じたクマと、昨日泣き腫らしたがために出来てしまった目の腫れを隠すようにファンデとコンシーラーを塗りたくった。それでも、焦凍にはすぐバレてしまったけども。彼は鋭い人間だ。わたしのことになるとなおさら一段と、
そして、いつものように2人で登校していると、校門の前には夥しい数の報道陣が。どうやら、登校する生徒たちにオールマイトのことを聞きつけているみたいだ。うわあ、絶対に見つかりたくないなあ、なんて思っていると、目敏くわたしたちを見つけた報道陣にたちまち囲まれてしまう
「 君たち!雄英の生徒ね!?オールマイトのことについて 」
「 うるせえ、どけ 」
「 わ、ちょっ 」
出席番号15番、轟焦凍、ホームラン!
見事、その鋭い眼光と有無を言わさない一言で群がる報道陣を蹴散らしました!
彼の背中を追うように、駆け足で校門をくぐると、校門の外とは打って変わって静かな雰囲気に包まれた
「 吃驚したねえ… さすがオールマイト 」
上履きを履きながら、そう言えば そうだな、と短く返事をしてくれた。対して吃驚していないくせに……。涼しい顔で上履きに履き替えた焦凍の背中を軽く叩く
「 いてえ 」
「 痛くないでしょ 」
◇
「 ごめんね、先行っててもらってもいい? お手洗いに寄ってから行くね 」
お昼。今日も例に漏れず、三奈ちゃん 百ちゃん、そして響香ちゃん、わたしの4人でお昼を食べる約束をしていた
朝のHRでは 普通の高校生らしく、クラス委員を決めた。普通の高校生なんか誰だってクラス委員はやりたくない。だが、ここは雄英のヒーロー科。集団を牽引するトップヒーローの素地を鍛えられる、という目的からほぼ全員が手を挙げたのだ。そして飯田くんの提案の元、自己投票有りの投票を行なった結果、なんと緑谷くんが票を3つ集め、クラス委員長に。そして2票を集めた百ちゃんが副委員長に。( ちなみに、わたしは飯田くんにいれた。飯田くんのあの1票はわたしだが、そうすると 彼は自分に入れなかったのか )
あの時の飯田くんの絶望した顔、忘れられないなあ、と 思いつつお手洗いで用を足す
スカートの裾のシワを直し、ハンカチを取り出して手を洗う。手を濡らすその水が、嫌に冷たいと感じた、
−−刹那、けたたましいサイレンの音が校内を劈いた
その音量に慄き、思わず肩を揺らす。すかさず校内放送が入った。校内のセキュリティ3が突破された、と。生徒は速やかに屋外に避難するようにとの指示が出る
セキュリティ3が突破されたのに 屋外に避難するのは愚策では? トイレから出れば生徒がパニック状態に陥り、皆が小さな入り口を目指して走り出していた
「 わ、あッ 」
お昼休み、
ヒーロー科のみならず、普通科、サポート科、経営科、…… 4つの学科の多くの人が食堂には溢れかえっていたのだから 当然、ごちゃついている。足を踏まれ、背中を押され、もう何が何だか
不幸なことに、この状況なのに周りには全く見知った人がいなくて、心細い。この際誰でもいいから 誰か、知ってるクラスの人でも近くにいてくれないかなあ、
「 わっぷ…、ちょ、おさないで…ッ 」
周りの男子生徒の肩に埋もれるように、呼吸が苦しくなった。ちょうど男子生徒の肩口に鼻や口が押し付けられ、酷く呼吸がしづらいのだ。頭に回る酸素が少なくなって、視界がボヤける
寝不足とも相俟って、ズキズキと頭が痛み、混み合う廊下で 思わず膝から崩れ落ちそうになった
「 ッチ、おい こんなとこでぶっ倒れんじゃねえぞ腐敗女 」
「 ば、くごくん… 」
崩れそうになったすんでのところで、偶然居合わせた爆豪くんに支えられてなんとか持ち堪える
腐敗女、ってわたしを指す固有名詞なんだろうか… もう少しましな呼び方があっただろう、そんなことを考える暇もない。酸素が足りなさすぎてクラクラしてしょうがない
「 酸欠ならちゃんと息吸えや 」
「 っふ、…う 」
「 おい深く吸え 」
「 は、っ…ふ、… 」
めんどくせえ、そう言いつつも わたしの背中をさすってくれる爆豪くん。ごった返す人混みから外れるように腕を引かれた
ぶわりと人混みから解放されて、空気が涼しく軽くなった。深く息を吸えば、むせかえるほど肺に空気が入る
「 っけほ、… は、ぁ…ふっ… 」
肺に酸素が回ったものの、相変わらず 震えが止まらなくて、力が入らずに膝から崩れ落ちた。何度かえづきながら呼吸を整えるまでそばに居てくれた爆豪くん。その間に騒動もおさまり、人が四方八方に散ってゆく。そんな人混みからわたしを隠すように、ずっとそばにいてくれたのだ
「 っは、あ…… ありがとう 爆豪くん。もう大丈夫…… 迷惑かけて、ごめんね、」
「 ア? 何がもう大丈夫だよ顔真っ青じゃねえか腐敗女!いいから保健室行ってさっさと休めや!舐めてんのか殺すぞ!! 」
「 ッわ!? 」
頭を思いっきり殴られ、俵担ぎをされる。いつもより高い視線に驚いて、爆豪くんの制服を握りしめてしまう
「 下ろして、歩ける、歩けるよ自分で 」
「 んな真っ青な顔でフラフラ歩かれても目障りなんだよ分かれや!黙って担がれてろクソが!! 」
「 ひっ 」
恐ろしいほどの声量と、口の悪さに怯んでしまう。降ろしてくれそうな気配は微塵もないので、もう一度、ありがとう、と伝えると 鼻を鳴らして歩き始めた
すん、と甘い匂いが鼻を掠めた。リズムよく揺れる身体にだんだんと瞼が下がり、そこで意識が途切れた
◇
「 ああ、良かった。気がついたかい? 」
ぱちり、と瞼を開けば 保健室の先生、もとい リカバリーガールの顔が映った
「 …すみません 」
「 貧血と酸欠だよあんた。昨日はちゃんと寝たのかい? 」
「 昨日は寝つきが悪くて… 」
「 鉄分もちゃんととって、今日は早く寝なよ。ここまで運んでくれた男の子にもお礼をいいなよ 」
リカバリーガールに簡単に診察してもらい、大丈夫だとお墨付きを頂いたので 保健室のソファに置いてあった自分の鞄を持って外に出た
嗚呼、爆豪くんにお礼を言わないと……
開いた携帯には焦凍からのメッセージが。" 教室で待ってる " と、ただそれだけ。時刻を見れば17時を回っていて、午後の授業もとっくに終わっている。急ぎ足で教室に向かう
「 焦凍!ごめ、…ッわ!? 」
「 蝕喰!! 」
「 名前さん! 」
「 名前!! 」
ガラリ、と勢いをつけて扉を開ける。中には三奈ちゃんをはじめとしたクラスメイトが何人か残っていた
「 名前〜〜!大丈夫だった!?倒れたって聞いたけど大丈夫だった!? 」
「 ケロ 心配したのよ、名前ちゃん 」
「 おう蝕喰!大丈夫だったか!? 」
「 蝕喰くん!貧血とは頂けないぞしっかり鉄分をとって休みたまえ! 」
三奈ちゃん、蛙吹さん、切島くん、飯田くん、他にも響香ちゃんに百ちゃん、瀬呂くんに上鳴くんに麗日さん、緑谷くんがいて わちゃわちゃとわたしの心配をしてくれた。それが申し訳なくなって眉を下げてお礼を言えば、「 元気になったなら何より 」と言ってくれた
椅子から立ち上がった焦凍に腕を引かれ、教室を後にする。また明日ね、と手だけを振って。わざわざわたしのことを待っていてくれたみたいなのに、先に帰ってしまって申し訳ない、みんなも気をつけてね、と心の中でひっそりと思う
「 心配かけてごめん、」
「 ……家帰ったら寝ろ 」
「 ん、そうする 」
緩やかな風がわたしたちの間を駆け巡った、
≪ ◇ ≫