蛇寮の銀のひと

入学の儀が終わってから早くも二ヶ月経ち秋も深まったスコットランドは気温が低く、石造りの建物は底冷えがするし、外に面した渡り廊下は冷たい空気が寒く感じられるようになった。

ステラは同寮の友人も出来、相変わらず大広間では視線を感じるものの、(魔法史以外は)毎日楽しく過ごしている。



11月も終わりに差し掛かるある日、ステラは授業の合間に図書館へ寄った事が災いしたのか、階段を間違えて変な場所へ出てしまった。

二ヶ月経ってると言えど、まだ入学したばかり。友人たちには先に行ってと言ってしまったため、一人でうろうろと彷徨い涙目だった。




「君、どうした?」
「……え?」


突然後ろから声を掛けられ、ステラはびくりと肩を揺らした。振り返れば、そこにいたのは自分の寮であるレイブンクローでも話題に出るスリザリンの監督生、通称“蛇寮の首領”。

ひぃ、と声が漏れた。

アブラクサス・マルフォイの名はいつも要注意人物として聞いていたから、ステラにとってアブラクサスはできれば関わりたくない人物トップ3に入っていたのだ。


「君、ステラと言ったね。こんな所で、どうしたのかな」

(な、なんで私の名前を知ってるの……!?)


アブラクサスがステラの名を知っているのは入学式で読み上げられたからであるし、そのアブラクサスは優しく話しかけている。でも、ステラはそんな事に意識が回らなかった。

しかし、このままではどうしようもない。

ステラはよし、と決心をして、背の高いアブラクサスを見上げた。



「あ、あの……道に、迷ってしまって……」
「成る程、迷子か」
「ま、迷子なんかじゃ……」
「迷子だね?」
「…………はい」


ステラは迷子と言われたのが恥ずかしくなり下を向いて否定しようとしたが、アブラクサスの言葉に含まれる威圧に負けた。そんな様子を見て人知れず口角を上げた。


「次の授業は?」
「えっと、変身術で……」
「ふぅん、ダンブルドアか。それなら彼方だ、案内しよう」


道を聞くだけなら大丈夫だろう、と考えていたステラはその提案を受け取り拒否したが、口で説明して分かるのか、と問われれば大人しくお願いするしかなかった。


アブラクサスは銀の懐中時計で時間を確認するとさり気なくステラの荷物を持ち、一生懸命後ろを歩くステラに歩幅を合わせて教室へと向かい始めた。








−出会い−



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