焦る先の闇

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ふっと息を吐き、悟空に関する全てを抱えて自室へと急ぐ。しかし、李塔天に見つからぬように注意を払いながら歩く私を立ち塞ぐ者が居た。


「……観世音菩薩様……」


威圧的な眼差しで私を見下ろし、無言で私の足を止める。それは、一刻も早く自室へ向かいたいという私の焦りを煽り、同時に更なる不安を生んだ。


「なんだ、随分と急いでるじゃねぇか、白羅」

「……いえ、金蝉様より簡易報告書を早急にとの事でしたので。……どうかなさいましたか?」


一滴の汗が背中を滑り、重苦しい空気と相成る。すぐに立ち去りたくともこのお方の前では叶わぬ事で、私はこのお方の言葉を待つしかなかった。


「いや、ただ、お前の茶が飲みたくなっただけだ」


観世音菩薩様は、鋭い眼差しを隠しもせずにそう言うと、私の進路を顎で示した。深い溜め息と深呼吸を繰り返し、自分の立場を再確認する。


「では、お部屋にご案内致します」


一瞬たりとも気を抜いてはいけない。罪を犯し続ける私に味方などは居ないのだから。

平静を装い、いつもの客間に歩を進め、件のお茶を用意したところで観世音菩薩様が口を開いた。


「近頃のナタクの様子はどうだ?」

「どう……と申しますと?」

「他意は無ぇよ。そのまんまの意味だ」


質問の真意を探るように訊ねると、観世音菩薩様は湯飲みに手をかけて私に不敵な笑みを向けて言った。それは全てを知っているかのようで、私を問い質しているようにも思える、一瞬で空気が張り詰めるような笑みだった。


「……お陰様でお変わりなく」

「お陰様で、か」


何かを探るような視線。否、確実に何かを探っているのだ。そう感じた私が、震える手を隠すようにお茶を啜ると、向かいから不穏な声色が突き刺さった。


「チッ、クソ不味い茶だ」


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